「一つの花」の教材分析について知りたいです。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることが大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、「一つの花」です。
一つの花:教材分析
🟠一つの花:教材分析
この教材は、光村図書、東京書籍、教育出版、学校図書の4年上に掲載されています。
発行されている4つの教科書全てに掲載されていますが、学習予定時期は少し違います。
使われている漢字や、表記の仕方は教科書により微妙に違います。
ここでは、掲載時期の早い光村図書の教材文を中心に教材分析することにします。
<作者>
今西祐行(いまにし・すけゆき)作
鈴木義治(すずき よしはる)絵(ポプラ社絵本)
松永禎郎(まつなが・よしろう)絵(光村図書)
伊勢英子(いせ・ひでこ)絵(東京書籍)
出典:「一つの花」(ポプラ社・1975年)
今西祐行さんについて
1923年、大阪府で生まれ、奈良県生駒市で育ちました。日本の児童文学作家です。
1941年、第二早稲田高等学校に入学。
1942年、早大童話会に入り、坪田譲治を知り、最初の童話「ハコちゃん」を発表。
その後、早稲田大学文学部に進学する。
1943年、学徒出陣し、海兵団に入る。
1945年8月6日に原子爆弾が広島に落とされた後、翌日に救助隊として広島に入り、5日間過ごす。この時の体験が「ヒロシマのうた」「ゆみ子とつばめのおはか」などの作品に反映される。
1947年、早稲田大学卒業後、国民図書刊行会に勤務した後、いくつかの出版社に勤める。
11年間の編集者生活の後、文筆生活に入る。
その後、いろいろな作品を発表する。
教科書には、「ヒロシマの歌」「一つの花」などの作品が掲載される。
2004年に亡くなりました。
<題名>
題名は「一つの花」です。
題名を読むだけでは、どんな花の話かな、と思う子どもがいると思います。
<設定>
いつ(時):戦争のはげしかったころ
どこ(場所):ゆみ子の家
だれ(登場人物):ゆみ子とお母さん
<人物>
ゆみ子……主人公。小さな女の子。
お母さん……ゆみ子のお母さん。
お父さん……ゆみ子のお父さん。
<あらすじ>
・「一つだけちょうだい」これが、ゆみ子がはっきり覚えた最初の言葉だ。
・戦争のはげしかったころ、おやつも食べるものもほとんどなかった。
・毎日、てきの飛行機が、ばくだんを落とし、町はやかれ、はいになっていった。
・ゆみ子は、いつもおなかをすかしていたのか、いつもいくらでもほしがった。
・すると、ゆみ子のお母さんは、「じゃあね、一つだけよ。」と言って、分けてくれた。
・「一つだけ」がお母さんの口ぐせになり、ゆみ子もこの口ぐせを覚えてしまった。
・「なんてかわいそうな子。一つだけと言えば、なんでももらえると思っているのね」
こうお母さんが言うのを聞き、お父さんは深いため息をついて言った。
・「この子はみんなちょうだいということを知らずに過ごすかもしれないね。みんな一つだけ。
いや、よろこびなんて、一つだってもらえないかもしれない。どんな子に育つんだろう。」
・そんなとき、お父さんは、きまってゆみ子をめちゃくちゃに高い高いをした。
・まもなく、じゅうぶでないお父さんも、戦争に行かなければならない日がやって来た。
・お父さんが戦争に行く日、ゆみ子はお母さんにおぶわれ、遠い駅まで送っていった。
・頭には、お母さんの作ったわた入れの防空頭巾をかぶっていた
・お母さんのかばんには、包帯、お薬、配給のきっぷ、そして大事なお米のおにぎりがあった。
・ゆみ子は、おにぎりが入っているのを知っていたので、「おじぎり、一つだけちょうだい」
と言って、駅に着くまでにみんな食べてしまった。
・お母さんは、戦争に行くお父さんに、ゆみ子の泣き顔を見せたくなかったのだろうか。
・駅には、他にも戦争に行く人がいて、ときどきばんざいの声が起こり、軍歌も聞こえた。
・ゆみ子とお母さんしか見送りのいないお父さんは、プラットホームのはしでゆみ子といた。
・ゆみ子をだき他の人のばんざいや軍歌に合わせている様子は戦争に行かない人のようだった。
・いよいよ、汽車が入ってくるとき、またゆみ子の「一つだけちょうだい」が始まった。
・「みんな、おやりよ」と言うお父さんに「ええ、もう食べちゃったんです」と言うお母さん。
