
「なまえつけてよ」の教材分析について知りたいです。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることは大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、5年生の教科書に載っている「なまえつけてよ」の教材分析をします。
なまえつけてよ:教材分析

🟠なまえつけてよ:教材分析
この作品は、光村図書の5年生の教科書に載っています。
<作者>
蜂飼耳(はちかい・みみ)さん作
佐藤真紀子(さとう・まきこ)さん絵
出典:この教科書のために書き下ろされた物語です。
蜂飼耳さんについて
1974年(昭和49年)生まれです。日本の詩人、エッセイスト、小説家です。
神奈川県で生まれました。早稲田大学大学院を修了されています。法政大学の特任教授をされた後、立教大学文学部の教授をされています。
1999年に、第1詩集「いまにもうるおっていく陣地」を発表されました。
<題名>
題名は「なまえつけてよ」です。
名前をつけるということは、とても楽しくわくわくすることです。それを誰かに頼まれるというのは、とても光栄なことです。何(誰)に名前をつけるのか、興味がわく題名だと思います。
<設定>
いつ(時):(放課後)。
どこ(場所):学校からの帰り道、牧場。
だれ(登場人物):春花
<人物>
春花……主人公。牧場で子馬を見かける。
おばさん……牧場をしている。春花に子馬の名前をつけるようにたのむ。
勇太……春花の同級生。最近引っ越してくる。
陸……勇太の弟。二年生。
勇太のお母さん……勇太と仲良くしてほしい、と頼まれる。
おばあさん……近所のおばあさん。
<あらすじ>
・学校の帰り道、春花は牧場で新しい子馬がいることに気づいた。
・作業をしていた牧場のおばさんが春花に話しかけたので、子馬の名前を聞いた。。
・すると、おばさんは、名前はまだ考えてないので「なまえをつけてよ。」と春花に言った。
・春花は、名前をつけてと任されるなんて、初めてのことだ。
・名前を考えている時、勇太が弟の陸を連れて、現れた。勇太はひと月前にひっこしてきた。
・勇太のお母さんに「仲よくしてね。」と言われたが、勇太は無口でどうしていいかわからない。
・子馬の名前をつけて欲しいと言われた話をすると、陸は目をかがやかせた。
・すぐ教えてほしいという陸に「明日の放課後、牧場に来たら教えてあげる」と言った。
・すると勇太は「もう行こう」と言った。「なによ、その態度」と思ったが、言葉を飲みこんだ。
・近所のそうじをしているおばあさんに会った。ねこのぽんすけがいたので、子馬の名前のヒントにしようと思って、名前の由来を聞いたが、名前をつけたのはおじいさんだった。
・夜、ふとんにもぐりこんでからも名前を考えた。子馬の特徴を思いうかべた。
・春花の心に一つの名前がうかんできた。安心してねむりに落ちた。
・次の日の放課後、春花は、牧場で、子馬を見ながら、勇太と陸を待った。
・陸と裕太が来た。陸が「名前、なんてつけるんだ。」と聞いた時、おばさんが現れた。
・「子馬の名前ー。」と言いかけると、おばさんは、馬は売ることになったという話をした。
・「がっかりさせたね。せっかく考えてくれた名前教えてくれる。」というおばさん。
・春花は、「いいんですー。それなら、しかたないですね。」と明るく答えた。
・二人は、こまったような顔をして、春花の方をじっと見ていた。
・次の日、昼休みに、春花は、ろう下で勇太とすれちがった。
・春花にそっと何かをわたすと、勇太は、急いで行ってしまった。
・受け取ったものを見て、春花ははっとした。紙で折った小さな馬だった。
・ひっくり返してみると、なまえつけてよ、とペンで書いてあった。
・らんぼうなくらい元気のいい字が、おどっている。勇太ってこんなところがあるんだ。
・まどから校庭でボールで遊ぶ勇太のすがたを見つけた。
・ありがとう。春花は、心の中でつぶやいた。
<場面>
物語を、このブログで紹介している方法で、場面を5つに分け、1場面を30~40字程度にまとめてみます。
① 放課後、牧場で、子馬を見かけた春花は、牧場のおばさんに名前をつけてよとたのまれた。
② 春花は、道で出会った雄太と陸に子馬の名前の話をし、明日名前を教えると言った。
③ おばあさんに、ねこの名の由来を聞き、夜、ふとんで子馬の名前を考えてからねむった。
③ 次の日、子馬の名前を言おうとしたが、子馬は売ることになり、名前はいらなくなった。
④ 次の日、春花は勇太からなまえをつけてよと書かれた紙の馬をもらいありがとうと思った。
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春花さんは、牧場で子馬に名前をつけて頼まれて喜びます。最近同級生になった勇太と陸にその話をすると、陸はすぐに教えてほしいと言いますが、勇太は素っ気ありません。明日牧場で教えることにします。夜、子馬の名前を思いついて眠ります。
次の日、牧場で二人に出会い、馬の名前を言おうとした時、子馬は売ることになったので、名前は買い主さんがつけることを知ります。春花はがっかりしますが、明るく「しかたないですね。」と言います。
次の日、春花は、勇太から紙でできた馬をもらいます。そこには、「なまえつけてよ」と書かれています。春花は、「ありがとう」とつぶやきます。
<人物の会話>
この物語には重要な会話がいくつかあります。
ここでは、1つだけあげます。春花さんと牧馬のおばさんの会話です。子馬の名前をたずねる春花さんにおばさんは、こう言います。
・「名前、まだ考えてないの。そうだ、名前つけてよ。」
