「いつか、大切なところ」の教材分析について知りたいです。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることは大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、5年生の教科書に載っている「いつか、大切なところ」の教材分析をします。
いつか、大切なところ:教材分析
🟠いつか、大切なところ:教材分析
この作品は、教育出版の5年生の教科書に載っています。
<作者>
魚住直子(うおずみ・なおこ)さん文
くまおり純(くまおり・じゅん)さん絵
出典:この教科書のために書き下ろしされました。
魚住直子さんについて
1966年(昭和41年)生まれです。日本の児童文学作家です。
福岡県福岡市で生まれです。生後まもなく広島県広島市に移り、広島県廿日市市山口県防府市で育ちます。
広島県立五日市高等学校卒業後、広島県教育学部心理学科を卒業します。
1995年、「非・バランス」(講談社・1996年)で、第36回講談社児童文学新人賞を受賞します。この作品は、2001年に、冨樫森監督によって、映画化されました。
2008年、「Two Trains」(学習研究社・2007年)で、第57回小学館自動出版文化賞を受賞しました。
主な著作に「園芸少年」(講談社・2009年)、「クマのあたりまえ」(ポプラ社・2011年)などがあります。
<題名>
題名は「いつか、大切なところ」です。
題名から、いつの日にか、大切な場所での何かに関係する話ということがわかります。
題名を読むだけでは、何について描かれているかはっきりしませんが、お話を読むことで、主人公の感じる自分の住む場所に対する深い愛情に共感する子どもがたくさんいるのではないでしょうか。
<設定>
いつ(時):四月の終わりの休日。
どこ(場所):電車の中。
だれ(登場人物):亮太。
<人物>
亮太……主人公。四年生の終わりに父の転勤で引っこしをした。姓は、西村。
一平……かずきの友だち。かずきに比べると、積極的な性格。
駿……ふしぎな女の子。どこからともなく現れる。
森田君……駿の新しい友だち。
女の子……新しい学校で、亮太と同じクラブになった、近所に住む子。
母さん……亮太のお母さん。
<あらすじ>
後程、付け加えます。
<場面>
この物語は、場面と場面の間に1行空きで、5つの場面に分けて書かれていますので、場面を5つに分け、1場面を30~40字程度にまとめてみます。
① 父の転勤で引っこしした亮太は、電車で前の町に行くことにわくわくしていた。
② 仲よしの一平や駿に会えてうれしかったが、亮太のむねの中では冷たい風がふいていた。
③ 帰る時間になり、たがいに大きく手をふったが、亮太は笑顔を作れなかった。
④ 帰りの電車の中、ひとりぼっちになったみたいに感じ、なみだがこぼれそうになった。
⑤ 新しい学校のクラブが同じ女の子に会い、今度の学校も悪くないと思えるようになった。
1234567890123456789012345678901234567890
<人物の会話>
このお話にはたくさんの登場人物が出てきます。
久しぶりに会った亮太と一平や駿は仲よく会話をします。
・「元気だった? 学校はどう?」
・「もう慣れた? 友達はできた?」
・「ちょっと慣れたかな。クラスは一つ多くて、四クラスあるんだ。友達も、まあまあできた。」
・「よかったね。」
しかし、いつの間にか会話の内容は、亮太の知らない話題になります。
・「あの白い子が、学校のうらの家にすんでるって、知ってる?」
・「急に消えた子?」
なんの話だろう。亮太は、一平と駿の顔を見た。
・「ちょっと前にうまんたんだって。その中の一ぴきらしいよ。」
・「ほかのも白いのかな。」
・「ブチもいるんだった。」
亮太の残念なことに、亮太が話についていけないことに気づいたのは、仲の良かったはずの一平や駿ではなく、前はとなりのクラスの森田君だった。
・亮太がわからない顔をしていることに気がついたのは、森田君だった。
「ねこの話だよ。」
いつの間にか、話題についていけないことになってしまっていて、亮太の心には、冷たい風がふいていました。
そんな亮太の悲しい心をいやしてくれたのは、新しい学校の名前も知らない女の子との会話です。
・「西村君だよね。」
・「……えっと、同じクラス?」
・「ちがうよ。」
・「クラブがいっしょ。」
・「あ、そうか。」
亮太は、新しい学校でたっきゅうクラブに入った。でも、活動はまだ一度だけだ。顔も全員は覚えていない。
・「あと、家が近いの。西村君ちって郵便局の近くでしょ。うちもあの通り。」
