「海の命」の教材分析について知りたいです。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることは大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、6年生の教科書に載っている「海の命」の教材分析をします。
海の命:教材分析
🟠海の命:教材分析
この作品は、光村図書、東京書籍の6年生の教科書に載っています。
内容はほとんど同じですが、漢字の表記の仕方が違います。題名も、光村図書は「海の命」ですが、東京書籍は「海のいのち」です。「じまん・自まん」「弟子・でし」「子ども・子供」「結婚・結こん」などのように表記の違いがあります。
ここでは、光村図書の教科書を元に教材分析することにします。
<作者>
立松和平(たてまつ・わへい)さん作
伊勢英子(いせ・ひでこ)さん絵
出典:「海のいのち」(ポプラ社・1992年)
立松和平さんについて
1947年、栃木県宇都宮市で生まれます。日本の小説家、児童文学作家です。本名は横松和夫(よこまつ・かずお)さんです。
早稲田大学政治経済学部卒業です。
集英社に内定していました。しかし、大学生の時に書いたが「途方にくれて」という小説が、「早稲田文学」という雑誌に掲載されたので、就職しないで、留年しました。
「自転車」という小説が、で第1回早稲田文学新人賞を受賞しました。
しばらく、流浪の生活が続きます。土木作業員、運転手、魚市場の荷役、病院の看護助手などの仕事をしていました。その後、インド旅行をしたり市役所に勤めたりします。
小説家に専念するようになり「遠雷」という小説が野間文芸新人賞を受賞し、映画にもなります。
多くの小説や子ども向けの絵本童話を書きます。「いのち」が題名についた絵本には、「海」以外に「山」「街」「田んぼ」「川」「木」「牧場」などがあります。
2010年に亡くなります。
<題名>
題名は「海の命」です。この題名を読むだけで、海に関係する命の話だと予想できます。生きたりたり死んだり命に関係することが書かれていることがわかります。
<設定>
いつ(時):子どもころ
どこ(場所):海のちかく
だれ(登場人物):太一
<人物>
太一……漁師の子ども。子どものころから漁師になると考え、漁師になる。
父……太一の父。海でなくなる。
与吉じいさ……漁師。太一は無理やり、弟子になる。
母……太一の母。太一がおとうの死んだ瀬にもぐることがおそろしい。
背の主……背にすむ大きなクエ。
村のむすめ……太一とけっこんし、四人の子どもを育てる。
<あらすじ>
・太一は、父もその父も住んでいた海に住んでいて、漁師になろうと考えていた。
・父はもぐり漁師で、たった一人で大物をしとめでもじまんしなかった。
・ある日父は瀬の主とよばれるクエを取ろうとして、命を落としてしまう。
・中学卒業後、太一は一本釣りをしている与一じいさの弟子に無理やりなった。
・太一は、与一じいさから、なかなかつり糸をにぎらせてもらえなかった。
・与一じいさは、千びきに一ぴきつれば、それでいいと考える漁師だった。
・弟子になって何年かして、「おまえは村一番の漁師だ」と与吉じいさにほめられた。
・真夏のある日、なくなった与一じいさのことを、太一は、「海に帰っていった」と思った。
・ある日、母は「おとうの死んだ背にもぐると言い出すかと思うと、おそろししい」と言った。
・太一は一本づりで二十ぴきのイサキをとると、父の死んだ瀬の辺りに船を進めた。
・いかりを下ろし、海に飛びとびこんだ太一は、とうとう父の海にやってきたと思った。
・太一が瀬にもぐり続けて一年が過ぎ、クエを見ることもあったが興味をもてなかった。
・追い求めるうちに、不意に夢は実現する。太一は、瀬の主の大きなクエに出会った。
・興奮していながら、冷静だった太一が、モリをつき出すが、クエは動こうとしない。
・太一はクエに向かい、えがおを作って「おとう、ここにおられたのですか」と言った。
・こう思うことで、太一は瀬の主を殺さずにすみ、大魚はこの海の命だと思えた。
・やがて太一と結婚した村のむすめは、太一の子どもを四人育て、美しいおばあさんになった。
・太一は、村一番の漁師であり続け、海の命は変わらなかったし、瀬の主の話はしなかった。
<場面>
この物語は、絵本ですので、ページが変わるたびに場面が切り替わります。
東京書籍の教科書では、その区切りを明示しないで、続けて文章を続けています。
光村図書の教科書では、いくつかの区切りを1行開けることで明示しています。
ここでは、このブログで紹介している6場面に分け、1場面を30~40字程度にまとめてみます。
① 父のような漁師になろうと太一が考えていたある日、父がクエ漁をしていて死んだ。
② 無理やり弟子になった与一じいさは、千びきに一ぴきでいいと考える漁師だった。
③ 太一のことを村一番の漁師だと言ってくれた与一じいさは、なくなり海に帰っていった。
④ 母の悲しみを背負った太一は、漁を終えた後で、父の死んだ瀬にもぐるようになった。
⑤ 瀬の主に会った太一は「おとう、ここにおられたのですか」と思い、クエを殺さなかった。
⑥ 太一は結婚し、子どもを四人も育てた後でも、村一番の漁師であり続けた。
