漢字学習では、どこまで正しさを求めることが必要なのでしょうか。
漢字学習はとても大切なことです。
しかし、どこまで正しさを求めるかは、教員によって違いがあるように思います。
今回は、「漢字の正しさ」について書きます。
漢字の正しさ:とめ、はね、はらい
🟠漢字の正しさ
<漢字学習が好きな日本人>
日本では、漢字学習がとても重視されています。
漢字の学習を宿題にする教員は、とても多いと思います。
確かに、小学校6年間で、漢字を1026文字も習いますので、しっかり継続してこつこつ漢字の学習をしないと、きちんと覚えることができないということも確かです。
日本では、最近、様々な資格や検定試験などを受験することが盛んです。
その中でも人気のある検定試験に、「日本漢字能力検定」があります。
日本漢字能力検定には、10級から1級まで12種類の検定があります。(10種類でないのは、準2級、準1級があるためです。)
小学校1年生の学習範囲を対象にした10級から、「常用漢字を含めて、約6000字の漢字(JIS第一・第二水準を目安とする)の音・訓を理解し、文章の中で適切に使える」ことを基準にしている1級まで幅広いのですが、漢字の好きな人が多数受験しています。
テレビのクイズ番組などを見ていても、漢字の問題は、いろいろな形で出題されることがあります。
日本人にとって、漢字の学習は、とても大切な学習の1つといえます。
<小学校における漢字学習の実際>
教員をしているときに、若い教員の普通の国語の時間の学習を参観することがありました。国語の研究授業を見る時と比べて、大きな違いに漢字に当てる時間の差があります。
年に数回行われる国語の研究授業を見ていますと、漢字の練習に当てる時間はほとんどないのが一般的です。そのようなことに時間を使っていると、とても指導案に書いているような内容の授業を行うことができないからです。
しかし、日常的に行われている普通の国語の時間の学習を見ていますと、とてもたくさんの時間を漢字学習に使っていることが見られます。
多いときには、45分間という小学校の1単位時間の3分の1程度の時間が漢字学習に当てられていることもよくあるように思います。
小学校において、新任の教員とベテランの教員の境目の1つに、漢字学習をどのように扱い、指導の中に位置づけることができるのかということがあるかもしれません。学級の多くの子どもに漢字学習をきちんと定着させ、きちんと漢字の読み書きを覚えさせることができるかということがあるかもしれません。
<とめ、はね、はらいをどこまで要求するのか>
漢字学習を子どもに行う場合に、考えておくことの1つに、漢字の正確さをどこまで要求するかということがあります。違う書き方をすると、漢字の「とめ、はね、はらい」をどこまで、要求するかということがあります。
例えば、「木」という1年生の漢字を教えた後、子どもが、「木」の2画めの縦棒を「はねる」漢字を書いた場合、どう指導するでしょうか。
教科書や漢字ドリルでは、二画めの縦棒は、「とめる」ことが一般的です。
子どもの漢字を見た多くの教員は、「ここは、『はね』ないで、『とめ』るのが正しいのよ」と指導するのではないでしょうか。漢字を練習したノートや漢字テストなどを見た教員は、赤ペンで「とめ」る字を書き、真似するように指導するのではないでしょうか。
場合によっては、10回程度書くようなペナルティが課されることがあるかもしれません。
漢字テストなどでは、このような漢字を見て、どのように採点するでしょうか。
きっと、正解にするのではなく、間違いと判断するのではないでしょうか。
では、このような指導法や採点方法は、正しいのでしょうか。
<常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)>
確かに、子どもたちにていねいな正しい文字を書くことを指導することはとても大切です。
では、「漢字の正しさ」とはどこにあるのでしょうか。
先程例に出した、2画めの縦棒を「はね」た「木」の漢字は、正しいのでしょうか。それとも、間違っているのでしょうか。
多くの教員は、間違っていると判断するような気がします。
漢字テストでは、間違いにしたり、減点したりするのではないでしょうか。
ただ、2画めの縦棒を「はね」た「木」を「木」と判別できない人はいないようにも思います。
