代弁するのとしないのと、どちらがいいのですか?
親子関係は時にはむずかしいことがあります。
今回は、「母親ノート法:代弁しないこと」を中心に書きます。
母親ノート法:代弁しないこと
🟠母親ノート法:代弁しないこと
<大人は子どもの代弁者>
子どもは、自分の思っていることをきちんと伝えることができないことがあります。
自分の思っている感情、気持ち、体の変化、病気、気分の悪さ、トイレに行きたいこと、お腹が空いていることなどについて、きちんと大人に伝えることができないことがあります。
特に赤ちゃんなどは、このような不快な感情になった時には、泣くしかできません。
気分のよい時やうれしい時などは、にこにことうれしそうにしていますから、それを見ているこちらも、とても幸せら気持ちになります。
ですから、急に泣き出すと、困ってしまいます。お腹が空いているのか、おしめが濡れているのか、眠いのに寝れないのか、気分がすぐれないのか、体のどこかが悪いのか、大人は子どもの様子を見極め、対応することが必要です。
子どもが赤ちゃんや幼い時は、大人は子どもの代弁者である必要があります。
<小児科医は、子どもの代弁者>
小児科医の世界では、「小児科医とは、子どもの代弁者であること」という言葉があるそうです。
慶應義塾大学医学部教授の髙橋孝雄氏が母校の慶応義塾大学の三田キャンパスで行なった講義の中で次のように述べています。
代弁者とは小児科学会が提唱している言葉です。病気を治すだけではなく、子どもや、若いお父さん、お母さんの代弁者であることも小児科医の大事な仕事です。そのためには、「傾聴力」と「説得力」を発揮することが不可欠だと思うのです。これらの力は臨床研修という実体験がないと身につかない。苦しそうにたたずむ物言わぬ子ども、ただただ漠然と不安な気持ちでいるお母さん。かれらの話を共感しながらよく聴き、真のストーリーを引き出す「傾聴力」。次に、診断や治療方針について子どもや親御さんを説得する。独りよがりの医師、一方的な医療にならないためには「説得力」が不可欠です。「説得力」の原動力は「傾聴力」です。よく話を聞いてくれたと感じる相手の言うことには説得力がありますよね。
髙橋孝雄氏の講演「子どもを育む遺伝の力、環境の力」(2019年11月26日 第709回三田演説会)
日々物言わぬ子どもに対峙し、子どもの病気を治すために、子どもの様子をよく観察し、時には検査をし、病気を特定し、治療方針を決め、治療にあたる医師の言葉には心に訴える力があります。
小児科医は、子どもの治療をするだけでなく、時には、子どもの家族の不安な気持ちに寄り添い、両親の話を共感的に聞き、治療にあたります。とても、素晴らしい職業だと思います。
そして、髙橋孝雄氏は、次のように続けます。
すべての大人は、子どもに対してだけではなく、すべての人に寄り添う優しさを持ってほしい。つまり、代弁者であってほしい。育児や教育の基本もそこにあるのではないでしょうか。たとえばしつけや教育についても、親が、大人が決めたことが、子どもに寄り添った優しさの産物なら、強い説得力があるはずです。社会全体が子どもたちの良き代弁者になれば、素晴らしい社会ができていくのではないでしょうか。
髙橋孝雄氏の講演「子どもを育む遺伝の力、環境の力」(2019年11月26日 第709回三田演説会)
小児科医だけでなく、すべての大人が、子どもや周りの人に対して優しさをもち、代弁者になること、ある意味、このような社会であれば、社会は、思いやりに溢れた素晴らしい社会になるのかもしれません。
なお、髙橋孝雄氏の講演については、次のページに載っています。興味のある方は、そちらもご覧ください。
髙橋孝雄氏の講演の紹介に進む(外部リンク)
子どもに対して、気持ちを察して、代弁することは、時にはたいへん効果的です。
ゆとりや修練がないとなかなかできることではないのでしょうが、とてもよいことのように思います。
<代弁しないことー三角会話の扱い方>
しかし、自立の時の心の病気である、不登校や登校拒否の子どもに対して行う母親ノート法では、「代弁をしないこと」が必要なようです。
