「雪のふる日」という物語文の教材分析について知りたいです
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることは大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、具体的な教材分析の例を提示することにします。
今回は、光村図書4年下に掲載されている「初雪のふる日」です。
初雪のふる日:教材分析
🟠初雪のふる日:教材分析
<作者>
安房直子(あわ・なおこ)さん作
寺門孝之(てらかど・たかゆき)さん絵
出典:「初雪のふる日」(偕成社・2007年・絵本:絵本の絵は、こみねゆらさん)
安房直子さんについて
1943年、東京に生まれます。日本女子大学国文科卒業です。在学中より山室静氏に師事して、「目白児童文学」「海賊」を中心に、かずかずの美しい物語を発表します。代表作には、「きつねのまど」(教科書に掲載)「さんしょっ子」(日本児童文学者協会新人賞)「北風のわすれたハンカチ」(産経児童出版文化賞推薦)などがあります。1993年に永眠されました。
<題名>
題名は「初雪のふる日」です。この題名から、このお話の季節が冬であり、雪のふる日のお話であることが予想できます。
<設定>
最初の設定は、次の通りです。
いつ(時):秋の終わりの寒い日
どこ(場所):村の一本道
だれ(登場人物):小さな女の子
<人物>
小さな女の子……主人公、石けりをはじめてしまう
店番のおばあさん……女の子に声をかける
真っ白いうさぎたち……石けりをする女の子をおいかけてくる
女の子のおばあさん……初雪の白いうさぎの話を聞かせてくれた
町の人々……女の子の名前や住所をたずねてくれる
一人の年より……女の子が白うさぎにさらわれそうになったことに気づく
<あらすじ>
・秋の終わりの寒い日、小さな女の子が石けりの輪を見つけて入ってみる。
・石けりの輪はどこまでも続き、女の子は、石けりを続ける。
・そろそろやめようとした時、白いうさぎが追いかけてくる。気づくと、前にもうさぎがいる。
・女の子は、うさぎの群れにまきこまれたら帰ってこられなくなるというおばあさんの話を思い出し、おそろしくなる。
・よもぎはまよけなので、よもぎと言おうとするが、うさぎの歌がじゃまをする。
・1まいのよもぎの葉を見つけ、うさぎに、よもぎのうらはなぜ白いかというなぞなぞを出す。
・うさぎは、春の歌を歌い始め、気づくとうさぎがいなくなっている。
・気づくと女の子は、知らない遠い所にいることがわかる。
・女の子は、バスで家に帰ることになる。
なお、この部分については、リライト教材として、漢字に読みがなをつけたものを、姉妹ブログの「よみもの」に用意しています。
初雪のふる日・あらすじに進む(外部リンク)
<場面>
ここでは、このブログで紹介している「物語を5場面に分け、1場面を30字程度にまとめる」という方法でして、分析をしてみます。
物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む(内部リンク)
①ある寒い日、女の子が輪に気づき、石けりを始めることにする。
②石けりをやめられないと、うさぎに雪にされるという話を思い出す。
③よもぎのまよけをためそうとするが、うさぎたちにじゃまされる。
④よもぎの葉を見つけ、うさぎになぞなぞをすることで、助かる。
⑤女の子は、元の世界にもどるが、そこは、とても遠い町だった。
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この物語では、不思議な世界に入る明確なきっかけは明確に書かれていません。不思議な世界への入り口は、次のどこかです。
・その道には、ろうせきでかかれた石けりの輪が、どこまでも続いていたのです。
・バスのていりゅう所の辺りまで来たとき、ほろほろと雪がふり始めました。
・空はどんより暗くなり、風も冷たくなりました。
学習として、どこが、不思議な世界への入り口になっているのかを話し合わせるのもおもしろいと思います。
<人物の会話>
女の子の会話はとても重要です。いくつかあります。
1つの女の子の会話は、「かた足、かた足、両足、かた足ー」
これに対応するうさぎの会話は少し違います。
「かた足、両足、とんとんとんー」
2つめの女の子の会話は、
「ねえ、どこへ行くの。この石けりの輪、どこまでも続いているの。」
それに対するうさぎの会話も重要です。
「どこまでも、どこまでも、世界の果てまで。わたしたちみんな、雪をふらせる雪うさぎですからね。」
3つめは、女の子がうさぎに告げたなぞなぞです。
「よもぎの葉っぱのうら側は、どうしてこんなに白いのかしら。」
とまどううさぎたちに、女の子は告げます。
「そんなのかんたんよ。あれは、みんな、うさぎの毛。野原でうさぎが転がって、よもぎの葉っぱのうら側に、白い毛がどっさり落ちたのよ。」
女の子のおばあさんの会話も重要です。
1つは、初雪の日にうさぎの群れにまきこまれたら雪のかたまりになってしまうという会話。
