おおきなかぶの教材研究をしてみました。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることが大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、「おおきなかぶ」です。
おおきなかぶ:教材分析
🟠おおきなかぶ:教材分析
東京書籍、教育出版、学校図書、光村図書の1年生の教科書に掲載されています。
もともとこのお話は、ロシア民話です。ただ、教科書会社によって翻訳者が違います。
東京書籍、教育出版、学校図書の3社は、内田莉莎子さんによって翻訳されたものを使っていますが、光村図書は、西郷竹彦さんによって翻訳されたものを使っています。
<作者・出典・翻訳者など>
このお話はロシア民話です。
A・トルストイ:再話
A・トルストイさんについて
1883年生まれです。ロシアの作家。「苦悩の中をいく」「ピヨートル一世」などの作品があります。1945年になくなりました。有名な「戦争と平和」を書いたレフ・トルストイさんとは別人です。
内田莉莎子(うちだ・りさこ)訳:東京書籍、教育出版、学校図書版
出典:「おおきなかぶ」(福音館書店・1962年)
内田莉莎子さんについて
1928年に東京で生まれました。日本の翻訳家、児童文学者、ロシア文学者です。
早稲田大学第一文学部ロシア文学科を卒業しました。
1962年にポーランドに留学しています。
外国の児童文学を翻訳し紹介しています。この「おおきなかぶ」や「てぶくろ」(エウゲーニー・M・ラチョフ作・福音館書店・1965年)などが有名です。
1997年に亡くなられました。
西郷竹彦(さいごう・たけひこ)訳:光村図書版
出典:この教科書のために書き下ろしされました。
西郷竹彦さんについて
1920年鹿児島市で生まれました。日本の文芸学者、児童文学研究者、ロシア文学翻訳家です。
東京帝国大学理学部応用物理学科で学びます。日本軍の第4航空師団に招集され、朝鮮平壌航空隊に配属されます。敗戦後、ソ連の捕虜になります。
その後、モスクワ東洋大学で日本学部講師として、日本文化・文学を教え、1949年帰国します。
ロシア児童文学の翻訳を多数行います。
その後、文学教育を中心として多数の翻訳、創作、論考、著書を書きました。
2017年に亡くなられました。
西郷竹彦さんが中心になって作られた文芸研(文芸教育研究協議会)の文学を中心とした教育理論は、一時期多くの教員や教育者などの心をつかみました。今でも、文芸研は盛んに研究活動を続けています。
文芸研のホームページに進む(外部リンク)
<題名>
題名は「おおきなかぶ」です。
この題名から、野菜のかぶのおおきなものに関するお話だということがわかります。
<設定>
いつ(時):かぶのたねをまく季節、はる
どこ(場所):畑
だれ(登場人物):おじいさん
<人物>
おじいさん……主人公。かぶの種をまき、育てる。
おばあさん……おじいさんの妻。
まご……おじいさんとおばあさんの孫。
いぬ……かぶを抜くのを助けてくれる。
ねこ……かぶを抜くのを助けてくれる。
ねずみ……かぶを抜くのを助けてくれる。
<あらすじ>
・おじいさんがかぶのたねをまきをしていう。「あまいかぶになれ。おおきなかぶになれ。」
・おまい、おおきなかぶになった。
・おじいさんがかぶをぬこうとしたが、ぬけなかった。
・おじいさんは、おばあさんをよんできて、ふたりでぬこうとしたが、ぬけなかった。
・おばあさんは、まごをよんできて、さんにんでぬこうとしたが、ぬけなかった。
・まごは、いぬをよんできて、さんにんといっぴきでぬこうとしたが、ぬけなかった。
・いぬは、ねこをよんできて、さんにんとにひきでぬこうとしたが、ぬけなかった。
・ねこは、ネズミをよんできて、さんにんとさんびきでぬこうとすると、とうとうぬけた。
<場面>
物語を、このブログで紹介している方法で、場面を5つに分け、1場面を30~40字程度にまとめてみます。
① おじいさんはかぶのたねをまき、あまく、おおきなかぶになれと言った。
② おじいさんのまいたかぶがあまく、おおきなかぶになった。
③ おじいさんはかぶをぬこうとしたが、ぬけなかった。
④ おばあさんやまご、いぬ、ねこをつぎつぎよんできてぬこうとしたが、ぬけなかった。
⑤ ねずみをよんできて、みんなでちからをあわせてひくと、とうとうぬけた。
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このお話は、おおききなかぶをぬこうして、人や動物をどんどん呼んできますが、なかなか抜けませんでした。最後にねずみを呼んできて、みんなで力を合わせてひくと、とうとうぬけたというお話です。
