「走れ」の教材分析について知りたいです。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることが大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、「走れ」です。
走れ:教材分析
🟠走れ:教材分析
この教材は、東京書籍の4年上に掲載されています。教育出版にも付録として4年下に載っています。
使われている漢字や、表記の仕方は教科書により微妙に違います。
ここでは、東京書籍の教材文を中心に教材分析することにします。
<作者>
村中李衣(むらなか・りえ)作
渡辺有一(わたなべ・ゆういち)絵(東京書籍)
出典:「走れ」(岩崎書店・1997年)
村中李衣さんについて
1958年山口県で生まれました。日本の児童文学作家、絵本作家、児童教育学者です。
本名は、高橋久子さんです。
1977年筑波大学に入学しました。卒業後、1981年日本女子大学大学院に入学し、児童文学を学びました。
1993年大学院修了後、創作活動に専念されました。
1990年梅光女学院短期大学助教授になります。その後、1999年に教授になります。
2004年梅光学院大学教授を経て、2014年ノートルダム清心女子大学教授になり、現在も続けておられています。
日本児童文学者協会会員、日本児童文学会会員、絵本学会会員です。
<題名>
題名は「走れ」です。
題名を読むだけでは、誰かに、「走れ」と伝えている物語なのかなと思います。
<設定>
いつ(時):家のベランダ
どこ(場所):運動会の朝。
だれ(登場人物):のぶよとけんじ
<人物>
のぶよ……主人公。四年生の女の子。
けんじ……のぶよの弟。二年生。
お母ちゃん……のぶよとけんじの母。弁当の仕出し屋さん。
<あらすじ>
・朝、ベランダで、のぶよは三人分のふとんをたたむ。
・春の運動会の日。足のおそいのぶよには、ゆううつな日。
・弟のけんじが「今日は、お母ちゃん、ぼくが走るまで来てくれるよね。」と聞いてくる。
・「たぶん。」と答えるのぶよ。二人のお母ちゃんは、駅前で弁当の仕出し屋さんをしている。
・父がなくなり、お母ちゃんは、一人でがんばり、行事のある日は、朝暗いうちから仕事に行く。
・去年の運動会は、店の手伝いの人がお昼の弁当をとどけてくれた。
・一年生のけんじは、一等の走りの後、母がいないことを知り、けんじは大べそをかいた。
・三年生だったのぶよは、けんじのなぐさめと、自分の短きょり走で心がぐしょぐしょだった。
・「絶対に来るさ。きのう、約束したもん!」とけんじがむきになって言う。
・プログラムは進み、二年生の短きょり走が始まる。門で母を待つが、母のバイクは見えない。
・けんじの番がきた。けんじは保護者席を見た。が、すぐ前をにらんだ。
・ピストルが鳴り、一気に飛び出す。速い、速い。けんじは一位でテープを切る。
・「けんじはもう走っちゃったかい」母がかけつけたとき、けんじの短きょり走は終わっていた。
・昼休み、二年生の席にけんじをむかえに行った母は、「一等だったんだって? やるなあ。」
・けんじは下を向いて、返事をしない。母は、弁当包みをのぶよに手わたした。
・のぶよが包みを開くとけんじがつぶやく。「え? これなの?」
・「これって?」お母ちゃんが笑いながら聞き返す。
・「ぼく、今日は特製のお弁当作ってって、言ったのに。」
・お母ちゃんは、お弁当の説明をするが、気にいらないけんじはかけだしていく。
・お母ちゃんは、だまって、おにぎりを食べる。お母ちゃんのひざから、わりばしが二つ。
・そこには、「けんじ一等賞だ!」「のぶよ、行け!」の文字。けんじに見せにいく。
・水をかぶ飲みするけんじに、のぶよは、だまってわりばしを見せた。
・お昼ぬきで、午後の競技が始まり、のぶよの出る四年生の短きょり走になる。
・のぶよの番になり、頭の中が真っ白になっていく。耳のおくで、ピストルの音を聞く。
・走ろうとするが、体が重い。母のショックや弟のさみしさもおしよせ、どんどん重くなる。
・もう走れないと思った時、ふいに、せなかに二つの声がかぶさる。
・「姉ちゃん、行け!」「のぶよ、行けっ!」「走れ! そのまんま、走れ!」
・二人の声に、おしりが軽くなる。いろんな思いもするするほどけていく。
・「はい、君がラストね。」という係の声。ラストという言葉が、ほこらしく聞こえる。
