「サーカスのライオン」という文章の教材分析について知りたいです。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることは大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、3年生の教科書に載っている「サーカスのライオン」の教材分析をします。
サーカスのライオン:教材分析
🟠サーカスのライオン:教材分析
この作品は、東京書籍の3年生の教科書に載っています。
<作者>
川村たかし(かわむら・たかし)さん作
西村達馬(にしむら・たつま)さん絵
出典:「サーカスのライオン」(ポプラ社・1972年刊)
川村たかしさんについて
1931年(昭和6年)生まれです。日本の教員、児童文学者です。本名は、川村隆さんです。
奈良県五條市生まれです。奈良学芸大学(現・奈良教育大学)卒業後、童話作家の花岡大学さんに師事しました。
大学卒業後、五條市内の小学校・中学校・高等学校の教員、奈良教育大学・梅花女子大学などで教鞭をとりながら、児童文学の創作に熱心に取り組み、多くの著書を残されました。
「近畿文化」に寄稿したのを機に、創作活動に専念しました。
1960年に花岡大学らとともに近畿児童文学協会を結成し、機関誌「近畿児童文学」を発刊しました。
1978年「山へいく牛」(偕成社・1997年)で国際アンデルセン賞優良作品賞と野間児童文学賞を受賞しました。この作品は、その後、斉藤由貴さん主演で、NHKでテレビドラマ化されました。
1981年短編集「昼と夜のあいだー夜間高校生」で日本児童文学者協会賞を受賞しました。
2010年(令和22年)に亡くなりました。
<題名>
題名は「サーカスのライオン」です。
サーカスに出てくるライオンが主人公のお話であることが予想されます。
<設定>
いつ(時):(冬)寒い風のふく季節。
どこ(場所):町外れの広場
だれ(登場人物):ライオンのじんざ。
<人物>
ライオンのじんざ……サーカスのライオン。年老いている。
おじさん……ライオンつかいのおじさん。
男の子……ライオンのすきな男の子。
アパートの近所に住む人……火事になり、心配している。
消ぼう車の人……男の子を助けてくれる。
お客さん……サーカスのお客さん。
<あらすじ>
・町外れの広場にサーカスがやってきた。
・ライオンのじんざは、年取っていた。テントのはこの中で、一日中ねむっていた。
・じんざは、アフリカのゆめを見た。ゆめの中に家族があらわれ、風のように走っていた。
・自分の番が来ると、じんざは立ち上がり、火の輪をめがけてジャンプする。
・夜になり、おじさんがのぞきに来た。「かわってやるから、散歩しておいで。」
・そこで、ライオンは、人間の服を着た。わからないように、マスクやくつ、てぶくろをした。
・じんざは外へ出て「外はいいなあ。」ひとり言を言った。
・「おじさん、サーカスのおじさん。」男の子が立っていた。
・じんざだと知らない男の子は、じんざのことをしんぱいしていたので、むねがあつくなった。
・おそいので、じんざは男の子を家まで送ることにした。
・男の子の父は、夜のつとめがあり、母は入院していて、姉も夕方から出かけていた。
・じんざがピエロのまねをして歩いているとき、暗いみぞに足をつっこんだ。
・「あいたた。」じんざは、くじいた足にタオルをまいた。すると、男の子は首をかしげた。
・「おじさんの顔、何だか毛が生えているみたい。」じんざはあわてて、ぼうしをかぶり直した。
・男の子のアパートは道のそばの石がきの上に立っていた。まどから顔を出し男の子が言った。
・「サーカスのおじさん、おやすみなさい。あした、ライオン見に行っていい?」
・「来てやっておくれ。きっとよろこぶだろうよ。」
・次の日、ライオンのおりの前に、ゆうべの男の子がやってきた。
・男の子は、チョコレートを出した。すきでなかったけれど、うれしかったじんざは受け取った。
・男の子は、チョコレートをもって毎日やってきた。じんざはねむらないでまっていた。
・そして、お母さんのことを話した。じんざは、うなずいて聞いた。
・サーカスがあしたで終わる日、男の子はいきをはずませてとんできた。
・「お母さんが、もうじきたい院するんだ。おこづかいもたまった。あしたサーカスに来るよ。」
・男の子が帰っていくと、じんざの体に力がこもり、目が光った。
・「……ようし、あしたは、わかいときのように、火の輪を五つにしてくぐりぬけよう。」
・その夜ふけ……。だしぬけに、サイレンが鳴りだした。「火事だ。」と聞こえた。
・じんざははね起きた。テントのすき間から、男の子のアパートのあたりが、赤かった。
・じんざは、おりをこわして、まっしぐらに外に出た。じんざは風になってすっとんでいく。
・アパートがもえていた。消ぼう車は来ていない。
「中に子どもがいるぞ。たすけろ。」「だめだ。もう入れない。」
・それを聞いたライオンのじんざは、火の中へとびこんだ。
・「だれだ、あぶない。引き返せ。」
・じんざはひとりでつぶやいた。「なあに、わしは、火になれています。」
・ほのおはかいだんを上り、けむりはうずまきふき出ていた。
・じんさは、男の子の部屋にたどり着いた。男の子は気をうしなっていた。
・だきかかえて、外に出ようとしたが、ほのおがたちふさがっていた。
・じんざは、力のかぎりほえた。ウォーッ。
・気づいた消ぼう車がはしごをかけ、のぼってきた男の人に男の子をわたした。
・見上げる人たちが声をかぎりによんだ。「早くとびおりんだ。」
・ライオンのすがたはなかった。やがて、人々の前に、ほのおがまいあがった。
・ほのおは、ライオンの形になって、空高いかけ上がった。ぴかぴかにかがやくじんざだった。
