物語文の教材研究の仕方の続きです。
筆者の表現の工夫を読む
物語を書く人は、様々な表現の工夫をしています。表現の工夫を探すことも教材研究です。
1.伏線と落ち
物語の種類にもよりますが、最後に隠されていた事柄を提示するという書き方があります。
小学校の教科書には、あまり載っていませんが、推理小説を考えるとよいでしょう。
最後に、犯人と犯行の動機・犯行の手順などが明かされます。
読者は作者が様々なところに書いているヒントをもとに、犯人や犯行の動機・犯行の手順などを推理していきます。
この時に、様々な箇所に、犯人の手がかりになるような事実や手がかりを書いていくことを「伏線」といいます。
物語の手法としては、一般的です。
東京書籍の3年生の教科書に出てくる物語に、「ゆうすけ村の小さな旅館」があります。
ゆうすげ旅館にたくさんのお客さんがやってきます。
旅館をきりもりするつぼみさんが買い物の帰り、「せめて、今とまっているお客さんたちが帰るまで、だれか、てつだってくれる人がいないかしら……。」
そうひとり言を言った次の日、色白のぽっちゃりしたむすめがやってきて言います。
「わたし、美月っていいます。わたし、こちらの畑をかりてる宇佐見のむすめです。これ、あの畑で作ったウサギダイコンです。」
そして、むすめは、くるくるとよくはたらき、たんぽぽの花とよもぎの葉っぱをつんでくると、料理をつくります。
その料理を食べると、みんなの耳がよくなります。
どうやら美月は、うさぎらしいと思われる書き方をたくさんの箇所でしています。
結末に向けて、なんとなくそうだろうなあと思わせるような黄色いマーカで塗った部分のような書き方をしていくことを「伏線をはる」といいます。
5年生の教科書に出てくる「注文の多い料理店」などもその典型例でしょう。
最初、題名を見た場合、流行っている店のような感じを受けます。
しかし、戸に書かれた客に対する注文が多いのだということに徐々に気づかされていきます。
どのような伏線を書いているのか探してみるのも、教材研究の一つです。
「落ち」というのは、伏線に書かれた事柄が最終的にどうなるのかということです。
「ゆうすけ村の小さな旅館」の場合、畑にでかけたつぼみさんは、美月がうさぎであることに気づきます。
「注文の多い料理店」の場合は、山猫の親方に食べられる寸前で犬と猟師に助けられます。
しかし、恐怖のために「紙くずのようになった顔は、元のとおりになおりませんでした」と最後の文に書かれています。
物語を読んでいて、最後に、なるほどと感心するような終わり方がされていると、すかっとします。
よい物語では、結末が納得できるようになっています。
2.情景描写と色
低学年の物語には、ほとんど出てきませんが、中学年以上の物語には、情景を描いた「情景描写」がよく出てきます。
4年生の教科書に出てくる「ごんぎつね」には、次のような情景描写があります。
「いいお天気で、遠く向こうには、お城の屋根がわらが光っています。」
「墓地には、ひがん花が赤いきれのようにさき続けています。」
5年生の教科書に出てくる「大造じいさんとがん」には、次のような情景描写があります。
「東の空が真っ赤に燃えて、朝が来ました。」
「がんの群れを目がけて、白い雲のあたりから、何か一直線に落ちてきました。『はやぶさだ。』」
これらの描き方を読んでいると、美しい絵を見ているような感じがします。
美しい情景描写には、色に関係する表現が多いという特徴もあります。
情景描写が、登場人物の心理と関係していることもあります。
情景描写を読むことで、登場人物の気持ちが想像できることもあります。
作者が情景を描く中で書こうとした意図や効果について考えてみることも、教材研究として面白いことだと思います。
⭐️ ⭐️
物語文の教材研究については、次のページもお読みください。
物語文の教材研究の仕方(1)基本的な考えに進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(2)視点に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(3)設定・人物に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(5)会話・行動に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(6)主題に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(8)指導法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(9)指導方法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(10)目標と教材の関係に進む(内部リンク)
教材の教材分析については、次のページをお読みください。
初雪のふる日 教材分析①に進む(内部リンク)
世界一美しいぼくの村 教材分析②に進む(内部リンク)
世界でいちばんやかましい音 教材分析③に進む(内部リンク)
かさこじぞう 教材分析⑦に進む(内部リンク)
大造じいさんとガン 教材分析⑨に進む(内部リンク)
スーホの白い馬 教材分析⑫に進む(内部リンク)
おにたのぼうし 教材分析⑱に進む(内部リンク)
モチモチの木 教材分析⑲に進む(内部リンク)
海の命 教材分析⑳に進む(内部リンク)
雪の夜明け 教材分析㉓に進む(内部リンク)
コメント