東山紘久氏は、「母親と教師がなおす登校拒否ー母親ノート法のすすめ」(創元社・1984年)という本の中で、次のように書いています。
兄弟げんかや父親と子どもの議論や争いは、どうすればよいのだろうか。母子間の直接会話以外、すなわち、三者関係になる会話や父親と子ども、兄弟間の会話には、直接的にかかわらないで、聞いているだけが一番よい。
母親と教師がなおす登校拒否ー母親ノート法のすすめ
その理由について、東山紘久氏は、続けて次のように書いています。
噂や直接的でない会話が意外に大きな力を持ち、しかもたいていの場合、人間関係にマイナスに作用する。直接的でない会話、代弁は、悪意がなくても、たとえ善意からであっても、とかく伝達内容やそこに含まれる感情に歪みが生じてしまう。
母親と教師がなおす登校拒否ー母親ノート法のすすめ
子ども、それも言葉を発することができない赤ちゃんや幼児を取り扱う小児科医は、子どもの気持ちや症状を見極め代弁することが大切です。なぜなら、赤ちゃんや幼児は自分の思っていることを会話を通して大人に伝えることができないからです。
登校拒否や不登校を選択する子どもには、明確な意志があります。明確に言葉にできないので、不登校という行動で、自分の気持ちを表しているので、ある意味、赤ちゃんや幼児と同じような自分の気持ちをきちんと伝えられない状態に陥っているといってもよいのかもしれません。
しかし、赤ちゃんや幼児が「泣く」という行動で自分の意思を伝えているのと同様に、「不登校や学校に行かない」という行動を通して、自分の意思を伝えているのです。
東山紘久氏は、次のようにも書いています。
コミュニケーションが円滑でない家庭を見てみると、お互いに自分の考えや気持ちを直接相手に伝えられず、だれかが、それを代弁して伝えていることが多い。代弁とは、他の人の気持ちになり移って発言することである。代弁されると、聞かされた方は、相手の真意がはっきりしないばかりでなく、代弁している人に対して反感を持ち、代弁させた人に対しても、否定的感情を持つようになる。
母親と教師がなおす登校拒否ー母親ノート法のすすめ
代弁が必要になることもあります。しかし、自立心が芽生えている子どもの代弁は、かえってよくない場合もあるみたいです。
西洋では、子どもは小さい頃から一人前の人間として扱われます。小さい頃から子どもの寝室を大人と別にすることもあります。少し大きくなると、自分でできることは自分でするように躾けられます。しかし、日本では、大きくなってからも、子どもをずっと子ども扱いしてしまうことがあります。
例えば、子どもが他人からお菓子をもらったとしましょう。このような場合、日本では、「ありがとうございます。子どもも喜んでいます。」と子どもがお礼をいう前に、親がお礼をいうこともあるのではないでしょうか。この行為に対して、西洋人は首を傾げます。なぜ、お菓子をもらった子どもが直接お礼を言わないのか、「ありがとうございます」とお礼を言う躾を子どもに対してしないのかと思うそうです。
子育ては、楽しいことです。しかし、時には、たいへんなむずかしいことでもあります。
親子関係も、時にはとてもむずかしい関係になることがあります。
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関係する次のページもお読みください。
母親ノート法(1)母子の会話パターンに戻る(内部リンク)
母親ノート法(2)快・不快と評価基準に戻る(内部リンク)
母親ノート法(3)議論しないことに戻る(内部リンク)
母親ノート法(4)説教しないことに戻る(内部リンク)
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母親ノート法(7)要求をきくことに進む(内部リンク)
母親ノート法(8)親の心、子どもの心に進む(内部リンク)
母親ノート法(9)戸惑う親の心に進む(内部リンク)
母親ノート法(10)不登校の理由に進む(内部リンク)
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