発達障がいの子どもについて、詳しく書かれたいい本があります。
小学校には、様々なタイプの子どもがいます。
その子どもの中には、特別な医学的な教育的な支援を必要とする子どもがいます。
今回は、「発達障害の子どもたち」という本について紹介します。
発達障害の子どもたち:杉山登志郎著
🟠発達障害の子どもたち
今回、「障害」と「障がい」という2つの表記を併用します。本書や法律からの引用の場合は、「障害」を用い、それ以外では、「障がい」を用いることにします。
<杉山登志郎さんについて>
今回紹介する「発達障害の子どもたち」という本は、杉山登志郎さんによって執筆され、2007年に講談社現代新書として出版されました。
杉山登志郎さんは、1951年生まれです。久留米大学医学部卒業です。医学者であり、精神科医でもあります。2022年現在、福井大学医学部附属病院の客員教授です。
長年、高機能自閉症、アスペルガー症候群など多くの発達障がいの子どもの診察を行い、適切な医療的な支援や教育的な支援の方法についてのケアを行ってこられました。子どもの虐待に関しても強い関心をもっておられます。
杉山登志郎さんは、発達障がい者を幼少期から成人期まで長期間、診てこられましたので、たくさんの具体的なデータを持っておられます。
<発達障がいに関する考えの変化>
障がいをもつ子どもたちに関する考え方が随分変化してきています。つい最近まで「障がい」の「がい」の字は漢字の「害」を使っていましたが、平仮名で書くことが多くなりました。このような変化は、1つは、法律などが改正され、特別支援教育に関する国や地方自治体などの考えが変わってきたからだと思います。
教員養成においても、特別支援学校で教育実習をすることが当たり前になりました。また、高学歴の保護者も増え、特別支援教育や発達障がいに関する知識や人権感覚をきちんともつ保護者が増えてきたことも要因だと思います。
その上、発達障がいに関する医学的な知見は日々進歩しています。私たち教職員は専門家の中に位置づけられますが、実際に担任になって個別に対応しないと知らないままのことも多いのが実際です。
そこで、今回は、日々、発達障がいをもつ子どもと接する機会の多い医師である杉山登志郎さんの本を紹介する中で、発達障がいの子どもへの支援などについてお伝えします。
<「発達障害の子どもたち」という本>
この本は、大きく次の10の章からできています。
第1章 発達障害は治るのか 第2章 「うまれつき」か「環境」か
第3章 精神遅滞と境界知能 第4章 自閉症という文化
第5章 アスぺルガー問題 第6章 ADHDと学習障害
第7章 子ども虐待という発達障害 第8章 発達障害の早期療育
第9章 どのクラスで学ぶか―特別支援教育を考える
第10章 薬は必要か
発達障害の子どもたち
各章を一覧するだけでも、この本が発達障がいの子どもに対する基本的な考えについて網羅して書かれていることがわかります。
私が、この本を読んで一番印象に残ったのは、第1章の「発達障害は治るのか」という部分です。一部を引用します。
世間に広がる誤解
以下に挙げたのは、発達障害に関して特に学校進学をひかえた子どもを抱えるご家族から聞くことが多い意見である。読者のみなさんは、おのおのについての是非をどのように思われるだろうか。
・発達障害は一生治らないし、治療方法もない。
・発達障害児も普通の教育を受けるほうが幸福であり、また発達にも良い影響がある。
・通常学級から特殊学級(特別支援教室)に変わることはできるが、その逆はできない。
・養護学校(特別支援学校)に一度入れば、通常学校には戻れない。
・通常学級の中で周りの子どもたちから助けられながら生活することは、本人にも良い影響がある。
・発達障害児が不登校になったときは一般の不登校と同じに扱い登校刺激をしないほうがよい。
・養護学校卒業というキャリアは、就労に際して著しく不利に働く。
・通常の高校や大学に進学ができれば成人後の社会生活はより良好になる。
・発達障害は病気だから、医療機関に行かないと治療できない。
・なるべく早く集団に入れて普通の子どもに接するほうがよく発達する。
発達障害の子どもたち
いかがでしょうか?
ここに書かれている10個の意見を見て、一見全て正しいことのように感じられる人もいるのではないでしょうか。あるいは、発達障害に対する知識のない人にとっては、どちらが正しいのかまったくわからない人もいるかもしれません。杉山さんは、次のように続けます。
これらはすべて、私から見たときに誤った見解か、あるいは条件付きでのみ正しい見解であって一般的にはとても正しいといえない。
発達障害の子どもたち
医者であり、長年、発達障がいをもつ子どもやその家族に対して教育的な支援も行ってきた杉山さんから見たら、上記の10個の意見は全て間違った見解なのです。
発達障がいをもつ子どもの保護者の意見の中には、事実ではない、誤った考えも多いみたいです。
杉山さんは、この後、具体的な2名の子どもの成長と就職の状況などを比較しながら、上記の意見が必ずしも全ての子どもにあてはまることではないことについて、具体的な例を挙げながら説明しています。
<この本のよさ>
「第4章 自閉症という文化」では、自分では言葉で表現できない自閉症の子どもの特性が解説されています。目から鱗が落ちるような内容がたくさん書かれています。まるで、自閉症者の心情を代弁してくださっているような記述がたくさんあります。
自閉症の子どもの症状は、一人一人違います。自閉症の子どもが住む世界について具体的に記述されています。
「第5章 アスぺルガー問題」では、知的な障がいをもたない自閉症(高機能広汎性発達障がい)の子どもの成長の困難さについて書かれています。幼児期においては、集団行動に困難さを感じる子どもが多いことについて書かれています。
学校生活では、他者と関係を結ぶことが困難なことから、いじめに遭う機会が多いことについても触れられています。
また、このような子どもの中には、不登校になる子どもが多いことについても書かれています。筆者が診察した466人の高機能広汎性発達障がい者(対象年齢:3~50歳)の中に56名、12%が、不登校になった経験があることについても触れられています。
不登校になる子どもの中には、知的な障がいをもたない自閉症(高機能広汎性発達障がい)の子どもがたくさんいます。しかし、保護者も気づかないことも多く、適切な医療的な診断がされないまま、適切なケアが施されていないケースもたくさんあるそうです。
発達障がいがあっても、適切な診断や教育的な支援などがあれば、快適な学校生活や幸せな人生を送ることができます。一人でもつらい思いをする発達障がいの子どもがいなくなるためにも
多くの教育関係者や教員、保護者などに読んでほしい本です。
なお、この本が購入できるページには、次のところから行けます。
発達障害の子どもたちの購入できるページに進む(外部リンク)
特別支援教育や発達障がいに関係するページも併せてお読みください。
特別支援教育の変遷に進む(内部リンク)
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