「弱いロボット」だからできることの教材分析について知りたいです。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることが大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、『「弱いロボット」だからできること』です。
「弱いロボット」だからできること:教材分析
🟠「弱いロボット」だからできること:教材分析
この教材は、東京書籍の5年に掲載されている説明文です。
<作者>
岡田美智男(おかだ・みちお)作
出典:岡田さんには、「弱いロボット 」(医学書院・2021年)という書籍があります。この教材は、この書籍や日頃の研究を元に、この教科書のために書きおろしされた文章です。
岡田美智男さんについて
1960年、福島県の生まれです。宇都宮大学工学部卒業後、東北大学大学院を修了した工学博士です。ロボットについて研究する科学者です。
1998年から2006年の間は、京都大学で、大学生などに教えながらロボットの研究をしていました。その後、豊橋技術大学で、大学生などに教えながら、ロボットの研究を続けています。
<題名>
題名は『「弱いロボット」だからできること』です。
ロボットに「弱い」という修飾語がつくことで、どのようなロボットか興味がわきます。その上、その特別な「弱い」ロボットができることとは何か、知りたくなります。
とても子どもの興味を引く題名です。
<はじめとおわり>
○ はじめ
筆者は、最初に「みなさんは、ロボットというと、どのようなものを思いうかべるでしょうか。」と書き出しています。
その上で、「自分ではごみを拾えないロボットや、ただいっしょに手をつないで歩くだけの『弱いロボット』を研究していること」を紹介し、「一見、何の役に立つか分からないこの『弱いロボット』は、わたしたちとテクノロジーの関係を考えるうえで、重要な視点を投げかけてくれます。」と続けます。
このはじめにある5つの文を通して、この説明文では、『弱いロボット』を通して、人間とテクノロジーの関係について語っていくことが分かります。
○おわり
筆者は、最後の段落で「『弱さ』を受け止め、たがいに関わりながら生きていくこと。」と言い切ります。そして、「『弱い』ロボット」が見せてくれるのは、テクノロジーとわたしたち人間が共存していくための未来の在り方であり、また、わたしたち人間どうしのつながりの中で求めるものかのかもしれません。」と締めくくります。
この段落には、筆者の主張が書かれています。
<形式段落>
形式段落は、全部で10段落です。
形式段落毎の簡単な内容は、次の通りです。
① 何の役に立つか分からない「弱いロボット」は重要な視点をもっている。
② テクノロジーは進化し、生活の一部になり、ロボットも高性能化が進んでいる。
③ 便利で高い性能の製品が増えることで、してもらうことが当然という考えになる。
④ 「弱いロボット」は、不完全な部分があることで、人の助けを引き出すよさがある。
⑤ 「ごみ箱ロボット」は、周りの人の協力を得ながら、きれいにすることができる。
⑥ 「弱いロボット」は周りの人の協力を引き出すことで、人に手伝う喜びを感じさせる。
⑦ 「弱いロボット」は、赤ちゃんに似ていて、周りの人の関心と手助けを引き出す。
⑧ 赤ちゃんや「弱いロボット」は、たがいに支え合う心地よい関係を作り出せる。
⑨ 便利で高性能を求めるテクノロジーの進歩は、人との関係を心地よさから遠ざける。
⑩ 「弱さ」を受け止め、関わりながら生きることが、未来の在り方なのかもしれない。
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なお、この部分については、リライト教材として、漢字に読みがなをつけたものを、姉妹ブログの「よみもの」に用意しています。
「弱いロボット」だからできること・要点に進む(外部リンク)
説明文の教材研究(4) 段落関係と要点に進む(内部リンク)
<意味段落>
①段落:序論(はじめ):
読者は、ロボットとはどのようなものだと考えているか尋ねることから始め、その上で、筆者は、「弱いロボット」を研究していることを伝え、「弱いロボット」は、人とテクノロジーの関係を考えるうえで、重要な視点があることを語っている。
②~③段落:本論1:(なか1)
テクノロジーが進歩をしたことで、スマートフォンやパソコンが生活の一部になり、ロボットについても高性能化が進む。そうすると、多くの機能や便利さを求めるようになり、してもらうことが当然という気持ちになる。
④~⑥段落:本論2(なか2):
そのような問題を考える中で生み出された「弱いロボット」は、不完全な部分があることで周りの助けを引き出し、目的を達成できる。例えば、「ごみ箱ロボット」は、ごみを拾えないが、周りの人がごみを入れると、小さくおじぎをする。周りの人の助けを得ながら、周りをきれいにすると目的を達成する。周りの人も手伝うことで喜びを感じるようになる。
⑦~⑨段落:本論③(なか3)
