「白いぼうし」の教材分析について知りたいです。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることは大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、4年生の教科書に載っている「白いぼうし」の教材分析をします。
白いぼうし:教材分析
🟠白いぼうし:教材分析
この作品は、光村図書と教育出版と学校図書の4年生(上)の教科書に載っています。
現在発行されている4つの教科書のうち、3つの教科書に載っています。
<作者>
あまんきみこさん作
こころ美保子(こころ・みほこ)さん絵(光村図書)
入江めぐみ(いりえ・めぐみ)さん絵(教育出版)
吉田尚令(よしだ・ひさのり)さん絵(学校図書)
出典:「車のいろは空のいろー白いぼうし」(ポプラ社・1968年)
あまんきみこさんについて
1931年(昭和6年)生まれです。日本の児童文学者です。
昔、中国にあった満州撫順市で生まれました。
第2次世界大戦後は、ソ連軍占領下の大連に2年近くいました。
1947年(昭和22年)一家で大阪に帰国しました。
20歳の時に、結婚し、夫の転勤に伴い東京に移住しました。
勉学したいと思い、日本女子大学児童学科通信教育部に入学しました。児童文学者の与田準一さんを知り、与田さんの勧めで、坪田譲治さん主催の「びわの実学校」に「くましんし」を投稿しました。
1968年(昭和43年)「びわの実学校」に発表した作品を集めた「車のいろは空のいろ」を出版しました。この作品集で、第1回日本児童文学者協会新人賞、第6回野間児童文芸奨励作品賞を受賞しました。
あまんさんの作品は、「ちいちゃんのかげおくり」「おにたのぼうし」「名前を見てちょうだい」などたくさんの作品が小学校国語の教科書に掲載されています。
<題名>
題名は「白いぼうし」です。
この題名だけでは、白いぼうしが出てくる話だとはわかりますが、何について書かれた作品かはわからないと思います。
<設定>
いつ(時):六月のはじめ。
どこ(場所):タクシーの中
だれ(登場人物):運転手の松井さんとお客のしんし
<人物>
松井さん……主人公。タクシーの運転手。
お客さん……タクシーのお客さんのしんし。
おふくろ……いなかに住む松井さんのお母さん。
男の子……ちょうをつかまえ、ぼうしでおさえている。たけのたけおという名前。
お母さん……男の子に連れられエプロンを着けたままやってくる。
女の子……おかっぱのかわいい子。タクシーにすわっているが、急にいなくなる
ちょうちょ……ぼうしの中にいた1羽のちょうと、野原にいたたくさんのちょうちょ。
※夏みかん=重要な役割はするが、人物には入らない。
<あらすじ>
・「レモンのにおいですか。」とほりばたで乗せたお客のしんしが話しかけた。
・「いいえ、夏みかんですよ。」と運転手の松井さんがにこにこして答えた。
・今日は六月のはじめ。夏が始まったような暑い日。
・「夏みかんは、こんなににおうものですか。」と聞くしんし。
・「もぎたてなのです。いなかのおふくろが速達で送ってくれました。うれしかったですので、いちばん大きいのを、この車に乗せてきました。」
・大通りを曲がって、うら通りに入った所で、しんしはおりた。
・松井さんは、車道のすぐそばに小さいぼうしが落ちていることに気づく。
・松井さんが、ぼうしをつまみあげたとたん、もんしろちょうが飛び出た。
・松井さんは、あわててぼうしをふり回しましたが、ちょうは見えなくなる。
・ぼうしには、ようちえんの子どもの名前がついていて、松井さんはため息をつく。
・ちょっとの間つっ立っていた松井さんは、急いで車にもどった。
・運転席から取り出したのは、あの夏みかんで、いいにおいがあたりに広がる。
・松井さんは、夏みかんに白いぼうしをかぶせると、石でつばをおさえた。
・車に、もどると、かわいい女の子が後ろのシートにすわっている。
・「道にまよったの。あのね、菜の花横町ってあるかしら。」
・「菜の花橋のことですね。」
・エンジンをかけたとき、遠くから、元気な男の子の声が近づいてくる。
・「あのぼうしの下。お母さん、本当のちょうちょが、いたんだもん。」
・虫とりあみをかかえた男の子が、お母さんの手をぐいぐいひっぱってくる。
・「ぼくが、ぼうしを開けるよ。お母さんは、あみでおさえてね。あれ、石がのせてあらあ。」