・「さっきまで、児童センターでたっきゅうしてたんだよ。」
・「たっきゅう台があるんだよ。」
・「三つ。みんな、けっこう来てるよ。今度西村君も来たら。」
この会話とその後のお母さんとの会話を通して、亮太は、「今、知らなくても、そのうちにわかること」や。「ここで知っていることがどんどんふえていくこと」に気づき、「いつか、この町を自分の町だと、迷わず言う日が来るかもしれない」と思うようになります。
<人物の行動>
行動からもいろいろなことがわかります。
旧友の一平と駿との再会の時の二人の行動に、亮太は感激します。
・駿が笑顔で走ってくる。
それと同時に、後ろから、「亮太。」と声がした。ふり向くと一平だ。校門から走ってくる。
一平と駿が、前と後ろからやってくる。二人にはさまれ、亮太はうれしくてむねがいっぱいになった。
仲のよかったはずの二人との再会のはずなのに、かえって「ひとりぼっちになったみたい」に感じた亮太の足取りは重そうです。次のように書かれています。
・改札を出て、のろのろと歩き始めると、一台の自転車が亮太を追いこしていった。
しかし、女の子の出会いとお母さんとの会話で気持ちが楽になった亮太の行動は、積極的なものに変化します。
・「一つ、持つよ。」
母さんのふくろを取り、先に歩きだした。
<主題>
この物語の主題は、何でしょうか?
「喪失と新たな発見」を、亮太が体験したことなのかもしれません。
父の転勤にともない、亮太は転校します。あれほど仲のよかった一平や駿とも、いつの間にかついていけない話題が増えたり、以前のようにいつも会えるわけでもなくなったりして、前の友達と学校は、何も変わらないと思っていたことが幻想だということに気づきます。
しかし、新しい学校の、クラブが同じ女の子との何気ない会話を通して、いつか新しい学校を自分の学校だと思う日やいつかこの町を自分の町だと、迷わず言う日が来るかもしれない、と思えるようになります。
<表現の工夫>
このお話での表現の工夫の一つは、乗り物の動きが亮太の心に関連する形で描かれていることです。
その一つは、電車です。
・タタン、タタン、タタン。
タタン、タタン、タタン。
電車は軽やかなリズムでゆれている。
この電車の動きに合わせるように亮太の心もはずんでいます。
・もうすぐ友達に会えると思うと、亮太はわくわくした。
しかし、帰りの電車は、同じリズムなのに、涼太には全く違うように聞こえます。
・帰りの電車は、ぬれた服を着たように体が重かった。
タタン、タタン、タタン。電車の音も単調で、ちっともはずんでなどいない。
もう一つは、飛行機です。
気持ちを新たにした亮太の目に飛行機が写ります。
・顔を上げると、まだ明るい大きな空が広がっている。その中を、一筋の飛行機雲が、まっすくのびていた。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「物語文の教材研究の仕方」に挙げた10個の視点のうち、最後の指導計画を除いた9つの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
⭐️ ⭐️
他の教材の教材分析については、次のページをお読みください。
大造じいさんとガン 教材分析009に進む(内部リンク)
物語文の教材研究については、次のページもお読みください。
物語文の教材研究の仕方(1)基本的な考えに進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(2)視点に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(3)設定・人物に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(5)会話・行動に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(6)主題に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(7)表現の工夫に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(8)指導法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(9)指導方法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(10)目標と教材の関係に進む(内部リンク)
コメント