1、2年生では、昔話、神話、伝承などの学習をします。
国語の学習の中には、「伝統的な言語文化」と呼ばれるものがあります。
今回は、その中の「昔話、神話、伝承など」について書きます。
昔話、神話、伝承など:言語文化④
🟠昔話、神話、伝承など
<伝統的な言語文化>
日本語は、世界の中でもとても古くからある言葉のひとつです。
いにしえの昔から、多くの人が日本語を使い、日本語を使うことで、意思の伝達をしてきました。また、文字や音声などを使って、自分や他人の考えや出来事などを文学や日記、物語、和歌、詩歌、短歌、俳句、昔話、伝説などという形で表現することで伝えてきました。そのおかげで、千年以上前の昔の人が書いたものを、今でも読むことができますし、現代人が書いたものを未来においても、私たちの子孫が読むことができそうです。
簡単に要約すると、伝統的な言語文化とは、「昔から日本文化の中で使われてきた言葉に関わる事柄」です。
<昔話、神話、伝承など>
小学校学習指導要領の国語科の1・2年生の「指導内容」としては、次のように書かれています。
ア 昔話や神話・伝承などの読み聞かせを聞くなどして,我が国の伝統的な言語文化に親しむこと。
イ 長く親しまれている言葉遊びを通して,言葉の豊かさに気付くこと。
小学校学習指導要領
さらに、アについては、次のように解説しています。
児童が伝統的な言語文化としての古典に出合い,親しんでいく始まりとして, 昔話や神話・伝承などの読み聞かせを聞くなどすることを示している。
昔話や神話・伝承は,国の始まりや形成過程,人の生き方や自然などについての古代からの人々のものの見方や考え方が,長い歴史の中で口承だけでなく筆記された書物として,現在に引き継がれてきたものである。
昔話は,「むかしむかし,あるところに」などの言葉で語り始められる空想的な物語であり,特定または不特定の人物について描かれる。
神話・伝承は,一般的には特定の人や場所,自然,出来事などと結び付けられ,伝説的に語られている物語である。古事記,日本書紀,風土記などに描かれたものや,地域に伝わる伝説などが教材として考えられる。その際,児童の発達 の段階や初めて古典を学習することを考慮し,易しく書き換えたものを取り上げることが必要である。
第1学年及び第2学年では,まず,読み聞かせを聞くことで,伝統的な言語文化に触れることの楽しさを実感できるようにすることが大切である。話の面白さに加え,独特の語り口調や言い回しなどにも気付き,親しみを感じていくことを重視する。また,地域が育んできた言語文化に触れることも大切である。例えば,地域の人々による民話の語りを聞いたり劇を行ったりするなど,言語活動を工夫することなどが考えられる。
小学校学習指導要領 解説 国語編
<昔話、神話などの言葉の違い>
日本の有名な昔話の研究者に小澤俊夫(おざわ・としお)さんがいます。
小澤俊夫さんは、1930年生まれです。ドイツ文学の研究者でもあります。筑波大学名誉教授でもあります。ミュージシャンの小沢健二さんのお父さんでもあります。
その小澤俊夫さんは、「昔話への招待」というFM FUKUOKAの番組の中で、「昔話・伝説・神話・民話・おとぎ話・童話などの違い」を説明されています。
小澤俊夫・昔話へのご招待に進む(外部リンク)
昔話とは1(伝説、神話などとの違い)に進む(外部リンク)348話
昔話の用語(伝説、童話、民話、おとぎ話、神話の違い)に進む(外部リンク)440話
小澤俊夫さんのお話を元に、まとめてみます。
「昔話」
むかしむかし、あるところに、おじいさんと……というように、時代も場所も人物も不特定に語っているので、これからお話する話は、架空の話だよ、本当の話じゃないよ、信じないでね、ということを最初に伝えています。
昔話は、口伝えで伝えられてきたことが多いです。聞く方は耳で聞くので、語ったそばから消えでしまいます。ですから、シンプルでクリアーな文章でないと聞いている子どもがわからないので、できるだけ語り手も聞き手もよくわかる簡単な話にする方がいいです。
「伝説」
昔話とは違い、時代や場所や人物が特定されて語られることが多く、これからお話しする話は、本当の話だよ、信じてね、ということを最初に伝えています。伝説は、信じられることを望んで話されています。
