風切るつばさ 教材分析055

教材分析
つばさ
つばさ

風切るつばさ」の教材分析について知りたいです。

 よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることが大切です。

 しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。

 そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。

 今回は、「風切るつばさ」です。

風切るつばさ:教材分析

🟠風切るつばさ:教材分析

 この教材は、東京書籍の6年生の教科書に掲載されています。

<作者>

 木村裕一(きむら・ゆういち)作

 黒田征太郎(くろだ・せいたろう)絵

 出典:「風切る翼」(講談社・1994年)

 木村裕一さんについて

 1948年東京都で生まれました。日本の絵本作家、童話作家です。絵本・童話創作に加えて、戯曲屋コミックの原作、小説の執筆など多方面で活躍されています。

 名前の表記は、平仮名の「きむらゆういち」と記載されることもあります。

 多摩美術大学を卒業しています。卒業後、造形教育の指導、テレビ幼児番組のアイディアブレーンなどを経て、絵本・童話作家になりました。

 「ごあいさつあそび」などの「赤ちゃんのあそびえほん」や「あらしのよるに」シリーズが有名です。

 「あらしのよるに」では、講談社出版文化賞、産経新聞児童出版文化賞、JR賞を受賞しています。この絵本を舞台化した脚本「あらしのよるに」で斎田喬戯曲賞、松尾芸能財団研修奨励賞、厚生大臣賞、東京都優秀児童演劇優秀賞を受賞しました。この作品は、2005年に映画化、2012年にアニメドラマ化されています。