・客席の女の子が、後ろからせかせか言う。「おじさん、早く行ってちょうだい。」
・松井さんは、あわててアクセルをふみました。
・松井さんは、ぼうしをそうっと開けたときあの子はどんな目を丸くしたろう、と思った。
・すると、ぽかっと口を開けている男の子の顔が見えて、松井さんはわらいがこみあげてきた。
・「おや。」松井さんあわてた。バックミラーにだれもうつっていない。ふりむいてもいない。
・松井さんは車を止めて、考え考え、まどの外を見た。そこは、団地の前の小さな野原だった。
・白いちょうが、二十も三十も、もっとたくさん飛んでいた。
・おどるように飛んでいるちょうを見ている松井さんに声が聞こえてきた。
・「よかったね。」「よかったよ。」「よかったね。」「よかったよ。」
・それは、シャボン玉がはじけるような、小さな声だった。
・車の中には、かすかに夏みかんのにおいがのこっている。
<場面>
物語を、このブログで紹介している方法で、場面を5つに分け、1場面を30~40字程度にまとめてみます。(光村図書の教科書では、1行開きで4場面ですが、あえて5つに分けます。)
① 六月のはじめ、タクシーの中で松井さんとお客のしんしが、夏みかんの話をしている。
② 松井さんはぼうしを見かけ、つまみ上げると、ちょうが飛び出し、見えなくなった。
③ ため息をついた松井さんは、白いぼうしの下に代わりに夏みかんをおくことにした。
③ 松井さんが車にもどると女の子がいて、女の子のねがいで、菜の花橋にむかった。
④ ぼうしのことを思い出していると女の子がいなくなり、ちょうがたくさん飛んでいた。
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松井さんが道に落ちていたぼうしを持ち上げると、ちょうが飛び出し、悪いと思った松井さんは、代わりに夏みかんを置くことにします。車に戻ると、不思議なことに女の子がすわっています。女の子の願いで、菜の花橋に向かいます。男の子がどんなにおどろいているだろうと思っていると、女の子の姿がなくなっています。不思議に思い、車を止め、まどの外を見ると、そこは、野原で、たくさんのちょうが飛んでいました。そして、「よかったね」「よかったよ」という小さな声が松井さんに聞こえてきました。
<人物の会話>
この物語には松井さんの会話がいくつかありますが、どれも大切です。
最初は、タクシー運転手の松井さんが、お客さんと夏みかんについて会話をします。「これは、レモンのにおいですか。」と聞くお客のしんしに対してこう言います。
・「いいえ、夏みかんですよ。」さらに、
・「もぎたてなのです。きのう、いなかのおふくろが、速達で送ってくれました。においまでわたしにとどけたかったのでしょう。」
・「あまりうれしかったので、いちばん大きいのを、この車にのせてきたのですよ。」
次は、ぼうしを見つけたときのひとりごとです。
・「おや、車道のあんなすぐそばに、小さなぼうしが落ちているぞ。風がもうひとふきすれば、車がひいてしまうわい。」
そして、ぼうしをつまみ上げたとたん、もんしろちょうが飛び出します。そして、
・「ははあ、わざわざここにおいたんだな。」
そして、こう考えます。
・「せっかくのえものがいなくなったら、この子は、どんなにがっかりするだろう。」
3つめは、女の子との会話です。
・「道にまよったの。行っても行っても、四角い建物ばかりだもん。」
・「ええと、どちらまで。」
・「えっ。ーええ、あのね。菜の花横町ってあるかしら。」
・「葉の花橋のことですね。」
4つめは、松井さんは出てきません。男の子の会話です。
・「あのぼうしの下さあ、お母ちゃん、本当だよ。本当のちょうちょが、いたんだもん。」
・「ぼくが、あのぼうしを開けるよ。だから、お母ちゃんは、このあみでおさえてね。あれっ、石がのせてあらあ。」
この声を聞いて、女の子はせかせかと言います。
・「早く、おじちゃん、早く行ってちょうだい。」
女の子が急になくなり、松井さんは言います。
・「おや。おかしいな。」
そして、タクシーの外に出て、白いちょうを見る松井さんの耳に小さな声が聞こえます。
・「よかったね。」「よかったよ。」「よかったね。」「よかったよ。」
この物語では、会話文が入ることで、様子がよくわかりますし、松井さんの考えなどもよくわかります。とても効果的な会話文の使い方になっています。
<人物の行動>