文部科学省の外局である文化庁は、2016年(平成28年)に「漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」を出しています。
漢字表の字体・字形に関する指針(報告)に進む(外部リンク)
この指針は、200ページを超える報告書ですので、全部に目を通すことは時間がかかるかもしれません。しかし、とても大切なことが書かれています。
199ページに載っている概要に,次のように書かれています。
漢字の字体・字形に関して生じている問題について,「常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)の「(付)字体についての解説」の内容をより分かりやすく周知し,解決しようとするもの。」
現在社会で生じている問題
手書き文字(書写ともいう。以下、同様)と印刷文字(情報機器の画面上に表示される文字を含む。)との違いが理解されにくくなっている。
文字の細部に必要以上の注意が向けられ,本来であれば,問題にならない違いによって,漢字の正誤が決められる問題が生じている。
漢字表の字体・字形に関する指針(報告)
そこで、この指針では、さらに、次のように考えていると書いています。
○ 手書き文字と印刷文字の表し方には、習慣の違いがあり、一方だけが正しいのではない。
○ 字の細部に違いがあっても、その漢字の骨組みが同じであれば、誤っているとはみなされない。
漢字表の字体・字形に関する指針(報告)
つまり、文部科学省の外局の文化庁がまとめた指針では、先ほど述べたような、2画めの縦棒を「はね」た「木」の漢字は、「誤っているとはみなされない」としています。
いかがでしょうか。普段の漢字の指導の中で、「文字の細部に必要以上に注意」を向けすぎる指導を行なっていることはないでしょうか。
<子どもが納得できる指導を心がけたい>
確かに、子どもにていねいな文字を書くように指導することはとても大切なことです。
私自身、教員のときは、子どもには10mmの方眼ノートを使うように指導し、できるだけ、文字は1つ1つのますめからはみ出ないように、書くように指導してきました。
ただ、この文化庁の指針を知っているかどうかは、教員としてとても大切なことのように思います。
指導の重点をどこに置くかは、教員一人ひとりに任されています。
ていねいな漢字を書く指導は、子どものためになります。
ただ、細か過ぎる指導は、必ずしも、多くの子どもに受け入れられないことも確かです。
先日、Twitterを見ていて、漢字のテストで、きちんと認識できる漢字を書いているのに、減点されていることを嘆く投稿がありました。
「意見」の「意」や「志をもつ」の「志」の中にある「心」の漢字が、教科書のように「はね」がないので、間違いになっていたり、減点されたりしていたからです。
そこには、次のような言葉が添えられていました。
テストが返ってくると娘がよくしょんぼりしてる
今の担任になって行きしぶりの子も増えたみたい
Twitterより
子どものやる気を削ぐような指導は、指導者として、大いに考える必要があるように思いました。
適切な指導とは、子どもたちが、指導されたことをしっかりと納得し、子どもたちが、これからも、またがんばろうという気持ちにすることだと思います。
もっとも、私自身、不適切な指導をたくさんしてきてしまっているのですが、今回、Twitterを見て、大いに反省させられました。このTwitterをしていただいた方には、とても感謝しています。
今回は、あるTwitterの投稿を参考にしながら、漢字の正しさについて考えてみました。
漢字指導に限らす、一度、自分の指導法について、振り返る時間をもっていただけると、うれしいです。
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なお、漢字辞典や国語辞典の引き方の指導については、次のページをお読みください。
漢字学習(1)読みと書きを分けるに進む(内部リンク)
漢字学習(2)漢字辞典の引き方に進む(内部リンク)
辞書を引く習慣のつけ方に進む(内部リンク)
漢字学習(3)指導者がペースを決めるに進む(内部リンク)
漢字学習(4)子どもを漢字のミニ先生にするに進む(内部リンク)
漢字学習(6)漢字遊びのいろいろに進む(内部リンク)
漢字学習(7)異字同訓の漢字・同じ読みの漢字に進む(内部リンク)
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