教育者の言葉を紹介します。今回は、中室牧子氏の言葉です。
本を読んでいると、時々、感心する言葉に出合うことがあります。
今回は、中室牧子氏の「データは個人の経験に勝る」を紹介します。
データは個人の経験に勝る
🟠中室牧子氏とは?
中室牧子氏は、1975年奈良県で生まれました。慶應義塾大学を卒業後、アメリカのコロンビア大学で博士号を取得されています。専門は、経済学の理論や手法を用いて教育を分析する「教育経済学」です。
現在、慶應義塾大学総合政策学部教授です。2015年にディスカヴァー・トゥエンティワンから発行された「『学力』の経済学」という著書は、30万部を超えるベストセラーになりました。
日本の教育界に、「科学的根拠」というエビデンスの大切さを伝えた第一人者です。
🟠データは個人の経験に勝る
「データは個人の経験に勝る」という言葉は、先ほど紹介した「『学力』の経済学」という本の第1章の副題になっている言葉です。
私たち大人は、子どもから大人になる間に、多くの知見を学校での学習から学びます。
それと同じぐらい多くの知見を、さまざまな個人の経験から得ます。経験から得た知見に有益なものも多いのですが、どうしても、たまたま成功した出来事が、さも誰にでも起こり得る事実として語られる傾向があります。
自分がうまくいったことは、誰にでも当てはまることとして語られることは多いです。
例えば、最近は、少子化が進み、昔のようにたくさんの兄弟がいません。保護者が子育てをする場合、1人か2人の子育てしかしない場合が多いです。
たくさんの子どもを育てていると、子どもには様々な個性があることに気づくこともあるのでしょうが、1人か2人の子育てしかしていないと、子どもの多様性に気づきにくいということがあります。
私たち教員が、保護者より有利な点は、一度にたくさんの子どもに接することができ、さまざまな個性と接することができる点です。
保護者が子どもに対する印象よりも、教員が子どもに対する印象の方が、見ている人数が多い分だけ、少しだけ客観性があります。
学級の多くの子どもにとって有益な方法は、有益な方法である可能性が高いです。とはいえ、たかだか数十人に当てはまることが、全ての子どもに当てはまるとは限りません。
🟠西室牧子氏の考え
西室牧子氏は、「『学力』の経済学」の中で、次のように述べます。
教育経済学者の私が信頼を寄せるのは、たった一人の個人の体験記ではありません。個人の体験を大量に観察することによって見出せる規則性なのです。
日本ではまだ、教育政策に科学的な根拠が必要だという考え方はほとんど浸透していないのです。
科学的根拠に基づく教育政策とは、「どういう教育が成功する子どもを育てるのか」ということを科学的に明らかにしようとする試みです。このために、経済学者はいったい何をしているのでしょうか。
まず、「どういう教育が成功する子どもを育てるのか」という、決して目に見えないものを数字で示します。
経済学者がしているもうひとつのこと、それは「どういう教育が成功する子どもを育てるのか」という問いについて、その原因と結果、すなわち因果関係を明らかにすることです。
どこの誰かの成功体験や主観に基づく逸話ではなく、科学的根拠に基づく教育を。経済学者は、そう提案しているのです。
中室牧子著 「学力」の経済学
🟠日本の政策の問題点
日本は、教育政策に以外にも、様々な政策をおこなっています。政策を実行する場合、その政策が効果があるかどうかをじっくりと検証する必要があります。
しかし、残念ながら、日本の多くの政策は、きちんとした検証を行うことができないそうです。
最近、コメンテイターとしても大活躍のイェール大学助教授の成田悠輔氏は、林修氏と対談したYouTubeの番組で次のような話をされています。
日本の場合は、実証実験というのはよくやられるわけです。ただ、それが効果検証にはつながっていない場合が多いように思います。典型がコロナ禍での色々なコロナ政策なのかなと思います。大量のお金が使われました。使われたことは、もし効果があったならよかったのですが、何にどれぐらい効いたのか、ということを厳密に検証することはしていない。
超話題!第2弾!イェール大学助教授・成田悠輔 ×林修★選挙、働き方、お金・・現代日本が抱える社会問題を独自の視点で分析。この時代を生き抜くための考え方とは?
成田氏は、補助金が何兆円も使われたことについて、日本で検証をしようとしたそうです。
「コロナ病床を増やす、コロナ患者に対応することにいい影響を与えたのか」を検証しようとしたそうですが、日本ではデータがなくてできなかったそうです。
代わりにアメリカのデータを使って検証すると、何十兆円もつぎ込んだことは、アメリカでは、ほぼ意味がなかったそうです。
また、この番組の中で、次のような解説がありました。
日本では、ほとんど行われていない効果検証だが、実はアメリカでは、政策決定に必要な効果検証のために、博士号をもつ研究者数十人がフルタイムで検証を行っている政府の組織がある。そこから、情報提供が(大統領などに)される仕組みがある。
超話題!第2弾!イェール大学助教授・成田悠輔 ×林修★選挙、働き方、お金・・現代日本が抱える社会問題を独自の視点で分析。この時代を生き抜くための考え方とは?
この番組に関する内容については、次のページをご覧ください。
「超話題!第2弾!イェール大学助教授・成田悠輔 ×林修★選挙、働き方、お金・・現代日本が抱える社会問題を独自の視点で分析。この時代を生き抜くための考え方とは?」に進む(外部リンク)
日本の政策は、教育政策に限らず、効果があったのかどうかについて、あまりきちんと効果検証をしないままで行われることが多いみたいです。
政策には、多くのお金がかかります。そのお金の大部分は、私たちが納める税金からまかなわれています。
しかし、きちんと様々な政策に対して、十分な効果検証ができないということは、とても悲しいことだと思います。
🟠科学的根拠のある子育てのすすめ
学校や家庭の教育には、お金がかかります。
子どもが成長するためには、時間もかかります。
同じお金や時間をかけるのであれば、効果のある教育方法や子育て方法を行った方がいいでしょう。
ぜひ、時間があるときに、「『学力』の経済学」という本を読んで、科学的根拠のある方法で、子育てを行うことをお勧めします。
この本には、たとえば、次のような教育方法について書かれています。
「テストでよい点を取ればご褒美」と「本を読んだらご褒美」ーどちらが効果的?
中室牧子著 「学力」の経済学
みなさんは、どちらが効果的だと考えますか?
答えを読む前に、一度考えてみてください。
この本には、次のように書かれています。
学力テストの結果がよくなったのは、インプットにご褒美を与えられた子どもたちだったのです。とくに、数あるインプットの中でも、本を読むことにご褒美を与えられた子どもたちの学力の上昇は顕著でした。(中略)
「インプット」にご褒美を与えられた場合、子どもにとって、何をすべきかは明確です。本を読み、宿題を終えればよいわけです。一方、「アウトプット」にご褒美を与えられた場合、何をすべきか、具体的な方法は示されていません。
中室牧子著 「学力」の経済学
私たちは、多くの経験から多くのことを学びます。しかし、その方法が誰にとっても効果のある方法であるかどうかは、わからないことも多いです。
偶然の要素も大きいでしょうし、成功の裏には、目には見えない別の要素が隠されているかもしれません。
経験だけで教育方法や子育て方法を選ぶのではなく、多くの人にとって有効な教育方法や子育て方法を、科学的根拠を元にして選ぶことが、もっと一般的になることを願います。
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また、「快・不快の原則」というものもあります。次のところに書いています。
母親ノート法(2)快・不快と評価基準に進む(内部リンク)
なお、他の名言についてもお読みいただけたら嬉しいです。
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