観点②どのような力を身につけさせたいか:修士論文10

修士論文
つばさ
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観点2:どのような力を身につけさせたいか」について書きます。

 修士論文の10回めです。

 今回は、「授業づくりの観点2〕:子どもにどのような能力を身につけさせたいか考える」について書きます。

〔観点2〕子どもにどのような能力を身につけさせたいか考える:修士論文10

イラスト:「無料イラスト素材集・性教育いらすと」より活用させていただいています。

🟠〔観点2〕子どもにどのような能力を身につけさせたいか考える:修士論文10 

 今回は、「第3章:授業づくりの観点」の中の「第2節:〔観点2〕子どもにどのような能力を身につけさせたいか考える」について書きます。

<指導のねらいを絞る>

 前回観点1において、子どもの実態を考慮することの大切さを述べたが、次に考える必要のあることはその授業において、どのような能力を育てたいのか、学習のねらいを絞るということです。前回、「必要な場において、最低限必要なことを話し、自分にとって最低限必要なことを聞ける子ども」を育てたいと述べたが、このことは、一つの授業の目標として大きすぎるし、一つの授業だけでは達成できないことです。そこで、もう少し細かい目標も考える必要があるでしょう。

 細かい目標をたてるためには、いくつかの方法があります。

 一つの方法としては、学年としての大きな目標を立て、そこから各学期の目標、1つの授業の目標というように計画的に目標を考える方法があります。

 もう一つの方法としては、目の前の子どもに必要な能力を考え、それを達成するにはどのような目標を立てればいいかということを考える方法があります。

 前者は、トップダウンの考え方、後者は、ボトムアップの考え方です。実際には、この両者の考えを取り入れて、授業のねらいを絞っていく必要があります。

 私は、その学年の終わりには、この程度の能力が育っていてほしいという大まかな目標を立てつつ、その時々の子どもの実態を考慮しながら、授業毎の目標を立てるのがよいのではないかと考えます。

 このことは、音声言語指導の年間計画をどのように立てるのかということとも関係するのですが、年度当初に子どもの実態が、ある程度わかったときに、学年度末までの大まかな目標を定め、それを達成できるような、ゆるやかな計画を考えた上で、子どもの成長に合わせて、計画を見直し、一つ一つの授業を積み重ねていくという方法がよいのではないかと考えます。

<学習指導要領を考慮する>

 次に、学年としての大まかな目標の立て方について考えます。学年としても目標を立てる際には、学習指導要領が参考になると思います。そこで、平成10年に告示された新学習指導要領・国語編の「話すこと・聞くこと」の領域に記述されている目標と内容の紹介をすることにします。新学習指導要領(平成10年版)では弾力的な運用ができるように、今回から1学年毎の目標ではなく、2学年毎の目標になっています。

第1学年及び第2学年

〔目標〕

相手に応じ、経験した事などについて、事柄の順序を考えながら話すことや大事な事を落とさないように聞くことができるようにするとともに、話し合おうとする態度を育てる。

〔内容〕

ア 知らせたい事を選び、事柄の順序を考えながら、相手に分かるように話すこと。イ 大事な事を落とさないようにしながら、興味をもって聞くこと。

ウ 身近な事柄について、話題に沿って、話し合うこと。

第3学年及び第4学年

〔目標〕

 相手や目的に応じ、調べた事などについて、筋道を立てて話すことや話の中心に気を付けて聞くことができるようにするとともに、進んで話し合おうとする態度を育てる。

〔内容〕

ア 伝えたい事を選び、自分の考えが分かるように筋道を立てて、相手や目的に応じ た適切な言葉遣いで話すこと

イ 話の中心に気を付けて聞き、自分の感想をまとめること。

ウ 互いの考えの相違点や共通点を考えながら、進んで話し合うこと。

第5学年及び第6学年

〔目標〕

目的や意図に応じ、考えた事や伝えたい事などを的確に話すことや相手の意図をつかみながら聞くことができるようにするとともに、計画的に話し合おうとする態度を育てる。

〔内容〕

ア 考えた事や自分の意図が分かるように話の組立てを工夫しながら、目的や場に応 じた適切な言葉遣いで話すこと。

イ 話し手の意図を考えながら話の内容を聞くこと。

ウ 自分の立場や意図をはっきりさせながら、計画的に話し合うこと。

平成10年 学習指導要領

 この指導要領は、系統性も考えてあり、内容も、話すこと、聞くこと、話し合うことの3つの観点から述べています。この目標並びに内容を金科玉条のように考える必要のでしょうが、一つの指針として大変参考になるものだと考えます。

 ただ、このままでは、授業づくりとして考えた場合、大まかすぎるような気がします。この目標や内容も参考にしながら、もう少し詳しく目標を絞っていく必要があります。

<過去の研究を参考にして、自分なりの音声言語指導の能力表をつくる>

 そこで、授業づくりにおいては、発達の段階や系統性を踏まえて、もう少し細かい音声言語の能力表のようなものをつくり、子どもの実態把握や授業づくりの指針にするとよいでしょう。

 いきなり自分なりの音声言語の能力表をつくれない場合は、過去において、研究者が考えた音声言語の能力表やカリキュラム試案を参考にするとよいでしょう。ここでは、まず、3つの先行研究を紹介します。

