「大造じいさんとガン」の教材分析について知りたいです。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることが大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、「大造じいさんとガン」です。
大造じいさんとガン:教材分析
🟠大造じいさんとガン:教材分析
この教材は、2023年(令和5年)現在、小学校の国語の教科書を出版している4つの教科書会社である光村図書、東京書籍、学校図書、教育出版の5年生の教科書に掲載されています。
ただ、光村図書では、「大造じいさんとガン」とガンの字が片仮名表記の上、まえがきがあります。
他の3つの教科書会社である、東京書籍、学校図書、教育出版では、「大造じいさんとがん」とがんの字が平仮名表記の上、まえがきがありません。
光村図書と東京書籍、学校図書の3社の教科書では、文末は敬体(です・ます)です。
しかし、教育出版の教科書では、文末は常体(だ・である)です。
4つの5年生の教科書に載っていますが、指導時期は秋から冬にかけた時期に設定されています。
ここでは、まえがきのある光村図書の教材文を中心に教材分析することにします。
<作者>
椋鳩十(むく・はとじゅう)さん作
水上みのり(みずかみ・みのり)絵(光村図書)
浅野隆広(あさの・たかひろ)絵(東京書籍)
山本輝也(やまもと・てるや)絵(教育出版)
重 治(かさね・おさむ)絵(学校図書)
出典:「少年倶楽部/昭和16年11月号」(大日本雄弁会/現・講談社・1941年)
椋鳩十にさんついて
1905年(明治38年)長野県に生まれました。本名は、久保田彦穂(くぼた・ひこほ)さんです。法政大学の法部学部国文科卒業をしました。
大学在学中に「詩の家」という同人誌の同人になり、1926年に詩集「駿馬」を発表しました。
大学を卒業した後、鹿児島の高等小学校で代用教員をしていましたが、夏にふんどし1つで授業をしていた目に、3か月で解雇されました。
その後、鹿児島県の加治木町立実科高等女学校(現・鹿児島県立加治木高等学校)の国語教師になりました。仕事の傍ら、宿直室で、執筆活動をしました。
1933年(昭和8年)に最初の小説「山窩調」を自費出版し、この時、椋鳩十のペンネームを使いました。
その後、「片耳の大鹿」「大空に生きる」「孤島の野犬」「マヤの一生」などたくさんの動物を主人公にした作品を出版しています。
1987年(昭和62年)になくなりました。
<題名>
題名は「大造じいさんとガン」です。「大造じいさんとがん」としているものもあります。題名を見るだけで、主人公が大造じいさんとがんであることがわかります。
主人公を題名にした物語であることがわかります。
<設定>
まえがきのある場合
いつ(時):今から35、6年前
どこ(場所):鹿児島県の栗野岳のふもとのぬま地
だれ(登場人物):大造じいさん(72さいの大造じいさんが36、37さんのころ)
まえがきのない場合
いつ(時):今年、がんのやってくる季節
どこ(場所):ぬま地
だれ(登場人物):大造じいさん、残雪
<人物>
わたし……この物語の聞き手であり、大造じいさんの話を土台としてこの物語を書く。
大造じいさん……主人公。かりうど、主にガンをとって暮らしている。
残雪……ガンのとうりょう。仲間のガンを率いている。
1羽のガン……ウナギつりばしをしかけて、大造じいさんがつかまえる。
ハヤブサ……ガンの群れをおそう肉食の猛禽類の鳥。
<あらすじ>
・わたしは、イノシシがりに出かけ、栗野岳のふもとの大造じいさんの家に行く。
・そこで、大造じいさんから愉快なかりの話を聞く。
・話の中に、35、6年前のガンがりの話があったので、その話を土台にこの物語を書いた。
<1>
・今年も、残雪はガンの群れを率いてぬま池にきた。
・残雪は、左右のつばざに一か所ずつ真っ白な交じり毛をもつガンである。
・残雪は、ガンの頭領で、りこうで、油断なく気を配り、かりゅうどを寄せつけない。
・大造じいさんは、残雪のために1羽のガンもとれなくなり、いまいましく思っている。
・残雪が来たことを知り、大造じいさんは、特別な方法にとりかかる。
・その方法は、タニシを付けたウナギつりばりを、一面のくいに結び付ける方法である。
・翌日の昼近く、大造じいさんは、むねをわくわくさせながらぬま池にやってくる。
・1羽だけだったが、ガンが手に入ったので、じいさんはうれしくなった。
・またガンを取れると思ってじいさんは、もっとたくさんのつりばりをばらまいた。
・その翌日、大造じいさんは、また、ぬま知に出かけたが、今度は取れなかった。
・見てみると、つりばりの糸が引きのばされ、いじょうがない時だけ、えを飲みこんだみたいだ。
・ガンはりこうでないと思っていたのに、たいしたちえをもていると、今さらのように感じた。
<2>
・その翌年も、残雪が、大群を率いてやってきて、えをあさった。
・大造じいさんは、夏の間にタニシを五俵ほど集め、ばらまいておいた。
・ガンが食べた形跡があったので、4、5日続けて、同じ場所にタニシをまくと、ガンが集まる場所になった。
・大造じいさんは、うまくいったので、会心のえみをもらした。
・夜の間に、えさ場の近くに小屋を作って、待つことにした。