 なお、木村裕一さんの著書を紹介するオフィシャルホームページがあります。

きむらゆういちオフィシャルページに進む外部リンク

<題名>

 題名は「風切るつばさ」です。

 つばさと書いてありますので、題名を読むだけで、鳥か飛行機など空を飛ぶものの話かな、と子どもは思うと思います。

<設定>

 いつ(時):夕ぐれどき

 どこ(場所):モンゴルの草原

 だれ(登場人物):アネハヅルの群れ

<人物>

 クルル……主人公。アネハヅル。

 カララ……クルルによりそう仲間のツル。アネハヅル。

 キツネ……アネハヅルの群れをおそう。

 アネハヅルの仲間たち……キツネにおそわれたのをクルルのせいにする。

<あらすじ>

・夕ぐれどき、若いアネハヅルの群れがキツネにおそわれ、1羽の若い命が失われた。

・モンゴルの草原、うず巻く風の中、傷ついた群れは、無言の夜をむかえた。

・だれの心にも後悔がうずまく中、だれかが口を開く「あのとき、だれか、羽ばたいたよね」

・そして、それはクルルがカララにえさをやっているときだという話になった。

・いかりのもっていき場が見つかり、口々にクルルにきびしい言葉をぶつける。

・(あのとき、羽ばたいたのはおれだけじゃない)と思ったが、クルルはだまっていた。

・そのときからクルルは仲間殺しの犯人のようにあつかわれ、味方はいなかった。

・友達も仲間も信じられなくなったクルルは、飛ぶことがつらくなってきた。

・ある朝、クルルは飛べなくなった。まい上がれないので、うずくまるしかなかった。

・冬が近づいてくる。冬のモンゴルはとても寒いので、ツルの群れはインドにわたっていく。

・冬を前に飛べないツルは死ぬしかない。でもクルルにはどうでもよくなっていた。

・やがてツルの群れが南に飛んでいく。第二、第三の群れもわたり始める。

・白い雪がまい始めたとき、クルルの目に一羽の鳥が見えた。カララだ。

・もしカララが「いっしょに行こう」と言えば、クルルは飛べてもことわるつもりだった。

・でも、カララは、ただじっととなりにいて、わたっていく群れをいっしょに見ていた。

・日に日に寒さが増してくる。

・(こいつ覚悟しているんだ。)ククルの心が少しずつ解けていく気がした。

・(そうか、おれが飛ばないとこいつも…。)と思ったとき、狐が現れた。

・「危ない!」クルルはカララをつき飛ばすように羽ばたいた。カララも飛び上がった。

・「あっ…。」気がつくと、クルルもまい上がっていた。キツネがくやしそうに見ている。

・「おれ、飛んでる。」クルルは思わずさけんだ。羽ばたくと体がぐんぐんのぼっていく。

・風を切るつばさの音が、ここちよいリズムで体いっぱいにひびきわたった。

・「わたれるぞ、それなら、あのそびえたった山をこえることができるぞ。」

・カララはふり向いて「いっしょに行ってくれるかい?」と言った。

・「もちろんさ。」クルルも少し照れて笑って見せた。

・二羽のツルは最後の群れを追い南に向かう。つばさを羽ばたかせ、どこまでもどこまでも…。

<場面>

 ここでは、このブログで紹介している5場面に分け、1場面を40字程度にまとめてみます。

① 夕ぐれどき、アネハヅルの群れがキツネにおそわれ、幼い鳥の命が失われた。

② キツネにおそわれたのはクルルのせいだとされ、クルルは仲間はずれにされた。

③  みんなと飛ぶことがつらくなったクルルは、いつのまにか飛べなくなってしまった。

④  ツルの群れが南に飛び立つ中、カララがおり立ち、だまってクルルのとなりにいつづけた。

⑤ キツネにおそわれクルルは飛ぶことができた。二羽のツルは南をめざし飛びつづけた。

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<人物の会話>

会話について

 この物語には、重要な会話がいくつかあります。

重要な会話の一つは、仲間のツルがクルルを少しずつ追いつめていく会話です。学級で仲間はずれが起こるときのように、誰かの無責任な言葉が次々と続きます。

「あのとき、だれか、羽ばたいていたよな。」

「クルルがカララにえさをとってやったときか?」

「キツネに気づかれたのは、そのせいだよ。」

「あんなとき、えさなんて分けるんじゃないよ。」

「おれは前から、ああいうクルルが気になってたんだ。」 

クルルは、仲間に反発しつつ、自分を責める言葉も自分に投げかけます。ふしぎなもので、自分には本当な何も責任がないことないのに、仲間はずれにされてしまうと、いつの間にか自分のことが嫌いになってしまうことがあります。

(あのとき、羽ばたいたのはおれだけじゃない。キツネは、その前からねらっていたんじゃないのか。カララにえさをあたえたことと、本当に関係があるのか。)

「あのとき、どうして言い返さな買ったんだ。みんなとうまくできない自分がくやしい、こんなじぶんがいやだ。自分の顔、自分のあし、自分のつばさ、みんないやだ。」

そんな傷ついたクルルの心を救ったのは、カララです。でもカララは何も言いません。時には、沈黙は多くの慰めの言葉よりも大きな意味をもつことがあるのです。

 クルルは、もしカララが「さあ、いっしょに行こう!」と言ったら、たとえ飛べたとしても首を横にふるつもりだった。「おれなんてかいらないだろう。」というつもりだった。でもカララは何も言わなかった。ただじっととなりにいて、南にわたっていく群れをいっしょに見つめていた。

となりに寄り添う人がいると、かたくなな心でも解けることがあります。自分のことしか考えていなかったクルルはいつしか、カララのことを心配するようになります。

(こいつ覚悟しているんだ。)

(そうか、おれが飛ばないともこいつも……。)

思いがけないきっかけで、できないことができることがあります。今回は、キツネの急襲がそれにあたります。

「危ない!」

「あっ……。」

「おれ、飛んでる。」

友の心配とキツネの急襲のおかげで飛べたクルルは喜び、友のカララに呼びかけます。それに対して、カララも喜んで応じます。

「わたれるぞ。これなら、あのそびえ立った山をこえることができるぞ。」

「いっしょに行ってくれるかい?」

「もちろんさ。」

行動について

 行動からもいろいろわかります。

無責任な言葉から始まったクルルへの仲間はずれは日増しに強くなります。まるで学級での仲間はずれみたいです。

・そのときからクルルは、まるで仲間殺しの犯人のようにあつかわれるようになった。だれ一人、かれの味方はいない。カララでさえ、だまってみんなの中に交じっている。仲間、友達、今まであたりまえだったもの全てが一変した。みな、かれに背を向け、口をきく、者さえだれもいない。