・お母さんはゆみ子をあやすが、ゆみ子は、「一つだけ」と言って、泣き出してしまった。
・お母さんがけんめいにゆみ子をあやしていると、お父さんがぷいといなくなってしまった。
・お父さんは、プラットホームのはしっこに、わすれられたようにさくコスモスの花を見つけた。
・あわてて帰ってきたお父さんの手には、一輪のコスモスの花があった。
・「さあ、一つだけあげよう。一つだけのお花、大事にするんだよう。」
・ゆみ子は、お父さんに花をもらうと、キャッキャッと足をばたつかせよろこんだ。
・お父さんは、それを見てわらうと、何も言わずに、汽車に乗って言ってしまった。
・ゆみ子のにぎっている、一つの花を見つめながらー。
・それから、十年の月日がすぎた。
・ゆみ子はお父さんは顔を覚えていない。自分にお父さんがいたことも知らないかもしれない。
・でも、ゆみ子のとんとんぶきの小さな家は、コスモスの花でいっぱいに包まれている。
・そこから、ミシンの音が聞こえてくる。それは、あのお母さんだろうか。
・「母さん、お肉とお魚とどっちがいいの。」ゆみ子の声がコスモスの中から聞こえる。
・ミシンの音がやんだ。やがて、ミシンの音がいそがしく始まる。
・買い物かごをさけたゆみ子がスキップをしながら、コスモスのトンネルをくくってくる。
・今日は日曜日、ゆみ子が小さなお母さんになって、お昼を作る日。
<場面>
ここでは、このブログで紹介している5場面に分け、1場面を40字程度にまとめてみます。
① 戦争中、食べるものが少ない中で、ゆみ子は「一つだけちょうだい」の言葉を覚えた。
② 「一つだけ」と言えばなんでももらえると思っているゆみ子を父と母はかわいそうに思う。
③ 父が戦争に行くことになった日、ゆみ子は「一つだけ」とおにぎりを全部食べてしまう。
④ もっとおにぎりをほしがって泣くゆみ子に、お父さんはコスモスの花をあげ、戦争に行った。
⑤ 10年後父はいないが、家はコスモスに包まれ、ゆみ子はお母さんを手伝い楽しく生きている。
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<人物の会話>
○ 会話について
この物語には、重要な会話がいくつかあります。
・一番重要な言葉は、題名に関係の深い「一つ」と言う言葉です。
ゆみ子の覚えた最初の言葉が「一つだけちょうだい。」です。
お母さんの「じゃあね、一つだけよ」と口ぐせがゆみ子の口ぐせになりました。
・ お母さんとお父さんは、ゆみ子について会話します。これも大切な会話です。
「なんてかわいそうな子でしょうね。一つだけちょうだいと言えば、なんでももらえると思ってるのね。」
「この子は、一生、みんなちょうだい、山ほどちょうだいと言って、両手を出すことを知らずにすごすかもしれないね、一つだけのいも、一つだけのにぎりめし、一つだけのかぼちゃの煮付けー。みんな一つだけ。一つだけのよろこびさ。いや、よろこびなんて、一つだってもらえないかもしれないんだね。いったい。大きくなって、どんな子に育つだろう。」
・お父さんは、ゆみ子の将来を心配します。では、実際はどうなのでしょうか。その答えが、十年後のゆみ子の会話にあります。ゆみ子は、こう言います。
「母さん、お肉とお魚とどっちがいいの。」
ゆみ子に家は父いないし、とんとんぶきの小さな家ですから、豊かとは言えないかもしれません。でも、もう「一つだけ」ではありません。お肉とお魚の二つから選ぶことができるようになっています。豊かではなくとも、一つだけのくらしからはぬけ出しているのです。
そのことは、もう一つのお父さんの会話からの変化からもわかります。
戦争に行くお父さんは、ゆみ子にこう言います。
「ゆみ。さあ、一つだけあげよう。一つだけのお花。大事にするんだよう。」
お父さんは、ゆみ子に一つだけのお話しかあげることができませんでした。
でも、十年後、ゆみ子の家は、コスモスの花でいっぱいに包まれています。
ここでも、一つだけの生活から、ぬけ出し、ゆみ子は、お母さんを手伝う優しい子どもに育っています。
○ 行動について
行動からもいろいろわかります。
・お父さんは、きまってゆみ子をめちゃくちゃに高い高いするのでした。
ここからは何がわかるのでしょうか。お父さんはたくさんの食べものをゆみ子にあげることはできません。でも、子どもを高い高いすることで楽しませることはできます。お父さんがゆみ子を大切に思っていることがわかります。
