道徳性の発達について知りたいです。
小学校では、平成30年(2018年)度から、道徳は、「特別の教科 道徳」になりました。
今回は、「道徳性の発達」について書きます。
道徳性の発達
🟠道徳性の発達
<道徳性とは>
道徳性について、文部科学省が平成29年(2017年)7月に告示した「小学校学習指導要領解説 特別の教科道徳編」に、次のように書かれています。
道徳性とは,人間としてよりよく生きようとする人格的特性であり,道徳教育は道徳性を構成する諸様相である道徳的判断力,道徳的心情,道徳的実践意欲と態度を養うことを求めている。
道徳的判断力は,それぞれの場面において善悪を判断する能力である。つまり,人間として生きるために道徳的価値が大切なことを理解し,様々な状況下において人間としてどのように対処することが望まれるかを判断する力である。的確な道徳的判断力をもつことによって,それぞれの場面において機に応じた道徳 的行為が可能になる。
道徳的心情は,道徳的価値の大切さを感じ取り,善を行うことを喜び,悪を憎む感情のことである。人間としてのよりよい生き方や善を志向する感情であるとも言える。それは,道徳的行為への動機として強く作用するものである。
道徳的実践意欲と態度は,道徳的判断力や道徳的心情によって価値があるとされた行動をとろうとする傾向性を意味する。道徳的実践意欲は,道徳的判断力や道徳的心情を基盤とし道徳的価値を実現しようとする意志の働きであり,道徳的態度は,それらに裏付けられた具体的な道徳的行為への身構えと言うことができる。
小学校学習指導要領解説道徳編
道徳性の発達は、外の世界を知的にとらえる力の発達と他者の視点に立って考える力の発達に支えられて成り立っていきます。
子どもは、その発達の流れの中で、自分と他者の視点の分化や関連づけが進み、自分の視点とは異なった様々な視点に立てるようになります。 他者の内面の理解が進み、自己を抑制しつつ自分らしさを形成していくことができるようになります。
<道徳性の発達>
道徳性は、子どもの年齢や成長などによって変化していきます。
道徳性についてきちんと認識するためには、道徳について発達的な観点から研究し、理論を構築した研究者の考えについて知っておくことは大切なことです。
道徳の発達的な観点からは、ピアジェとコールバーグという2名の研究者の理論が有名です。
ここでは、2人の考えについて説明します。
ピアジェは、「規則に対する認識の発達(道徳的判断)」について、コールバーグは、「道徳性の発達段階」について研究しています。
<ピアジェによる道徳性判断の発達理論>
ピアジェは、スイスの心理学者です。1896年生まれで、1980年に亡くなりました。
ピアジェは、子どもたちの道徳的判断の獲得や発達は、認知発達と関連すると考えて理論化しました。
ピアジェによると、生まれてきたばかりの子どもは、倫理観が皆無で、良し悪しを判断する脳が育っていません。
子どもが成長する過程で脳の発達や教育、しつけなどから、少しづつ道徳的な判断を発達させていくと考えました。
ピアジェは、道徳性の本質を、「規則の尊重」に見出し、規則についてどう考えるかによって、子どもを3つの段階に分けました。
第1段階:5歳以前
「守らなければならない」ものとしての規則に関する意識や関心はなく、自らの欲求に従って行動する段階。
第2段階:6~9歳
規則は神聖不可侵なものとして絶対遵守され、子どもの行動に対して強い拘束力をもつ段階。
第3段階:9、10歳以降
規則は集団の合意によって制定され改変可能なものとしてとらえられる段階。
<コールバーグの発達段階>
コールバーグは、アメリカの心理学者です。1927年生まれで、1987年に亡くなりました。
道徳性発達段階の理論について、3水準6段階の発達段階を提示しました。
第1水準「前慣習的水準」
段階1:罰と服従への志向
罰の回避と力への絶対的服従がそれだけで価値あるものとなり、罰せられるか褒められるかという行為の結果のみが、その行為の善悪を決定します。
段階2:道具主義的相対主義への志向
正しい行為は、自分自身の欲求や利益、場合によっては、自分と他者の欲求や利益を満たすものとして捉えられます。
具体的な物・行為の交換に際して、「公正」であることが問題とされはするが、それは単に物理的な相互の有用性という点から考えられています。
第2水準「慣習的水準」
段階3:他者への同調、あるいは「よい子」への志向
善い行為とは、他者を喜ばせたり助けたりするものであって、他者に善いと認められる行為です。多数意見や「自然なふつうの」行為について紋切り型のイメージに従うことが多いです。行為はしばしばその動機によって判断されます。この段階では、「善意」が重要となります。
段階4:「法と秩序」の維持への志向
正しい行為とは、社会的権威や定められた規則を尊重しそれに従うこと、すでにある社会秩序を秩序そのもののために維持することです。
第3水準「習慣以降の自律的・原則的水準」
段階5:社会契約、法律尊重、および個人の権利志向
規則は、固定的なものでも権威によって押し付けられるものでもなく、そもそも自分たちのためにある、変更可能なものとして理解されます。
正しいことは、社会にはさまざまな価値観や見解が存在することを認めたうえで、社会契約的合意にしたがって行為するということです。
段階6:普遍的な倫理的原理への志向
正しい行為とは、「良心」にのっとった行為です。良心は、論理的包括性、普遍性ある立場の互換性といった視点から構成される「倫理的原理」にしたがって、何が正しいかを判断します。
<ギリガンの「配慮と責任の道徳性の発達段階」>
コールバーグは、自分の理論は、文化普遍的なものであるとしています。
それに対して、ギリガンは、コールバーグの理論は、西洋文化中心の考えであり、非西洋風の文化には当てはまらない、また、男性の発達段階であり、女性は、違った形で道徳性が発達していくとしています。
ギリガンの考える女性独自の道徳性の発達とは、「配慮と責任の道徳性」です。
女性にとっての道徳性とは、他者に配慮し、傷つけないこと義務として考えられているとしました。
キリガンの考える「配慮と責任の道徳性の発達段階」は、次の通りです。
レベル1:個人的生存への志向
自分の生存のために、自分自身に配慮することに限定されています。
移行期1:利己主義から責任性へ
自分の欲求と、他者とのつながりを大切にしなければならない責任の間に、葛藤をおぼえます。
レベル2:自己犠牲としての善良さ
善良さが前面に出ますが、これは女性の慣習によるものです。自己の欲求への葛藤は、自己犠牲という形で解決します。
移行期:善良さから真実へ
他者に対してと同時に、自分の欲求に対しても目を向けるようになります。
レベル3:非暴力の道徳性
配慮と責任は、他者と自分の両方に向けられ、他者を傷つけないし、自分も傷つかないことが道徳的選択の重要な指針になります。
実際の道徳の時間の授業の進め方や評価の仕方などについては、次のページを見てください。
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