「だから、気をつけなけりゃいけないよ。もしも、そのうさぎの群れにまきこまれたりしたら、もう帰ってこれなくなるからね。うさぎといっしょに、世界の果てまで飛んでいって、最後には、小さい雪のかたまりになってしまうんだから。」
もう1つは、よもぎのおまじないが、まよけになるという会話。
「それでも、昔、たった一人だけ、白うさぎにさらわれて、生きて帰れた子どもがいたっけねえ。その子は、一生けんめい、おまじないを唱えたのさ。よもぎ、よもぎ、春のよもぎって。よもぎは、まよけの草だからね。」
もう1つ、重要な会話は、最後に出てくる年よりの会話です。
「この子は、きっと、白うさぎにさらわれそうになったのだ。」
なお、私が子ども用に作っている「よみもの」で、「よもぎ」について簡単な文を書いています。よければ、お読みください。
よもぎ Mugwortに進む(外部リンク・よみもの)
<人物の行動>
この物語では、石けりをすることがとても重要な行動です。簡単なのに、やめたくてもやめられない、とてもこわいですね。最初は、楽しかったはずなのに、いつの間にか、自分の力だけではやめることができないというのは本当に恐ろしいことです。
女の子がよもぎの葉を拾い、うさぎになぞなぞを問いかけるという行動もとても大切な行動です。
<主題>
この物語の主題は、何でしょうか?
主題は、知らないうちに異界に紛れ込むことがあるということなのかもしれません。
気づかないうちに、あるいは、最初は楽しいと思ううちに、いつの間にか自分の力だけではなかなか抜け出せないものに巻き込まれてしまうことがあるということなのかもしれません。
趣味には、そういう要素があります。推しメンやゲームや動画などに熱中することもそうかもしれませんね。
いじめや仲間はずれもいつも間にか巻き込まれてしまって、抜け出せなくなることがあります。
病気になることや盗みなどのよくないことをしてしまうこともそうかもしれません。
不登校なども知らないうちに、そのような立場に陥ってしまうことがあるのかもしれません。
でも、このお話のよさは、きちんとした希望があることです。
おばあさんの話という他人の知恵と、なぞなぞというとんちを使うことで、そこから抜け出せるからです。
これはあくまで、個人的な見解です。読み手一人一人に自分なりの主題があっていいと思います。
<表現の工夫>
この物語文には、さまざまな表現の工夫があります。
○ 天気に関する表現
・ほろほろと雪がふり始めました。
・ふりしきる雪の中
○ 寒い様子を表す表現
・女の子の手足かじかんで、もう氷のようになりました。
・ほほは青ざめ、くちびるはふるえていました。
○ 春の様子を表す表現
・花のにおいをかいだような気
・小鳥の声を聞いたような気
・あたたかい春の日をいっぱいに浴びて、よもぎの野原で石けりをしているような気持ち
・体は、だんだん温かくなり、ほほは、ほんのりばら色になりました。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「物語文の教材研究の仕方」に挙げた10個の視点のうち、最後の指導計画を除いた9つの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
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物語文の教材研究については、次のページもお読みください。
物語文の教材研究の仕方(1)基本的な考えに進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(2)視点に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(3)設定・人物に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(5)会話・行動に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(6)主題に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(7)表現の工夫に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(8)指導法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(9)指導方法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(10)目標と教材の関係に進む(内部リンク)
他の教材の教材分析については、次のページをお読みください。
世界一美しいぼくの村 教材分析002に進む(内部リンク)
世界でいちばんやかましい音 教材分析003に進む(内部リンク)
かさこじぞう 教材分析007に進む(内部リンク)
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