「弱いロボット」は赤ちゃんに似ている。赤ちゃんも自分では何もできない。しかし、赤ちゃんは、周りの関心と手助けを引き出す。赤ちゃんは、「弱さ」ゆえに、周囲の人の協力関係を作り出している。弱いロボットと人間の関係も、たがいに支え合う心地よい関係が作り出せる。便利で高性能なテクノロジーの進歩は、人との関係を心地よいものから遠ざけるかもしれない。
⑩段落:結論(おわり)
「弱さ」を受け止め、たがいに関わりながら生きていくこと。これがテクノロジーと人間の未来の在り方であり、人間どうしのつながりの中でも大切なものである。
<大事な言葉>
弱いロボット、テクノロジー、進歩、自動運転機能、かいご、背景、製品、性能、機能、センサー、存在、関心、心地よい、共存、未来
説明文の教材研究(5) 大事な言葉と要約に進む(内部リンク)
<表現の工夫>
「問いかけ」
この文章では、最初に、「みなさんは、ロボットというと、どのようなものを思いうかべるでしょうか。」や「ごみを見つけることはできるけれど、自分ではごみを拾えないロボットや、ただいっしょに手をつないて歩くだけのロボットがいたらどうでしょう。」と問いかける言い方(疑説法)を用いています。この問いかけがあることで、読み手の知的欲求が高まり、内容を知りたい、文章を読みたいという思いが高まります。
説明文の教材研究(8) 列挙 反復 問いかけに進む(内部リンク)
「対比」
この文章では、2つの対比をおこなっています。
1つは、「普通のロボット(テクノロジーの進歩)」と「『弱い』ロボット」の対比。
この2つを比べることで、テクノロジーの進歩のよさとその問題点を浮き彫りにすることができています。テクノロジーの進歩には、便利で快適さがありますが、その反面、人を「してくれないことにがまんできない」心情を育てたり、「してもらうこと」が当然という気持ちをもたせたりします。
2つめの対比は、「「弱い」ロボット」と「赤ちゃん」の対比。
この2つは、どちらかというと似ている点を列挙しています。どちらも何にもできない「弱い」存在です。しかし、「弱さ」があるゆえに、周りの人の関心と手助けを引き出すというよさがあります。
2つの対比する述べ方によって、説明する対象の特質が明瞭に読み手に伝わる効果があります。
説明文の教材研究(7) 表現の工夫(対比)に進む(内部リンク)
「写真」
この説明文では、3つの「弱い」ロボットの写真があります。この3枚の写真があることで、どのようなロボットかよくわかります。
<要旨>
この説明文では、「弱い」ロボットについて語ることで、どのようなテクノロジーの進歩の方向がよいのかについて、筆者の考えを述べています。ただ高性能でなんでもしてくれる製品を求めるのではなく、「弱さ」を受け止め、たがいに関わりながら生きていくことが大切なのだと述べています。
<資料:テクノロジーが見せる未来>
この説明文の後には、「資料」として「テクノロジーが見せる未来」という「インターネットにあった文章」を載せています。
資料の中では、「人工知能の進歩」と「夢の自動運転技術」について詳しく説明した文章が載っています。この資料を載せることで、この説明文の筆者である岡田さん以外の人が考える「テクノロジー」と「未来」の関係について紹介しています。
この資料があることで、テクノロジーが未来にどのような影響を与えるのか、いろいろな考え方がわかるような工夫がされています。
そして、自分なりの考えを読者にもたせようとするはたらきもあります。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「説明文の教材研究」で取りあげたいくつかの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
なお、岡田美智男さんへのインタビューも載っている「人が助けたくなるちょっと“弱いロボット”研究最前線 いったい何の役に立つ?」というニュースがCBC放送の公式チャンネルの動画に載っています。時間があるときにでもご覧ください。
人が助けたくなるちょっと“弱いロボット”研究最前線に進む(外部リンク)
⭐️ ⭐️
なお、説明文に関係する次の項目についても、併せて読んでください。
説明文の教材研究(1) 教材研究の視点に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(2) はじめとおわりに進む(内部リンク)
説明文の教材研究(3) 文章の構成に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(6) 引用に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(9) 比喩 数量化 程度差に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(10)なぜ教材研究をするのかに進む(内部リンク)
説明文の指導の仕方(1)指導計画に進む(内部リンク)
説明文の指導の仕方(10)に進む(内部リンク)
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