学校事故から子ども守りたいですね。
学校では、時折、事故で大きな怪我をしたり、なくなったりする子どもがいます。
今回は、「学校事故から子どもを守る」ことについて書きます。
学校事故から子どもを守る
🟠学校事故から子どもを守る
<学校事故とは?>
学校事故とは、学校の管理下で起こった災害(事故や怪我など)のことです。
日本に住む多くの子どもは、日本スポーツ振興センターという団体の保険に入ります。多くの学校では、4月に児童費という形で保護者から徴収されています。任意加入ですが、ほぼ全ての子どもが加入していると考えていいでしょう。
日本スポーツ振興センターは、文部科学省が所管する独立行政法人です。
日本スポーツ振興センターの大きな役割は2つあり、1つは、国立競技場の運営、スポーツ科学の調査研究などのスポーツ振興事業です。もう1つは、学校における安全・健康保持の普及などの学校関連事業です。
この日本スポーツ振興センターの学校関連事業の大きな役割の一つが、「学校災害共済給付制度」です。
学校災害共済給付制度では、学校の管理下における災害(事故や怪我)に対し、災害共済給付(医療費、障害見舞金又は死亡見舞金)が支払われます。
ここでいう学校とは、小学校・中学校、特別支援学校などの義務教育諸学校、高等学校、高等専門学校、幼稚園、幼保連携型認定こども園、保育所等及び特定保育事業などが入ります。
事故や怪我に対する全ての費用が支払われるのではなく、療養に要する費用の額が5,000円以上のものを対象に指定しています。
この費用は、保護者からの徴収金、学校等の設置者(多くの場合は、市町村)、国の三者が負担します。
年間100万件以上の事故が報告され、給付金が支払われています。
<学校事故の統計>
日本スポーツ振興センターは、学校管理下で起こった災害(事故や怪我)に対して給付金を支払っていますので、学校管理下における学校事故(事故や怪我)に関するデータが揃っています。
NHK(日本放送協会)は、日本スポーツ振興センターが公開している2005年から2021年度のデーターを集計して、2023年5月7日に「NHKスペシャル いのちを守る学校に 調査報告“学校事故”」という番組を制作し放送しました。
NHKの調査によると、この17年間の間に「亡くなった子どもは1614人」いて、「何らかの障がいを負った子どもは7115人」いて、「合わせて8729人」いたそうです。
全ての事故を綿密に調査した結果、同じような事故が繰り返し起こっていることがわかったそうです。
ある場所では、何年かに一度あるかどうかの事故も、統計を取ってみると、日本のあちこちで毎年よく似た事故が繰り返し起こっているそうです。
なぜこのことが問題にならないかというと、このことを専門的に調査・研究し、啓発する部署が日本の中にないからです。
この番組の中で、学校の安全管理の専門家である森山哲さんは、「子どもの事故に新しいものはありません。どこかで起きた事故の繰り返しなんです。」というお話をされていました。
<学校事故でよく起こっている事故>
「給食中の死亡事故」
給食中に、うずら卵、ミニトマト、ぶどう、白玉団子などの丸くてつるつるしたものを喉に詰まらせて、死亡する事故が7件あります。
「ゴールポストなどによる事故」
固定されていないゴールポストなどにぶら下がったり、風が強く吹いていたりするなどの諸条件が重なることで、大きなゴールポストなどの下敷きになって死亡した事故が2件、障がいを負った事故が10件あります。
ゴールポストではありませんが、この5月に、女子高校生が「バッティングケージ」を移動している時に、下敷きになってしまい、意識不明の重体になる事故もありました。
「体育などの授業中などに走ることに関係する突然死」
体育などの授業中の突然死は506件あり、毎月ありますが、特に5月の事故が一番多いそうです。
5月は、気温が急に上がりますので、熱中症の症状も重なっているのではないかな、という感想をもつ専門家がいます。
中には、走っている最中ではなく、走り終わった後の休憩中に亡くなっている子どももいます。
「窓からの転落事故」
窓から転落して死亡する事故が30件あります。障がいが残った事故が44件あります。
このような事故の原因になっているものには、机、用具入れ、本棚、窓枠、ロッカー、台などの足場になるものの存在があります。
窓からの転落事故は、学校だけで起こっているのではなく、高層マンションから窓やベランダから子どもが落下して怪我をしたり、亡くなったりする事故はたくさん起こっています。この時も、子どもが簡単に登れる足場になるものが、ベランダや窓の近くにあることが原因になっていることはよく知られていることです。
