水泳事故から子ども守りたいですね。
最近、水泳教室をしている最中に、5才の男の子が亡くなるという悲しい事故がありました。
今回は、「水泳事故から子どもを守る」ことについて書きます。
水泳事故から子どもを守る
🟠水泳事故から子どもを守る
<事件の概要>
とても悲しい事件のニュースを知りました。
2023年(令和5)年4月22日、富山県高岡市の「オーパスフィットネスクラブ高岡」というスイミングスクールで、水泳教室をしている最中に、5才の笠谷拓杜(かさたにひろと)さんが溺れて亡くなるという悲しい事故がありました。
事故は、水泳の練習や検定が終わり、15分間の自由時間が始まった直後の自由時間に起こりました。このスイミングスクールでは、自由時間は、プールサイドで間隔をあげて並ぶルールになっていましたが、4人いたコーチのうちの1人はプールと事務室を行き来し、別の1人は水中で他の子どもと遊んでいました。
事故の時、拓杜さんは、プールに飛び込んだ後に浮き上がらず、そのまま沈んでいく様子が監視カメラに写っており、発見まで約5分かかっていたことが既に分かっています。ヘルパーと呼ばれる浮具を腰に着けていましたが、発見時は外れていました。
事故は、22日の午後に起こり、心肺停止状態で発見、搬送され、病院で死亡が確認されました。
事故当時、水泳教室には、拓杜さんを含む5才から13才の19人の子どもが参加していました。参加者の中では、拓杜さんが一番背が低かったそうです。
水泳教室を行なっていたプールは、深さが1.2メートルほどある25メートルプールでした。背の低い拓杜さんには背が届かないところもあったみたいです。
プールの中には、一部の場所で補助の台が置かれていました。台の上では呼吸をすることができますが、台から落ちて水の中に沈んでしまうと、呼吸ができなくなります。
<なぜ事故が起こったのか>
今回、なぜこのような悲しい事故が起こったのでしょうか。
それは、大人がきちんと子どもの安全を見守ることをしなかったからです。
日本は世界の国では珍しく、たくさんの小学校にプールが設置され、水泳指導が学校で行われている国です。
学校でも時折、水泳練習中に子どもが急に病気になったり、事故に巻き込まれたりして死亡することがあります。
独立行政法人日本スポーツ振興センターでは、2018年(平成30年)に「学校における水泳事故防止必携・2018年改訂版」という冊子を出しています。
学校における水泳事故防止必携・2018年改訂版に進む(外部リンク)
この冊子によると、平成24年(2012年)度から平成28年(2016)の5年間の学校管理下おける水泳中の死亡事故は25件発生しています。
小学校で9件、中学校で4件、高等学校で10件、幼稚園と保育所でそれぞれ1件ずつ起こっています。
水泳中の死亡事故の原因としては、溺死が圧倒的に多い21件、 突然死が4件でした。この5年間では、この2つの原因が死亡事故のすべてを占めていました。突然死4件の内訳は、中枢神経系突然死が2件、大血管系突然死が2件でした。
水泳中の死亡事故発生の場合としては、各教科等(体育科・保健体育科)の授業中が4件、学校行事が3件、課外授業(運動部活動など)の8件、通学中に湖や河川に落下す流などによるものが7件でした。
<私が子どもの頃の思い出>
私が子どもの頃、プール指導の後は、よく自由時間がありました。自由に過ごすことができるので、私はこの自由時間が大好きでした。水の中で自由に友だちと遊んだり、自由に泳ぎの練習をしたりできるのはとても楽しい時間でした。
また、「洗濯機」といって水の中で一定の方向に一斉に動いて、水の勢いを作り、「伏し浮き」
の状態になって水に流されるのを楽しむこともよくありました。時折、指導の先生から「逆方向」という指示があり、水の勢いに逆らってなかなか進めない状態で、水の中を動くのも楽しかったです。
時が経ち、私自身が小学校の教員になった時も、このような自由時間や「洗濯機」を普通に行なっていました。
確かに、このような水泳指導中の自由時間や「洗濯機」という活動は、とても楽しいものです。
しかし、安全を考えた場合、このような自由時間や洗濯機という活動をするということは、自ら水泳事故が起こりやすい状況をつくっているようなものです。