心理的に追い詰められると、体が反応することがあります。まるで学校でいやなことがあった子どもが学校に行けなくなるみたいに、クルルは飛べなくなります。そしてじっとしています。

・ある朝、クルルは飛ばなくなっていた。いつものように羽ばたいているのに、体がまい上がらないのだ。クルルは、ただじっと草原の片すみにうずくまるしかなかった。

・冬を前にし飛ばなくなったツルは、死ぬしかなかった。でも、クルルには、そんなこと、どうでもよくなっていた。えさを食べず、ただじっとうずくまっていることだけが、おしつぶされされそうな最後のプライドを保つ、ゆいいつの方法に思えた。

そんな追い詰められたクルルの心を解かすのは、カララの行動です。「雄弁は銀、沈黙は金」という言葉があります。カララは沈黙して寄り添うという行動を選択します。

・カララは何も言わなかった。ただじっととなりにいて、南にわたっていく群れをいっしょにむつめていた。

カララの寄り添いとキツネの急襲で飛べることになったクルルは飛べることになったことを喜びます。本作の題名になっている「風切るつバサ」という表現にクルルの喜びが満ちあふれています。

・力いっぱい羽ばたくと、風の中を体がぐんぐんとのぼっていく。

・風を切るつばさの音が、ここちよいリズムで体いっぱいにひびきわたった。

<主題>

 この物語の主題は、何でしょうか?

 私にはツルのことを描きながらも、筆者は、学校などでの友だち関係、いじめ、不登校について書いているようにも読み取れました。

 いじめはふとしたきっかけでおこり、いじめられるといつしか自尊感情がさいなまれてしまい、自暴自棄になったり、不登校を選択したりします。そのような傷ついた心を慰めるのは、自分を愛する人が黙ってそばに寄り添ってくれることだったりします。その時に、言葉はかえって邪魔になります。ただ、黙ってそばいてくれるだけで十分です。そして、ふとしたきっかけで、また再び歩き始めることができるようになります。

 このような、「人生における挫折と再生の物語」のようにも読めました。

 勿論、少し飛躍したこの読みは、全く個人的な読み取りです。

<表現の工夫>

 この物語文には、さまざまな表現の工夫があります。

 1つは、擬人法的な書き方です。物や自然が人間がすることのように描かれています。次のような表現です。

いかりの持っていき場が見つかったとばかりに、みな、口々にクルルにきびしい言葉をぶつけてくる

冬のモンゴルの草原は、零下五十度の寒さにおそわれる

 2つめは、対比です。クルルの自分のつばさに対する2つの場面での表現に、クルルの気持ちがよく表れています。

風の中を飛ぶ自分のつばさの音すら、みっともない雑音に聞こえる。

風を切るつばさの音が、ここちよいリズムで体いっぱいにひびきわたった。

<まとめにかえて>

 この教材分析は、このブログに載せている「物語文の教材研究の仕方」に挙げた10個の視点のうち、最後の指導計画を除いた9つの視点に基づいて行ったものです。

 教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。

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 他の教材の教材分析については、次のページをお読みください。

サボテンの花 教材分析039に進む内部リンク

海の命 教材分析020に進む内部リンク

だいじょうぶ だいじょうぶ 教材分析040に進む内部リンク

世界でいちばんやかましい音 教材分析003に進む内部リンク

大造じいさんとガン 教材分析009に進む内部リンク

 物語文の教材研究については、次のページもお読みください。

物語文の教材研究の仕方(1)基本的な考えに進む内部リンク

物語文の教材研究の仕方(2)視点に進む内部リンク

物語文の教材研究の仕方(3)設定・人物に進む内部リンク

物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む内部リンク

物語文の教材研究の仕方(5)会話・行動に進む内部リンク

物語文の教材研究の仕方(6)主題に進む内部リンク

物語文の教材研究の仕方(7)表現の工夫に進む内部リンク

物語文の教材研究の仕方(8)指導法に進む内部リンク

物語文の教材研究の仕方(9)指導方法に進む内部リンク

物語文の教材研究の仕方(10)目標と教材の関係に進む内部リンク

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