・朝になり、ガンの群れが近づき、大造じいさんは、しとめられると、ほおがびりびりした。
・ところが、小屋を見つけた残雪は、角度を変えると、西のはしに着陸した。
・大造じいさんは、残雪にしてやられて、ううん、とうなった。
<3>
・今年もまた、ガンのくる季節になった。
・大造じいさんは、二年前にしとめたガンをてなずけていたので、このガンを使うことにした。
・大造じいさんは、ガンは、最初に飛び立つものについて飛ぶことを知っていた。
・かいならしたガンをおとりにして、がんをとらえることにし、えさ場に放った。
・大造じいさんは、小屋の中で待つことにした。朝が来た。
・残雪は、仲間と共にえさ場にやってきた。
・大造じいさんのむねは、わくわくしてきたが、心が落ち着くのを待った。
・あのおとりのガンを飛び立たせようとしたとき、ガンの群れが飛び立った。
・どうしたのかと、小屋の外に出ると、ハヤブサが近づいてくるのが見えた。
・おとりのガンが、野鳥としての本能をにぶらせ、飛びおくれた。
・助けようと、口笛をふき、こちらに来ようとしたが、ハヤブサがけりあげた。
・その時、残雪が、逃げおくれたガンを助けにやってきた。
・大造じいさんは、じゅうで残雪をねらったが、再びじゅうを下ろした。
・残雪は、てきであるハヤブサにぶつかっていった。
・ハヤブサと残雪は、もつれ合って、ぬま地に落ちてきた。
・大造じいさんがかけつけると、二羽の鳥は、はげしく戦っていた。
・ハヤブサは、人間に気づくと、よろめきながら、飛び去っていった。
・残雪は、むねの辺りをくれない(血)にそめて、ぐったりしていた。
・しかし、第二のおそろしいてきであるじいさんが近づいてきたのを感じると、首を持ち上げ、じいさんを正面からにらみつけた。
・鳥とはいえ、いかにも頭領らしい、堂々たる態度をみせ、大造じいさんが手をのばしても、さわがなかった。
・最期の時を感じ、頭領としてのいげんをきずつけまいと努力しているようであった。
・大造じいさんは、強く心を打たれて、ただの鳥に対しているような気がしなかった。
<4>
・残雪は、大造じいさんのおりの中で、一冬をこし、春になると、元気になった。
・晴れた春の朝、大造じいさんは、おりのふたを開けた。
・残雪は、少しおどろいたようだったが、一直線に飛び上がった。
・らんまんのスモモの花が、その羽にふれ、はらはらと散った。
・大造じいさんは、「ガンの英雄よ。おまえみたいなえらぶつをひきょうなやり方でやっつけたくはない。また、堂々と戦おう。」とよびかけた。
・大造じいさんは、残雪が北へ飛び去っていくのを、晴れ晴れとした顔つきでいつまでも見送った。
<場面>
ここでは、このブログで紹介している5場面に分け、1場面を30字程度にまとめてみます。
⓪わたしは大造じいさんの家で、昔のガンかりの話を聞き、物語にした。
①ガンの頭領の残雪が来てからかりは失敗続きで1匹のみ捕えられた。
②2年め五俵ものタニシをまき小屋の中で待つが残雪にしてやられた。
③飼いならしたガンを使い、群れを打とうとしたが、ハヤブサが来た。
④逃げおくれたガンを助けハヤブサと戦う残雪の姿に、心を打たれた。
⑤堂々と戦おうと、助けた残雪を空に放ち、じいさんは晴れ晴れとした。
123456789012345678901234567890123
この物語は、残雪との3年間にわたる戦いの様子を物語にしたものです。そして、3年め、仲間のガンを助けようとして傷ついた残雪を一冬の間看病し、元気になった残雪を次の年の春に、また堂々と戦おうと、空に放つところで、この物語は終わります。
<人物の会話>
この物語には、重要な会話がいくつかあります。ほとんどの会話は、大造じいさんの残雪などに対する気持ちを独り言のように語っているところです。
1つめは、1年めの会話です。
「しめたぞ。」
「ほほう、これは素晴らしい。」
この2つの会話は、しかけがうまくいって、ガンを1羽つかまえることができた時のものです。
しかし、この1羽しかつかまえることができないので、大造じいさんは、
「ううむ。」
と感嘆の声をもらすことになります。
2つめは、2年めの会話です。
ここでも、大造じいさんの会話があります。
「しめたぞ。もう少しのしんぼうだ。あの群れの中に一発ぶち込んで、今年こそは、目にもの見せてくれるぞ。」
と思います。しかし、残雪の
「様子の変わった所には、近づかぬがよいぞ。」
という本能のために、大造じいさんは、
「ううん。」
とうなることになります。
3つめは、3年めの会話です。
会話を読むだけでも、残雪との戦いに対する大造じいさんの心の動きがよくわかります。
「今年はひとつ、これを使ってみるかな。」
「うまくいくぞ。」
「さあ、いよいよ戦闘開始だ。」
「さあ、今日こそ、あの残雪めにひとあわふかせてやるぞ。」
「どうしたことだ。」
「ハヤブサだ。」
「あっ。」
4つめは、4年めの春に、残雪を放つときの大造じいさんの会話です。
「おうい、ガンの英雄よ。おまえみたいなえらぶつを、おれは、ひきょうなやり方でやっつけたかあないぞ。なあ、おい。今年の冬も、仲間を連れてぬま地にやって来いよ。そうして、おれたちは、また堂々と戦おうじゃあないか。」
この会話から、大造じいさんが残雪を大いに認めていることがわかります。
<人物の行動>
大造じいさんと残雪の行動には、特筆すべきところがたくさんあるのですが、ここでは、3場面での行動に絞って書くことにします。