私の所属している自治体では、水泳指導中の「洗濯機」という活動は、事故になる割合が高いので行われなくなりました。自由時間については、ある程度黙認されているように思います。
<指導者の心得>
先程紹介した「学校における水泳事故防止必携・2018年改訂版」には、次のような「指導者の心得」が書かれています。
指導者の心得
注意を要する者への配慮事項は、特に水泳中の健康管理に注意する必要があるので、指導者が健康相談の結果を十分理解し、次のようなことに留意することが大切である。
1 指導担当者を決め、その監督の下に指導する。
2 指導場所や時間、内容などを決めて指導する。
3 当日の健康状態を家庭連絡及び健康観察で確認(参加カードなどを活用)し、指導のついて配慮する。
4 児童生徒等相互による健康観察の方法として、バディーシステムを活用した観察の仕方についても指導しておく。
5 これまで女子の月経中の水泳については、禁止する傾向が強かったが、最近では水泳によって月経に伴う諸症状が悪化することはないと考えられている。したがって、月経に伴う個々の症状によって適否を判断し、全面的に禁止するのではなく、症状によっては積極的に参加するような指導が大切である。また、月経中の水泳の心得については、事前に、保護者、保健体育担当教諭、養護教諭、学級担任及び学校医等と連携を図りながら指導しておく。
なお、健康相談等の内容については、プライバシーにかかわることなので取扱いに十分注意する必要がある。
学校における水泳事故防止必携・2018年改訂版
ここに書かれたこと以外にも、水泳指導の際には、学校にあるAEDをプールサイドに持っていくなどの準備をしておくことも大切ですし、救命救急の研修を受けておき、応急処置ができるようにしておくことも大切です。
なお、救命救急の方法については、次のページをお読みください。
保健安全指導(救命救急研修)初任者研修014に進む(内部リンク)
<バディーシステムとは>
「学校における水泳事故防止必携・2018年改訂版」には、「バディーシステム」の説明も書かれています。
バディーシステムとは、泳者を二人ずつの組に編成して安全の確保と指導の能率を上げることを主眼とした指導法である。
二人組になった者はいつも離れずに近くにいて、相互に監視し合い、助け合って練習し、相手の異常の発見に努めさせる。
水中、陸上に限らず、二人手をつないで高く挙げさせるなどして人員点呼を行い、安全を確保する。人員の確認は、必要に応じて行う。
学校における水泳事故防止必携・2018年改訂版
バディシステムを、学校内の教職員で共通理解して普通に行なっている学校もあれば、指導者の自由裁量に任されている学校もあると思います。
当然、バディシステムを採用する方が、安全性は高まります。しかし、全ての学校でこのシステムが採用されていないというのが現在の日本の現状だと思います。
日本の学校において、指導法がそれぞれの教員に任されているというのは、とてもいいことです。教員がそれぞれの指導力を高めるために研修を行い、子どもにあったよりよい方法を模索することはとてもよいことです。
ただ、安全に関しては、バディシステムのような、既にあるよい方法を採用することも大切なのではないかなと思います。
なお、基本的な水泳指導にまとめたものがあります。そちらもお読みください。
水泳指導 小学校初任者研修015に進む(内部リンク)
<悲しい事故を教訓にして>
今回、とても悲しい事故が起こってしまいました。
人は死ぬのが決まっている生き物ですので、事故や病気で人が亡くなるということは避けては通れないことです。
しかし、安全に対する意識を高め、予防策を講じることで、本来は回避できるはずの事故もあります。今回の悲しい事故は、もう少し大人が適切に子どもを見守るということを怠っていなければ避けられた事故のように思います。
新型コロナウイルスも治りつつあり、今年はここ数年に比べると、学校のおける水泳指導も普通に行われるようになると思います。
その際に、回避できる事故が起こらないように、今一度、教職員の安全に対する意識を高めて欲しいと思います。
なお、「安全教育:子どもを守ること」に関係する記事を集めた一覧表は、次のページにあります。
安全教育:子どもを守る 一覧表に進む(内部リンク)
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