 1つ目は、昭和26年度版学習指導要領(試案)に書かれた「能力表」です。(※1

 2つ目は、高橋俊三さん編集の「音声言語大事典」所収の中村敦夫さんによる「音声言語指導の能力表」です。(※2)

 3つ目は、村松賢一さんの書かれた「いま求められるコミュニケーション能力」所有の「カリキュラム試案」です。(※3)

 1の能力表は、「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと(作文)」「書くこと(書き方)」の五領域について、国語のさまざまな能力が、発達段階に即して組織的に配列されています。

 ここでは、今回の実践を2年生で行っていることもあり、2年生の「聞くこと」「話すこと」の能力に絞り、抜き出すことにします。

(聞くことの能力)

1 話を楽しんで聞くことができる。

2 放送を聞いて楽しむことができる。

3 話の粗筋をつかむことができる。

4 かわるがわる話を聞いたり、話したりすることができる。

5 話しぶりのよしあしがわかる。

(話すことの能力)

1 立ったりすわったりする動作や姿勢に気をつけて、話すことができる。

2 はっきりと、人にわかるように話すことができる。

3 ゆっくりと落ち着いて、注意深く話すことができる。

4 適当な順序を立てて、注意深く話すことができる。

5 話題を選ぶことができる。

6 家庭のことや社会の簡単なできごとについて話すことができる。

7 読んだり聞いたりしたことについて、話すことができる。

8 身ぶりを用いて、見たり、聞いたり、読んだりしたことを劇化することができる。

昭和26年版学習指導要領

 2の能力表は、「話すこと」「聞くこと」「話し合うこと」「読むこと」「音読・朗読・郡読」の4つにわけて表にまとめています。縦にそれぞれの内容項目を35程度とり、横軸を「小学校低学年・中学年・高学年」「中学年前期・後期」「高校」の6つの発達段階で分けています。そして、それぞれの段階で高めるべき能力について、重点指導事項を○、最重点指導事項を◎で表示しています。1の能力表のように、学年別ではなく、概ね学年ずつに分けて例示しているのは、子どもの発達の幅を考慮したためでしょう。

 ここでは、小学校低学年の最重点項目に絞り抜き出すことにします。

(話すことの能力・全33項目のうち低学年は13項目)

1 興味をもったことを進んで話す。

2 姿勢や口形に注意して話す。

3 はっきりした発音で話す。

6 内容の軽重をつけて話す。

9 経験したことがらの順序を考えて話す。

(聞くことの能力・全37項目のうち低学年は10項目)

1 おしゃべりをしないで聞く。

2 集中して聞く。

3 最後まで聞く。

4 話し手を見ながら聞く。

(話し合うことの能力・全33項目のうち低学年は3項目))

1 相手の話しを受け、話題に合わせて話す。

(音読・朗読・郡読の能力・全35項目うち低学年は16項目))

2 大きい声を出す。

4 姿勢や口形に注意して音読する。

5 はっきりした音声で音読する。

6 語や文のまとまりを考えながら音読する。

音声言語大事典

 3のカリキュラム試案は、高校卒業まで、中学卒業まで、小学校卒業まで(小学校に関しては3つに細分化している)いう到達度をめざしたもので、①目標とされる主なコミュニケーション能力、②言語技術、③活動形態、④態度、⑤知識、⑥留意点の6つに分けて作成されています。

 ここでは、「小学校低学年を終える段階で、どのような能力、態度、知識を身につければよいか」ということに絞り、抜き出すことにします。

① 目標とされる主なコミュニケーション能力

・人と会話することに積極的になる。

・進んで発言する。

・あいさつがきちんとできる。

・訊かれたことに答えられる。

② 言語技術

・一つの話題をめぐって少し長い対話ができる。

・交代して話す。

・相手の内容を受けて話す。

・一定の時間、人の話をしっかり聞ける。

・相手の目を見て話す。

・幼児語から卒業する。

③ 活動形態

おしゃべり、対話(話題をきめた話し合い)

④ 態度

・対話の楽しさを知る。

・友だちの話をよく聞く。

⑤ 知識

・ ことばの主な働きを知る。

⑥ 留意点

 1、2年生は友だちとの楽しい対話をふんだんに経験させ、話しぎらいをつくらないようにする。また、対話(ことばのキャッチボール)の感覚を身体で覚えさせたい

「いま求められるコミュニケーション能力」所有の「カリキュラム試案」

 以上の能力表などを参考にして低学年用に作成した能力表の試案は、次の通りである。

(話すこと)

知らせたい事を選んで話す。

事柄の順序を考えながら話す。

はっきりと話す。

ゆっくりと話す。

姿勢や口形に注意して話す。

相手の目や相手の方を見て話す。

楽しみながら話す。

絵や実物なども活用しながら話す。

相手に分かるように話す。

声の大きさを考えて話す。

(聞くこと)

話を楽しんで聞く。(興味をもって聞く)

おしゃべりをしないで聞く。

集中して聞く。

最後まで聞く。

話し手の方を見て聞く。

(話し合うこと)

交代して話す。

聞いて分からないことを質問する。

聞いた感想を話す。

<第3章第2節の※の出典>

(1)文部省 昭和26年 学習指導要領(試案)

(2)中村敦夫さん 1999年 高橋俊三さん編 音声言語指導大辞典 明治図書 PP22-26

(3)村松賢一さん 1998年 いま求められるコミュニケーション能力 明治図書 PP118-130

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