○ 大造じいさん
大造じいさんの行動において、一番心が惹かれる行動は、次の行動です。
・大造じいさんは、ぐっとじゅうをかたに当て、残雪をねらいました。が、なんと思ったか、再びじゅうを下ろしました。
この行動は、「なぜ、大造じいさんは、じゅうを下ろしたのだろうか。」と指導の際に教員から発問されることが多い行動です。
なぜなのかを子どもとともに考えるのは楽しいと思います。
○ 残雪の行動
3場面の残雪の行動で驚くところはたくさんあります。
1つは、仲間を助けるためとはいえ、肉食の猛禽類のハヤブサと戦うところです。
まず、ハヤブサとガンの肉体的な違いに着目する必要があります。
ハヤブサには、鋭いくちばしと爪があります。それに比べて、ガンには、丸いくちばしと、水かきのついた足があります。比べ物にならないくらい肉体的な違いがあります。
このことは、子どもには伝える必要があるように思います。
素手の子どもとナイフを持った大人がけんかをするような感じだということを知らせることも必要かもしれません。
・大造じいさんは、強く心を打たれて、ただの鳥に対しているような気がしませんでした。
こう書かれているのですが、残雪のどのような行動に対してそう思ったのかを考えることは、とても大切なことかもしれません。
次のような残雪の行動の大造じいさんは、心を打たれたと思われます。
・いきなり、てきにぶつかっていきました。
・なおも地上ではげしく戦っていました。
・第二のおそろしいてきが近づいたのを感じると、残りの力をふりしぼって、ぐっと長い首を持ち上げました。
・じいさんを正面からにらみつけました。
・(手をのばしても、)残雪は、もうじたばたさわぎませんでした。
残雪は、鳥ですので、人ではありません。しかし、その行動は、人の心を大いに動かす行動です。文章の中でどのように行動したと書かれているのかを、しっかりと読むのは、とても大切です。
<主題>
この物語の主題は、何でしょうか?
大造じいさんと残雪との知恵比べと考える人がいるかもしれません。
残雪の鳥とは思えないような立派な態度と、それを認める大造じいさんの人柄と考える人がいるかもしれません。
元筑波大学附属小学校教諭で、明星大学客員教授の白石範孝さんは、「人が生きるとき、どんなに苦しくても自らの尊厳を保とうとすることの尊さ」と語っています。
白石範孝さん書かれた文章のページに進む(外部リンク)
自分なりの主題をぜひ、考えてみてください。
<表現の工夫>
この物語文には、さまざまな表現の工夫があります。
表現の工夫の1つは、情景描写です。美しい情景描写からは、大造じいさんの心などが感じられるところがたくさんあります。
・あかつきの光が、小屋の中にすがすがしく流れこんできました。
・東の空が真っ赤に燃えて、朝が来ました。
・ぱっと、白い羽毛があかつきの空に光って散りました。
・羽が、白い花弁のように、すんだ空に飛び散りました。
・らんまんとさいたスモモの花が、その羽にふれて、雪のように清らかに、はらはらと散りました。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「物語文の教材研究の仕方」に挙げた10個の視点のうち、最後の指導計画を除いた9つの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
⭐️ ⭐️
他の教材の教材分析については、次のページをお読みください。
初雪のふる日 教材分析001に進む(内部リンク)
世界一美しいぼくの村 教材分析002に進む(内部リンク)
世界でいちばんやかましい音 教材分析003に進む(内部リンク)
かさこじぞう 教材分析007に進む(内部リンク)
海の命 教材分析020に進む(内部リンク)
なまえつけてよ 教材分析032に進む(内部リンク)
帰り道 教材分析035に進む(内部リンク)
物語文の教材研究については、次のページもお読みください。
物語文の教材研究の仕方(1)基本的な考えに進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(2)視点に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(3)設定・人物に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(4)あらすじ・場面に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(5)会話・行動に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(6)主題に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(7)表現の工夫に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(8)指導法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(9)指導方法に進む(内部リンク)
物語文の教材研究の仕方(10)目標と教材の関係に進む(内部リンク)
コメント