・退場門には、けんじとお母ちゃんが立っていた。
「へたくそ。」というおこったようにいうけんじ。そばでにかっと笑うお母ちゃん。
・いきなり、けんじが走り出す。のぶよも、追いかけて走り出す。
・「おなか、へったぞう。」というけんじ。「おなか、へったよう。」とこたえるのぶよ。
・二人は走った。走りながら笑った。笑いながら走り続けた。
<場面>
ここでは、このブログで紹介している5場面に分け、1場面を40字程度にまとめてみます。
① 朝、のぶよは弟から「運動会、お母さん来るかな」と聞かれる。昨年は来れなかった母。
② 弟の短きょり走なのに母はまだこない。一等になる弟。遅れてやってきた母。
③ 母の弁当が気に入らないで、食べずに水を飲みに行く弟に母のおうえんの文字を見せに行く。
④ お昼ぬきで自分の短きょり走が始まる。体が重いところに母と弟の「走れ」の声が聞こえる。
⑤ 走った後 「君がラストね。」がほこらしく聞こえた。そして、弟と二人で笑いながら走った。
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<人物の会話>
○ 会話について
この物語には、重要な会話がいくつかあります。
・一番重要な言葉は、題名に関係の深い「走れ」と言う言葉です。
おなかもすき、母のショックと、弟のさみしさとを感じつつ、目の前にせまる短きょり走。そののぶよのせなかに、二つの声がかぶさります。
「姉ちゃん、行けっ!」
「のぶよ、行けっ!」
「走れ! そのまんま、走れ!」
・この応援の声の前には、弟がさみしく感じたことにつながる、弟のいくつかの言葉があります。
「ね、ね、今日はお母ちゃん、ぼくが走るまでに来てくれるよね。」
「絶対に来るさ! きのうの夜、ちゃんと約束したもん!」
でも母は遅れてきます。その上、約束した特製弁当でもありません。
「え? これなの?」
「ぼく、今日は特製のお弁当作ってって、言ったのに。」
「こんなんじゃいやだ。お店で売っているのと同じじゃないか。」
「もう行く。」
・母も本当は、2人の子どものことをとても大切にしています。それは、次の会話からよくわかります。
「けんじはもう走っちゃったのかい?」
「お姉ちゃんに聞いたよ。また一等だったんだって? やるなあ、けんじは。」
「店の人に後の仕事をたのんで出かけようとしたら、まとめて弁当の注文が入ったんだよ。三十個だからねえ。その代わり、ほうら。」
そして、特製弁当でないとおこるけんじに続けていいます。
「だから、見てごらんよ。このからあげ、今日は、特上のもも肉ふんぱつしたんだから。あつ焼きたまごだって。いつもの三倍くらいあるよ。それにさ……。」
こうして、一人一人に焦点を当てて、その人物の会話だけを見ていくと、その人物の気持ちがわかってきます。
○ 行動について
行動からもいろいろわかります。
弟が運動会にお母ちゃんが来るのをとても楽しみにしているのは、次の行動からわかります。
1つめは、歯みがきしているときの行動です。
・けんじが、むきになって歯ブラシをふり回した。
・パッ、パパッ、パーンと、空をつきやぶるように、花火があがった。
2つめは、短きょり走のときにお母ちゃんの姿が見えないときです。
・けんじは、保護者をちらりと見た。が、すぐにまっすぐ前をにらんだ。そして、ピストルが鳴ったしゅん間、一気に飛び出した。
3つめは、母の応援のメッセージの書かれたわりばしの文字を見たけんじの行動です。
・けんじは、しばらくその文字をにらんでいたが、ぼうしをぐっとかぶり直すと、二年生の席へかけていった。
母が、二人のことをとても大切に思っているのは、次の行動からわかります。
1つめは、おくれてきた時の母の様子です。
・かけつけたお母ちゃんは、かたで息をしながらグランドをのぞきこんだ。
2つめは、お母ちゃんなりに精いっぱい、いい弁当を作ってきたと感じられる次の行動です。
・お母ちゃんは、むねをはって、くいっと、弁当包みをのぶよに手わたした。
3つめは、お母ちゃんが二人のわりばしに文字を書いてきたことです。
・お母ちゃんのひざから、わりばしが二つ、かさりと落ちた。店の名前入りの見なれたわりばし。その紙のふくろに、お母ちゃんのごちごちした文字で、一つずつ、「けんじ、一等賞だ!」「のぶよ、行け!」と書かれていた。