一瞬、題名と同じかなと思いますが、実は違います。それは、おばさんの「名前つけてよ」が漢字で表記されているからです。
・題名に関係する「なまえつけてよ」は、勇太さんにもらった紙の馬に書かれています。不格好だけれども確かに馬で、ひっくり返してみると、そこに「なまえつけてよ」とらんぼうなぐらいに元気のいい字がおどっていました。きっと、勇太さんは、春花さんのために、何ができるかじっくり考えたのだと思います。春花さんがどうすればうれしくなれるのかを考えて、折り紙の馬を作り、その馬の名前を春花さんにつけてもらうことを思いつきます。勇太さんは、無口で無愛想ですが、とても友だち思いのいい子です。
<人物の行動>
たくさんの行動がありますが、この物語で一番すばらしい行動は、勇太さんの行動でしょう。勇太さんは、男の子ですし、もともと無口なので、さり気ない行動です。
・春花は、ろう下で勇太とすれちがった。そのときだった。春花はそっと何かをわたされた。わたすと、勇太は急いで行ったしまった。受け取ったものを見て、春花ははっとした。紙で折った小さな馬。不格好だけれど、たしかに馬だ。ひっくり返してみると、ペンで何か書いてある。なまえつけてよ。らんぼうなぐらい元気のいい字が、おどっている。勇太って、こんなところがあるんだ。
勇太さんは、家に帰ってからいろいろな行動をします。①紙で馬を折る。②馬に「なまえをつけてよ」と書く。③折り紙を学校に持ってくる。④自分と春花が二人きりになる場面を待つ。⑤春花に馬をそっと渡す。少なくともこの5つをしなければいけません。もしかすると、折り紙で馬を折る方法を調べたかもしれません。文章には書かれていない細かな勇太さんの行動が手に取るようにわかるように、蜂飼耳さんは、短い文をつなげて、勇太さんの行動を書き表しています。
<主題>
この物語の主題は、何でしょうか?
「友だちを思う優しい気持ち」というはどうでしょうか。
題名にあるように春花さんは「名前をつけてよ」と言われて喜んだのに、相手の都合で、そのことが反故にされてしまいます。落胆しても明るく振る舞う同級生の姿を見て、なんとか慰めてあげたいと思った勇太さんは、紙の馬を作り、その馬に「なまえをつけてよ」と書いて頼むことで、友だちの気持ちを明るくさせてあげようとします。世の中は、自分の思い通りにいかなくてもなんとか方法を考えて、楽しく生きる方法を見つけようとする勇太さんの優しい行動を知って、読者の私たちは、とてもうれしくなります。そして、勇太さんにどう接していいか戸惑っていた春花さんも、勇太の優しさを知り、「勇太って、こんなところがあるんだ。」と感心します。
勇太さんのやさしさが、この物語の主題といえるかもしれません。
<表現の工夫>
この物語文には、さまざまな表現の工夫があります。
特に目立つのは、優れた子馬の描写表現です。子馬の描写はいろいろなところにあり、どれも見事です。
・つやつやした毛なみの、茶色の子馬だ。子馬はぱちりとまばたきした。春花は、その美しい目に、すいこまれそうな気がした。
・子馬の特徴を思いうかべてみる。クッキーのような、おいしそうな色。くりくりとした丸い目。ふっさりとしたしっぽ。今はまだ子どもだけれど、大きくなったら風のように走る馬になってほしい。そんな願いがわいてくる。
・なめらかなたてがみ。真っ黒な目。時間がいつもよりゆっくりと流れていく。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「物語文の教材研究の仕方」に挙げた10個の視点のうち、最後の指導計画を除いた9つの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
他の教材の教材分析については、次のページをお読みください。
初雪のふる日 教材分析001に進む(内部リンク)
世界一美しいぼくの村 教材分析002に進む(内部リンク)
世界でいちばんやかましい音 教材分析003に進む(内部リンク)
大造じいさんとガン 教材分析009に進む(内部リンク)
海の命 教材分析020に進む(内部リンク)
雪の夜明け 教材分析023に進む(内部リンク)
物語文の教材研究については、次のページもお読みください。
物語文の教材研究の仕方(1)基本的な考えに進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(2)視点に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(3)設定・人物に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(5)会話・行動に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(6)主題に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(7)表現の工夫に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(8)指導法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(9)指導方法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(10)目標と教材の関係に進む(内部リンク)
2年生の子どもが書いた物語
絵本 みくのふしぎなピアノに進む(内部リンク)
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