<人物の会話>
このお話に出てくる会話は2つだけです。
ひとつは、おじいさんの次の言葉です。
・「あまいあまいかぶになれ。おおきなおおきなかぶになれ。」
おじいさんの農民として願いが強く表れています。
もうひとつは、かぶを引くときの次の言葉です。
・「うんとこしょ、どっこいしょ。」
力を出すときのかけ声ですし、みんなで力を合わす合図にもなっています。
<人物の行動>
このお話の面白いところは、同じ行動が何回も何回も繰り返されるところです。
おじいさんは、かぶを抜くとするが抜けません。
おじいさんはおばあさんを呼んで来ます。そして、かぶを抜こうとするが抜けません。
おばあさんはまごを呼んで来ます。そして、かぶを抜こうとするが抜けません。
まごは犬を呼んで来ます。そして、かぶを抜こうとするが抜けません。
犬はねこを呼んで来ます。そして、かぶを抜こうとするが抜けません。
ここまでで、5回も株を抜こうとします。その間に、4回も次の人を呼んできます。
最後に、ねこがねずみを呼んで来ます。そして、とうとうかぶが抜けました。
もうひとつ面白いところは、呼んでくる人や動物がどんどん小さくなっていくことです。
ねずみの力はとても小さいのでしょうが、ねずみの小さな力が合わさることではじめて株が抜けます。
小さな力でもないと抜けなかったわけですから、とても大切だということがわかります。
<主題>
この物語の主題は、何でしょうか?
「みんなが力を合わせると、困難なことでもできる」ということかもしれません。
ただ単に、株が抜けてよかったなあというお話ということもできるかもしれません。
<表現の工夫>
この物語文には、さまざまな表現の工夫があります。
特に目立つのは、同じ表現の繰り返しです。
多くの子どもは、次々に人や動物が増えていくことに楽しさを感じます。
そして、同じような表現が続くことにも楽しさを感じます。
・○○が△△をひっぱって
・□□□、かぶはぬけません。
・「うんとこしょ、どっこいしょ。」
○○や△△には、ここに出てくる人物の名前が入ります。
□□□には、違う言葉が入ります。
東京書籍などの内田さんの訳では、次のような言葉が続きます。
「ところが」「それでも」「まだまだ」「まだまだ、まだまだ」「それでも」「やっと」
光村図書の西郷さんの訳では、次のような言葉が続きます。
「けれども」「それでも」「やっぱり」「まだまだ」「なかなか」「とうとう」
同じお話なのに、翻訳者によって、使っている接続語や副詞は、少しずつ違っています。
□□□□に、どんな言葉が入るかを考えさせてみるというのも、1年生なりに語彙を増やす面白い学習になると思います。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「物語文の教材研究の仕方」に挙げた10個の視点のうち、最後の指導計画を除いた9つの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
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他の教材の教材分析については、次のページをお読みください。
スイミー 教材分析030に進む(内部リンク)
ずうっと、ずっと、大すきだよ 教材分析029に進む(内部リンク)
物語文の教材研究については、次のページもお読みください。
物語文の教材研究の仕方(1)基本的な考えに進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(2)視点に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(3)設定・人物に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(5)会話・行動に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(6)主題に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(7)表現の工夫に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(8)指導法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(9)指導方法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(10)目標と教材の関係に進む(内部リンク)
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