こうして、一人一人に焦点を当てて、その人物の行動だけを見ていくことでも、その人物の気持ちがわかってきます。
例えば、「けんじが運動会にお母ちゃん来ることをとても楽しみにしていた会話や行動をさがしてみましょう」とか「お母ちゃんが、二人のことを大切にしていることがわかる会話や行動をさがしてみましょう」という発問をすることで、物語全体から、弟やけんじの思いを探すことができると思います。
<主題>
この物語の主題は、何でしょうか?
「家族の愛情」なのかもしれません。
家族二人のの「走れ」と言う言葉を聞くことで、あまり得意でなかったのに、走っている途中で「おしりが軽くなる。」そして、「次のしゅん間、体にからみついていたいろんな思いが、するするとほどけてい」くことになります。
びりになっても、「はい、君がラストね。」という係の声を聞いても、「ラストと言う言葉が、こんなにほこらしく聞こえたことは、初めてだった」という気持ちになります。
全ては、母と弟、二人の「走れ」という応援のおかげです。
そこに二人の愛情を感じたから、のぶよは、このように感じたのだと思います。
<表現の工夫>
この物語文には、さまざまな表現の工夫があります。
1つは、人の様子を表す慣用句です。慣用句というのは、「2つ以上の言葉が硬く結びつき全く異なる意味をもつもののことです。
次のような慣用句があります。
・大べそをかいた。
べそをかく=子どもが今にも泣きそうな顔をすること。
・けんじが、むきになって歯ブラシをふり回した。
むきになる=必要以上に真剣になったり、腹を立てたりすること。
・お母ちゃんは、むねをはって、くいっと、弁当包みをのぶよに手わたした。
・むねをはる=得意になった様子を見せること。
2つめは、運動会の楽しい様子やにぎやかな様子などが上手に表されていることです。
朝から花火があがることなんて本当はありません。でも、けんじがむきになって、歯ブラシをふり回し、歯ブラシについた泡が飛び散る様子を次のように表現しています。
・パッ、パパッ、パーンと、空をつきやぶるように、花火があがった。
子どもの中には、本当に花火があがったのかなと思う子どももいると思います。
また、のぶよの短きょり走が始まる番が来るまで次のような表現があります。
・四年生の短きょり走になった。一列スタートするたび、ぱっとすなぼこりが上がる。次の列がさわざわ前進する。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「物語文の教材研究の仕方」に挙げた10個の視点のうち、最後の指導計画を除いた9つの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
⭐️ ⭐️
物語文の教材研究については、次のページもお読みください。
物語文の教材研究の仕方(1)基本的な考えに進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(2)視点に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(3)設定・人物に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(5)会話・行動に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(6)主題に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(7)表現の工夫に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(8)指導法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(9)指導方法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(10)目標と教材の関係に進む(内部リンク)
他の教材の教材分析については、次のページをお読みください。
こわれた千の楽器 教材分析037に進む(内部リンク)
一つの花 教材分析053に進む(内部リンク)
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