・金色に光るライオンは、空を走り、たちまち暗やみの中に消えさった。
・次の日、サーカスはおしまいの日だった。ライオンの曲芸はさびしかった。
・おじさんは、一人で、むちを鳴らした。五つの火はもえていたが、ライオンはいなかった。
・それでもお客さんはけんめいに手をたたいた。ライオンがどうして帰ってこなかったかを知っていたから。
<場面>
物語を、このブログで紹介している方法で、場面を5つに分け、1場面を30~40字程度にまとめてみます。
① サーカスがやってきた。ライオンのじんざは、火の輪をめがけてジャンプした。
② 夜、散歩に出たじんざは、一人の男の子に出会い、なかよくなる。
③ 男の子は毎日、チョコレートをもって遊びにきて、入院する母の話をした。
④ 火事があり男の子のアパートがもえた。男の子を助けたじんさは、空に消えた。
⑤ サーカスおしまいの日、ライオンはいなかったが、お客さんはけんめいに手をたたいた。
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<人物の会話>
この物語で、主に会話をするのは、男の子とライオンのじんざです。
特に、男の子の会話は、年取ったじんざの心をとても優しくいやします。次のような会話です。
「もう、らいおんはねむったのかしら。ぼく、ちょっとだけそばへ行きたいんだけどなあ。」
「うん、大すき。それなのに、ぼくたち昼間サーカスを見たときは、何だかしょげていたの。だから、お見まいに来たんだよ。」
「お母さんがね、もうじき、たい院するんだよ。それにおこづかいもたまったんだ。あしたサーカスに来るよ。火の輪をくぐるのを見に来るよ。」
<人物の行動>
この物語で、感動する行動は、じんざの行動です。特に、火事になった男の子のアパートに飛ぶこむことは、勇気のある人でもなかなかできることではありません。男の子が中にいることと、中へはもう入れやしないことを聞いたじんさは、次のような行動に出ます。
・それを聞いたライオンのじんざは、ぱっと火の中へとびこんだ。
・じんざは足を引きずりながら、男の子の部屋までたどり着いた。
外に出ようとしたじんざは、ほのおが立ちふさがり、高いので身ぶるいしました。男の子を助けるためにじんざは、次のような行動をとりました。
・じんざは力のかぎりほえた。
ウォーッ
こうして助けにた消ぼう車でやってきた男の人に子どもをわたすことで、男の子を助けることができました。
<主題>
この物語の主題は、何でしょうか?
「自己犠牲」ということかもしれません。
サーカスの火の輪をくぐる代わりに、火事のアパートの中になかよくなった男の子を助けるために飛び込んだライオンのじんざの勇気は、とても素晴らしいものです。
<表現の工夫>
3年生の子どもに身につけてほしい作文の技術に上手に比喩表現(たとえ)が使えるようになってほしいと言うことがあります。作文で上手なたとえが使えるようになると、その作文はとても豊かになります。そのような表現を子どもに身につけさせるためには、そのような表現があることを意識させることはとても大切です。
この物語には、たとえの表現がたくさんあります。
・サーカス小屋は、まるで海の上を走るほかけ船のようだった。
・草原の中を、じんざは風のように走っていた。
・足のいたいのもわすれて、むかし、アフリカの草原を走ったときのように、じんざはひとかたまりの風になってすっとんでいく。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「物語文の教材研究の仕方」に挙げた10個の視点のうち、最後の指導計画を除いた9つの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
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他の教材の教材分析については、次のページをお読みください。
すいせんのラッパ 教材分析036に進む(内部リンク)
はりねずみと金貨 教材分析060に進む(内部リンク)
モチモチの木 教材分析019に進む(内部リンク)
ゆうすげ村の小さな旅館 教材分析027に進む(内部リンク)
おにたのぼうし 教材分析018に進む(内部リンク)
物語文の教材研究については、次のページもお読みください。
物語文の教材研究の仕方(1)基本的な考えに進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(2)視点に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(3)設定・人物に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(5)会話・行動に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(6)主題に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(7)表現の工夫に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(8)指導法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(9)指導方法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(10)目標と教材の関係に進む(内部リンク)
2年生の子どもが書いた物語
絵本 みくのふしぎなピアノに進む(内部リンク)
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