子どもと悪の関係を知りたいです。
子どもと悪ー今ここに生きる子ども:河合隼雄著
<子どもはいい子なのか?>
学校の教員をしていますと、子どもには、いろいろな子どもがいることを知ることができます。同じように、保護者のみなさんの考えや子どもに対する対応にもいろいろあります。
保護者の中には、子どもは、素直で、健全だと思っておられる方がいます。
我が子は、嘘など絶対につかないと思っている方に出会うこともあります。
少し考えると、辻褄が合わないことを主張しているのに、我が子がそんな嘘をつくことなどないと主張されることもあります。
教員をしていますと、保護者の中にも、我が子は、悪いことなどしないと、本当に思っておられるのかな、と思うことがあります。
たくさんの子どもに接することの多い教員の立場から言うと、確かに子どもには、素直でよい子どもが多いのも事実です。しかし、全く悪いことをしないのかというとそんなことは全くなく、普通の子どもは、普通に嘘をつくことがあります。
特に、けんかなどをしたり、意地悪なことをしたりしている子どもの話を聞くと、多くの子どもは、自分にとって都合の悪いことは話さない、という方法で自然と嘘をつくことがあります。
多くの子どもの言う台詞に、次のようなものがあります。
「○○さんは、ぼくが何もしていないのに、・・してきた」
どちらも何も相手に悪いことをしていないければ、もめることなどないのに、子どもはよくけんかをします。どちらかが、相手に対してちょっかいをかけたり、いたずらをしたりします。
意地悪をしようと思うよりも、ちょっと仲良くなる方法の1つとして相手を叩いたり、わざとぶつかったり、嘘をついていたりしていることもあります。
男の子が、好きな女の子に意地悪をするというのはよく目にすることもかもしれません。なぜか、あまり女の子が好きな男の子に意地悪をするというのはあまり見かけませんでしたが、私が気づかないだけで、そのような女の子もいたのかもしれません。
けんかをした子どもに話を聞くと、自分は何も悪いことなどしていないということをしれっと言うことがあります。
もしかすると、子どもの中には、心の中で嘘をついている自覚がないこともあるのかもしれません。
子どもが嘘をつく理由は、はっきりしています。それは、親や教師などから叱られたくないからです。中には、自分のことを信じてほしくて、嘘を重ねることがあるかもしれません。
しかし、残念なことに、1つ嘘をつくと、その嘘を正当化するために、その嘘を隠すための嘘を重ねてしまわなければなりません。子どもの頭では、そんなに上手に嘘に嘘を重ねることはできませんから、結局辻褄が合わなくなって、時には、余計に叱られるという結果を招きます。
いじめられているという訴えの中に、嘘が混じっていることも全くないわけではありません。そのような場合、その嘘をあばくことはできないことが多いです。
なぜなら、「いじめられている被害者の子どもの言うことを信じないのですか」という保護者の主張に対して、異議をとなえることはなかなかむずかしいからです。
多くの子どもが決して「悪」と無関係で生きているかと言うことそんなことはありません。子どもの周りには、普通に「悪」が転がっています。
<子どもの悪さに悩む保護者>
子どもが普通に悪い行為をしてしまう存在であるということがあまりよくわかっておられない保護者がいるかと思えば、日常的に子どもが悪いことを繰り返すことに悩んでおられる保護者もいます。
なぜか、悪いことを平気でしてしまい、子どもの悪い行為に対して手を焼いておられる保護者がたくさんおられることも事実です。
法律で罰せられ、少年院や刑務所などに入れられるような悪いことをする子どもは、確かに少ないかもしれません。
先生や親の言うことを素直に聞かないというような簡単な悪い行為をする子どもはまだかわいい存在です。中には、人を叩く、物を壊す、物を盗むなどの大人がすれば、警察に捕まり罰せられるような悪い行為をする子どもがいることも事実です。
子どもの中には、刑法41条で「14歳に満たない者の行為は,罰しない」 という法律をよく理解して悪いことを繰り返す子どももいます。警察も補導をし指導を繰り返すけれども、その以上の手立てを取ることができないで、14歳の誕生日を迎えてすぐに、少年鑑別所に送られるという子どもがいることもあるみたいです。
なぜ、そのような悪いことをするのか原因がはっきりしていることもあります。保護者などの大人に関心を持ってもらいたいのかなと感じることもあります。中には、なぜそのような悪いことをするのかよくわからないこともあります。
<子どもと悪>
今回、紹介する河合隼雄さんの書かれた「子どもと悪ー今ここに生きる子ども」(岩波書店・1997年刊)という本は、子どもと悪の関係について様々な視点から書かれた本です。
子どもと悪が購入できるページに進む(外部リンク)
河合隼雄さんは、1928年生まれの臨床心理学者です。ユング心理学の第一人者であり、優れたカウンセラーです。様々な経験を通して、独自の心理学的見識と教育学的見識を著書にまとめて、日本社会の発展に寄与された方です。
この本の後書きで河合隼雄さんは、次のように書いています。
実は「子どもと悪」と言うのは、いつか書いてみたいと長らく思っていたテーマである。その理由のひとつは、私自身が子どもの頃から、悪ということに関心が強かった、というよりも「悪人としての自分」をどう考えるのか、ということにずっとこだわってきた事実がある。それと、自分が教育ということにかかわり出してから、親や教師があまりにもせっかちに悪を排除しようとするのに、やりきれない思いをすることが多かった、ということがある。
いつか書いてみたいと思いつつ、「子どもと悪」についてなかなか書けなかったのは、悪に関連する個々の事象については、いろいろと書けるのだが、やはり書物を書くとなると、どうしても「悪とは何か」という根本的な問題を取りあげなばならず、それはまことに難しいことである。ともかく、今度は書くと決心したので、第II章にそのことについて論じてみた。しかし、実際にはあまり満足のいくものは書けなかった。このことは今後も続けて考えていきたい。また、何年かすると、「悪」について、もう少しつっこんで論じられるようになるかもしれない。
根本的なことはともかく、ここにあげた多くの例に触れて、読者の皆さんがもう少し根気よく子どもの悪とつき合って下さるようになれば、著者としてまことに幸いである。表面の理屈で言う通り「子どもが悪い」と言うのに抗弁できないが、「それでは子どもがあまりにもかわいそう」と感じることが多すぎる。そんな子どもたちの気持を代弁する気持で、書いたようなところもある。自己実現のはじまりは、悪のかたちをとってあらわれることをよく知っていただきたい。
子どもと悪ー今ここに生きる子ども
この本は、大きく7つの章から成り立っています。
それぞれ、「悪と創造」「悪とは何か」「盗み」「暴力と攻撃性」「うそ・秘密・性」「いじめ」「子どもをとりまく悪」という章の題がついています。
大きな章の中には、小さな小見出しの文章が3つないし4つあります。
どの文章を読んでも、悪にまつわる具体例をもとにしながら、悪の様々な側面について論じておられます。
とても示唆に富む本ですので、子どもと過ごすことの多い教員や保護者のみなさんにとっても得るところが多いのではないでしょうか。
ぜひ、子育てに悩む人にも読んでほしい1冊です。
⭐️ ⭐️
他に、河合隼雄さんの名言や本などを紹介しているページも、併せて読んでくだされば嬉しいです。
河合隼雄さんの名言:説教の効果はその長さと反比例する(内部リンク)
河合隼雄さんの名言:相手の話を、ただただ一生懸命に聞く(内部リンク)
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