「こわれた千の楽器」の教材分析について知りたいです。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることは大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、3年生の教科書に載っている「こわれた千の楽器」の教材分析をします。
こわれた千の楽器:教材分析
🟠こわれた千の楽器:教材分析
この作品は、東京書籍の4年生の教科書に載っています。
<作者>
野呂昶(のろ・さかん)さん作
天野恭子(あまの・きょうこ)さん絵
出典:「こわれた1000のがっき」(カワイ出版・1993年刊)
野呂昶さんについて
1936年(昭和11年)生まれです。日本の詩人、児童文学者です。
岐阜県生まれです。
詩集に「おとのかだん」(教育出版センター・1983年)、「野呂昶詩集」(いしずえ・2003年などがあります。
滋賀県湖南市教育委員会委員長をされていたこともあります。
<題名>
題名は「こわれた千の楽器」です。
千というたくさんの楽器がこわれたのか、こわれるのかが描かれた物語だと予想されます。
ここでいう千というのが、千ぴったりなのか、たくさんという意味なのか興味がわきます。
なお、私が子ども用に作っている「よみもの」で、「楽器」について簡単な文を書いています。よければ、お読みください。
楽器に進む(外部リンク・よみもの)
<設定>
いつ(時):あるとき。(最初の場面では書かれていない)
どこ(場所):ある大きな町のかたすみの楽器倉庫。
だれ(登場人物):たくさんのこわれた楽器。
<人物>
月……夜の町を見守っている。
チェロ……こわれている。
ハーブ……こわれている。
たくさんの楽器……こわれている。
<あらすじ>
・町のかたすみに楽器倉庫があった。そこには、こわれたたくさんの楽器がねむっていた。
・ある日、月が倉庫を見て「ここは、こわれた楽器の倉庫だな。」と言った。
・楽器は目を覚ました。チェロは「こわれていません。休んでいるんです。」と言った。
・「これは失礼。」月は、きまり悪そうに、まどからはなれた。
・月が行くと、チェロは「うそを言った。こわれているのに、こわれていないと。」言った。
・「自分がこわれた楽器なんて、だれも思いたくないよ。」とハーブが言った。
・「もう一度えんそうがしたい。」とホルンが言った。
・「えんそうがしたい。」とトランペットが言った。
・「こんなにこわれていると、えんそうなんてできないよ。」とたいこが言った。
・「できるかもしれない。こわれた十の楽器で、一つの楽器になろう。」とビオラが言った。
・「名案だわ。」とピッコロが言った。
・「それならぼくにもできるかもしれない。」ともっきんが言った。
・「やろう。」「やろう。」といろいろな楽器が言った。
・楽器たちは、それぞれ集まって練習を始めた。
・毎日毎日練習が続けられた。音が出ると、「できた。」とよろこんだ。
・ある夜のこと、月は、楽器倉庫の上を通りがかった。
・すると、どこからか音楽が流れてきた。「きれいな音。だれのえんそうかな。」と月が言った。
・月が音に近づくと、前にのぞいたことのある楽器倉庫で、千の楽器がえんそうしていた。
・おたがいにおぎない合って、音楽を作っていた。
・「ああ、いいなあ。」と月はうっとりききほれた。ときどき思い出しては、光をふき上げた。
<場面>
物語を、このブログで紹介している方法で、場面を5つに分け、1場面を30~40字程度にまとめてみます。
① 町のかたすみに楽器倉庫があった。そこには、こわれたたくさんの楽器がねむっていた。
② 月が倉庫を見て「こわれた楽器の倉庫か」と言うと「こわれていない」とチェロが言った。
③ 月がさった後、こわれた楽器たちは、みんなで一つの楽器になろうと話し合った。
④ それから、こわれた楽器たちは、毎日毎日、えんそうの練習を続けた。
⑤ 月は、楽器倉庫で千の楽器がえんそうをしているのを聞き、うっとりと聞きほれた。
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<人物の会話>
この物語で、会話をするのは、月といろいろな楽器です。ここでは月を中心に見ていきます。
月は次のように言います。
・「おやおや、ここはこわれた楽器の倉庫だな。」
それを聞いた楽器は目を覚まし、チェロが「こわれていない、休んでいるだけ」と言います。
・「いやいや、これはどうも失礼。」月は、きまり悪そうに、まどからはなれていきました。
月は最後にも出てきます。
・「なんときれいな音。だれがえんそうしているのだろう。」と言い、前にのぞいたことのある楽器倉庫で、千の楽器がえんそうしていることに気づきます。そして、
・「ああ、いいなあ。」とうっとり聞きほれました。
<人物の行動>
この物語のおもしろさの一つは、人間でない月や楽器が、まるで人間のように話したり、行動したりすることです。一般的には、このような表現を「擬人法」と言います。
月の行動は、次のようなものです。
・月が倉庫の高まどから中をのぞきました。
・月は、きまり悪そうに、まどからはなれました。
・月は、楽器倉庫の上を通りかかりました。
・月は、音のする方へ近づいていきました。
・月は、音楽におし上げられるように、空高く上っていきました。
・月は、うっとり聞きほれました。
・ときどき、思い出しては、光の糸を大空いっぱいにふき上げました。
千の楽器もいろいろな行動をします。
・今までねむっていた楽器たちが目を覚ましました。
・チェロが、まぶしそうに月をながめて言いました。そして、あわてて、ひびわれたせなかを隠しました。
・楽器たちは、それぞれ集まって練習を始めました。
・おどり上がってよろこびました。
・千の楽器がいきいきと、えんそうに夢中でした。
<主題>
この物語の主題は、何でしょうか?
「あきらめなければ、いつからでも再起できる」ということかもしれません。
「友と協力すると、不可能に思えることが可能になる」ということかもしれません。
「みんなで協力することの大切さ」ということかもしれません。
指導する先生や子どもが、それぞれの主題を見つけるといいと思います。
<表現の工夫>
子どもに身につけてほしい作文の技術に会話文の横にある「言いました」という表現を少し工夫することがあります。会話文であることを示す「言いました」と書くだけでなく、「小さな声で」や「うれしそうに」という言葉をそえたり、「つぶやきました」「さけびました」という言葉に変えたるすることで、表現はとても豊かになります。このような表現を子どもにさせるためには、このような表現があることを意識させることはとても大切です。
この物語には、そのような表現の工夫があります。
・チェロは、しょんぼりとして言いました。
・すぐ横のハーブが、半分しかないげんをふるわせて言いました。
・ホルンが、すみの方から言いました。
・バイオリンやコントラバス、オーボエ、フルートなども、立ち上がって言いました。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「物語文の教材研究の仕方」に挙げた10個の視点のうち、最後の指導計画を除いた9つの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
他の教材の教材分析については、次のページをお読みください。
世界一美しいぼくの村 教材分析002に進む(内部リンク)
世界でいちばんやかましい音 教材分析003に進む(内部リンク)
おにたのぼうし 教材分析018に進む(内部リンク)
モチモチの木 教材分析019に進む(内部リンク)
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白いぼうし 教材分析031に進む(内部リンク)
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すいせんのラッパ 教材分析036に進む(内部リンク)
物語文の教材研究については、次のページもお読みください。
物語文の教材研究の仕方(1)基本的な考えに進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(2)視点に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(3)設定・人物に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(5)会話・行動に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(6)主題に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(7)表現の工夫に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(8)指導法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(9)指導方法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(10)目標と教材の関係に進む(内部リンク)
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