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この物語は、村一番の漁師になった太一の話です。
海の漁で父を亡くした後、千匹に一匹でいいと考える与一じいさの考えに教えられ、太一も村一番の漁師になります。ある日、父の命をうばった瀬の主のクエに出会うことになりますが、クエを見て、「おとう、ここにおられたのですか。また会いにきますから。」と思うことで殺さない選択をします。クエのことを海の命と思ったからです。
その後、太一は、ずっと与一じいさの教えを守り、村一番の漁師であり続けました。
<人物の会話・行動>
○ 会話について
与一じいさの会話はとても重要です。2つあります。
「千びきに一ぴきでいいんだ。千びきいるうち一ぴきをつれば、ずっとこの海で生きていけるよ。」
「自分では気づかないだろうが、おまえは村一番の漁師だよ。太一、ここはおまえの海だ。」
太一の会話も重要です。1つは、死んだ与一じいさに向けたもので、もう1つは、クエに向けたものです。
「海に帰りましたか。与一じいさ、心から感謝しております。おかげさまでぼくも海で生きられます。」
「おとう、ここにおられたのですか。また会いにきますから。」
○ 行動について
この物語では、漁をする際の行動に、強く生き方が表れています。
・与一じいさは、毎日タイを二十ぴきとると、もう道具をかたづけた。
・水の中で太一はふっとほほえみ、口から銀のあぶくを出した。もりの刃先を足の方にどけ、クエに向かってもう一度えがおを作った。
<主題>
この物語の主題は、何でしょうか?
「命」をどう考えるかということです。
太一は、与吉じいさの教えを受けることで、「千びきいるうち一ぴきをつれば、ずっとこの海で生きていける」ということを学びます。だから、瀬の主のクエを殺さなくても、生きていけるということに気づきます。
命は、尊く大切なものです。漁をするのが仕事の漁師であろうと、たくさん奪うと、いつかなくなってしまいます。この物語を読むことで、子どもたちが、自分なりの命に対する考えを見つけるきっかけになるといいのではないかと思います。
<表現の工夫>
この物語文には、さまざまな表現の工夫があります。
○ 人が死ぬ場面での表現
・ある日父は夕方になっても帰らなかった。
・水中で事切れていた。
・与一じいさは暑いのに毛布をのどまでかけてねむっていた。太一は全てをさとった。
○ 漁の様子を表す表現
・ぬれた金色の光をはね返して、五十センチもあるタイが上がってきた。パタパタ、パタパタと、タイが暴れて尾で甲板を打つ音が、船全体を共鳴させている。
○ 海のきれいな様子を表す表現
・はだに水の感しょくがここちよい。海中に棒になって差しこんだ光が、波の動きにつれ、かがやきながら交差する。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「物語文の教材研究の仕方」に挙げた10個の視点のうち、最後の指導計画を除いた9つの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
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他の教材の教材分析については、次のページをお読みください。
初雪のふる日 教材分析①に進む(内部リンク)
世界一美しいぼくの村 教材分析②に進む(内部リンク)
世界でいちばんやかましい音 教材分析③に進む(内部リンク)
かさこじぞう 教材分析⑦に進む(内部リンク)
大造じいさんとガン 教材分析⑨に進む(内部リンク)
スーホの白い馬 教材分析⑫に進む(内部リンク)
おにたのぼうし 教材分析⑱に進む(内部リンク)
モチモチの木 教材分析⑲に進む(内部リンク)
物語文の教材研究については、次のページもお読みください。
物語文の教材研究の仕方(1)基本的な考えに進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(2)視点に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(3)設定・人物に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(5)会話・行動に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(6)主題に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(7)表現の工夫に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(8)指導法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(9)指導方法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(10)目標と教材の関係に進む(内部リンク)
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