私も以前、他のページで、学校に潜む危険として<高層化>の危険性については指摘しています。詳しくは、次のページをお読みください。
学校に潜む危険:安全教育④に進む(内部リンク)
「運動会や体育大会などの学校行事など事故」
学校行事での死亡事故は84件、障がいが残ったじこは351件起こっています。
<事故が繰り返される原因>
このようなよく似た事故が繰り返し起こっている原因にはいくつかあります。
その1つが、学校の安全管理の責任が、学校の教職員や教育委員会などに委ねられていることです。
学校の教職員は、安全管理の専門家ではありません。
どこかの学校で事故が起これば、一斉点検の依頼や指示などが教育委員会などから来たり、安全点検の報告をするように依頼されたりします。時には、教育委員会の担当者が学校の施設を見に来ることもあります。
しかし、文部科学省が全国の学校全てに依頼することはあまりありません。ただ、全くないというわけでもありません。耐震工事は全国規模で行なっていますし、耐震工事の進捗状況の調査は全国レベルで行なっています。
東日本大震災の時に、体育館の天井が落下してきたという報告が多数ありました。その際、柱や梁などの構造体のみならず、天井や外壁、窓などの 「非構造部材」に甚大な被害が生じました。そこで、構造体を残して、内壁などを撤去する工事は、計画的にするすぐに実施されています。
ただ、転落事故に関しては、それほどの危機感はなく、学校現場や各自治体の対策に委ねられているというのが実情です。
体育館の天井に対する対策のように、文部科学省が中心になって、全国レベルで対策を打てばいいようにも思いますが、なかなか簡単には進まないようです。
もっと、全国的な視野に立って学校の安全管理上の事故を集計し、対策を打ち出せるようになるといいなあ、と思います。
安全対策を含む学校運営は、各自治体が行い、責任をもつことに法律でなっています。
番組の中で、名古屋大学の内田良教授は、「教育の内容に関してはできるだけ国の介入は避けるべきだが、子どもの安全や命は、国が責任をもつべきと考えた方がいいと思う」と語っておられます。全くその通りだと思います。
もう1つは、多くの事故がきちんと調査、報告され、同じような事故が起こらないような対策がきちんと取られていないからです。
文部科学省は、2016年「学校事故対応に関する指針」を発表しています。
学校事故対応に関する指針に進む(外部リンク)
指針の中で、事故が発生した場合、学校が教職員や児童生徒などへの聞き取りを行うなどの基本調査を行い、ケースに応じて、自治体などが調査委員会などを立ち上げ、その結果を文部科学省に報告するようにしています。
ただ、法的な義務もないため、文部科学省に報告されている事例は7年間に13件しかありません。
学校管理下における重大事故事例に進む(外部リンク)
国はもっと積極的に学校事故に関する情報を収集し、分析き、発信すべきだと思います。
<アメリカの取り組み>
アメリカは、もっと積極的に対策を講じています。
今年行われた研修会では、次のような報告がありました。
追跡した2800件からわかるのは、熱中症は、倒れてから10分以内に冷却し始めれば、100%救命できるということです。データーが方針を決めるのです。
ダグラス・カサ所長(コーリーストリンガー研究所)
このような研修会を主催するのは、国立スポーツ重大事故研究センターです。
このような研究センターができたきっかけは、1060年代に大学などでアメリカンフットボールの重大事故が多発したことです。
このようなデーターの収集や研究の結果わかったことの一つに、次のようなことがあります。
長期の休み明けに行う練習の危険性です。2000年から2011年に亡くなったアメリカンフットボール選手21人のうち半数以上の11人が、練習再開の「初日と2日目」に亡くなっています。
こうした結果を受けて、練習のガイドラインが見直されました。
初日と2日目の練習時間は2時間まで、練習内容としてはタックルなどの禁止が打ち出されています。
問題を解決するためには、多くのデーターが大切だという考えが浸透し、データーをもとに学校事故を防ぐという考えがアメリカでは、一般的になっています。
<子どもの安全に対する意識を高める>
このようなデーターを活用し、危険性を把握するのは子どもの周りにいる大人たちだけでなく、子ども自身にも認識させることが大切だと思います。
子どもの安全に対する意識を高めるに進む(内部リンク)
安全教育:子どもを守る 一覧表に進む(内部リンク)
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