お父さんは、いつもゆみ子を楽しませようと考えています。ですから、おにぎりをほしがり泣くゆみ子にコスモスの花を取ってきます。
・お母さんが、ゆみ子を一生けんめいあやしているうちに、お父さんは、ふいといなくなってしまいました。
でも本当にいなくなったわけではありません。お父さんは、プラットホームのはしから、コスモスの花を見つけ、あわてて帰ってきてわたします。
ゆみ子の気がまぎれ、喜んでいることは、ゆみ子の次の行動からよくわかります。
・ゆみ子は、お父さんから花をもらうと、キャッキャッと足をばたつかせてよろこびました。
お父さんがいなくなって、ゆみ子は幸せなのでしょうか。きっと幸せだと思います。それは、ゆみ子の次の行動から推測できます。
・買い物かごをさげたゆみ子が、スキップをしながら、コスモスのトンネルをくぐって出て来ました。
この「スキップをしながら」という行動から、ゆみ子の毎日は楽しいのだということが伝わってきます。
<主題>
この物語の主題は、何でしょうか?
一つは「戦争はよくない」ということでしょう。
戦争のせいで、食べものがなくなり、ゆみ子はお父さんまで失うことになります。
そして、「平和の大切さ」です。
平和な世の中になっとおかげで、ゆみ子は一つだけの幸せから、いろいろなものの中から選択できるようになります。
ものがあるだけで幸せというわけではありませんが、お腹を空かして泣くということは無くなります。これは、とても大切なことです。
<表現の工夫>
この物語文には、さまざまな表現の工夫があります。
○表現の工夫の1つは、会話文から物語が始まっていることです。
子どもが作文を書くとき、よく「私は」や「ぼくは」などの自分を主語にした文章から書き始めることがあります。このような会話文から書き出す文章があることを知ると、それを自分の作文に使おうとする子どもも出てくると思います。4年生は、そんな工夫が自分でもできるようになる年齢です。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「物語文の教材研究の仕方」に挙げた10個の視点のうち、最後の指導計画を除いた9つの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
⭐️ ⭐️
物語文の教材研究については、次のページもお読みください。
物語文の教材研究の仕方(1)基本的な考えに進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(2)視点に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(3)設定・人物に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(5)会話・行動に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(6)主題に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(7)表現の工夫に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(8)指導法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(9)指導方法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(10)目標と教材の関係に進む(内部リンク)
なお、戦争について私の考えをまとめたページがあります。
学ぶ⑤ 戦争に進む(内部リンク)
子ども向けに戦争について書いた文章もあります。
ウクライナ侵攻 Invasion of Ukrainaに進む(姉妹ブログ・よみもの)
原爆ドーム Atomic Bomb Domeに進む(姉妹ブログ・よみもの)
他の教材の教材分析については、次のページをお読みください。
白いぼうし 教材分析031に進む(内部リンク)
こわれた千の楽器 教材分析037に進む(内部リンク)
世界一美しいぼくの村 教材分析002に進む(内部リンク)
世界でいちばんやかましい音 教材分析003に進む(内部リンク)
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