たくさんの行動がありますが、やはり面白いのは、ちょうが逃げ出し途方にくれる松井さんの行動です。
・小さなぼうしをつかんで、ため息をついている松井さんの横を、太ったおまわりさんが、じろじろ見ながら通りすぎました。
・ちょっとの間、かたをすぼめてつっ立っていた松井さんは、何を思いついたのか、急いで車にもどりました。
・運転席から取り出したのは、あの夏みかんです。まるで、あたたかい日の光をそのまますめつけたような、見事な色でした。
<主題>
この物語の主題は、何でしょうか?
松井さんが主人公の「車のいろは空のいろ」シリーズに出てくるお話は、どれも不思議なことが起こります。
このお話では、2つの不思議なことが起こります。1つは、松井さんが乗せた女の子がいつの間にかいなくなって、代わりにちょうちょうが飛び、「よかったね。」「よかったよ。」という声が聞こえたことです。どうやら女の子は、ちょうちょだったみたいです。
もう1つは、たけのたけおという少年の身に起こります。ちょうちょをつかまえて、ぼうしで逃げないようにしていたのに、取りに戻ると、白いちょうが、みかんに代わっていたのです。
2つの変身は、どちらも松井さんの優しさが描かれています。
松井さんのやさしさが、この物語の主題といえるかもしれません。
<表現の工夫>
この物語文には、さまざまな表現の工夫があります。
特に目立つのは、優れた比喩表現です。夏みかんの描写は見事です。
・あの夏みかんです。まるで、あたたかい日の光をそのままそめつけたような、見事な色でした。
・すっぱい、いいにおいが、風であたりに広がりました。
野原でちょうちょを見た時の描写もいきいき描かれています。
・白いちょうが、二十も三十も、いえ、もっとたくさん飛んでいました。クローバーが青々と広がり、わた毛と黄色の花の交ざったたんぽぽが、点々のもようのようになってさいています。その上をおどるように飛んでいるちょうをぼんやり見ているうち、松井さんには、こんな声が聞こえてきました。
「よかったね。」「よかったよ。」
それは、シャボン玉のはじけるような、小さな小さな声でした。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「物語文の教材研究の仕方」に挙げた10個の視点のうち、最後の指導計画を除いた9つの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
⭐️ ⭐️
私は、子ども用のブログ「よみもの」で子どもが読めるような簡単な文章で、虫や草花についていくつか作っています。よければ、お読みください。
他の教材の教材分析については、次のページをお読みください。
おにたのぼうし 教材分析018に進む(内部リンク)あまんきみこさんの作品
スイミー 教材分析030に進む(内部リンク)
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モチモチの木 教材分析019に進む(内部リンク)
物語文の教材研究については、次のページもお読みください。
物語文の教材研究の仕方(1)基本的な考えに進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(2)視点に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(3)設定・人物に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(5)会話・行動に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(6)主題に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(7)表現の工夫に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(8)指導法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(9)指導方法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(10)目標と教材の関係に進む(内部リンク)
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