「神話」
神の話です。神々が登場する話です。多くの民族が神話をもち、その民族の成り立ちや建国の成り立ちなどが語られることが多いです。
多くは、時の統治者、日本では天皇家が、自分の権力の正当性を証明するために作られたものが多いです。神から力を授かっているので、登場人物は神になります。
「民話」
民話は、比較的新しい言葉で、戦後生まれた言葉です。神話に対して、人間が出てくるお話なので民話です。
戦後、日本の昔話は2つの理由で槍玉にあがったことがあります。
1つは、日本の昔話は、「桃太郎」のように侵略の話が多く、それを聞いて育ったので、日本が侵略国家になってしまったという批判。もう一つは、昔話は、田舎の無学な無知蒙昧な老人が語ってきたものなので、文学的に価値の低いものなので、もっと洗練したものを作る必要があるという批判。
この2つの批判から、新しく「民話」という言葉が作られました。そして、もっと洗練されたものを作ろうと、木下順二さんが「夕鶴」を作ったり、松谷みよ子さんが「龍の子太郎」を作ったりしました。
しかし、月日が経ち、いつの間にか、民話と昔話は、同じようなものだというふうに思われています。
最近、小澤さんの元に送られてくる地域の人が作った「○○民話」などには「伝説も昔話も噂話も思い出話も入っていることが多い」そうです。
「おとぎ話」
話の種類ではなくて、性質です。嘘の話、架空の話です。
「童話」
創作された話です。物語作家や絵本作家などによって、創作されたお話です。
<昔話、神話、伝承などの学習教材>
教科書には、次のような教材が載っています。
「光村図書1年」
・おおきなかぶ(ロシア民話)
・おむすびころりん(昔話)
・わらしべちょうじゃ(昔話)
「東京書籍1年」
・おおきなかぶ(ロシア民話)
・花咲かじいさん
「光村図書2年」
・いなばの白うさぎ
・スーホの白い馬
「東京書籍2年」
・だいだらぼうのお話
・やまたのおろちのお話
・いなばの白うさぎのお話
・かさこじぞう
<昔話、神話、伝承などの学習>
昔話、神話、伝承などの学習では、まず「読み聞かせを聞くこと」が大事だと、小学校学習指導要領では書かれています。その時、選ぶお話は、できるだけ、かんたんで、わかりやすいものにすることが大切です。
目で読む文学の場合、どうしても描写が詳しくなる傾向にあります。
しかし、耳で聞き、聞いたそばから消えてなくなる音声や読み聞かせなどは、声にしたとたん、消えてなくなってしまいます。
それでも、子どもの頭の中に残すためには、そのお話は「簡単で、わかりやすい」お話にする必要があります。
小学生の低学年の子どもにとって、昔話や神話、伝承などは、幼稚園や保育所などでも先生から、あるいは、家庭で、お母さんやお父さんなどの家族から読み聞かせなどを通して話してもらった経験のある事柄でしょう。
その時には、当然まだ字を習っていませんでしたので、耳で聞いて覚えるしかありません。
それでも、繰り返し何回も聞くことで自然と覚えることもできるでしょうし、自分で再話することができるようになったお話もたくさんあるのかもしれません。
耳で聞くことことを中心に語られる昔話や神話、伝承などでは、細かな描写はできるだけ少なくして、「簡単に、わかりやすく」することが大切でしょう。
そして、読み手の教員は、昔話を読むのではなく、「話すこと」「語ること」が大切なのだと思います。
子ども同士で、知っている昔話などの絵本を読むような学習をする時にも、正しく「読む」ことを意識するよりも、「話すように読む」ようにするとよいでしょう。
音読指導(1)話すように読むに進む(内部リンク)
⭐️ ⭐️
なお、私が子ども用に作っている「よみもの」やこの「教育よもやま情報」では、次のような文章を作っています。
月と兎に進む(外部リンク・よみもの)
因幡の白兎(1)に進む(外部リンク・よみもの)
因幡の白兎(2) に進む(外部リンク・よみもの)
民話と昔話に進む(外部リンク・よみもの)
求女塚① 兵庫民話に進む(外部リンク・よみもの)
求女塚② 兵庫民話に進む(外部リンク・よみもの)
伝統的な言語文化 言語文化①に進む(内部リンク)
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