あさのあつこさんの書かれた読書をすすめる文章についてです。
読書をすることはとても意味のあることです。
今回は、あさのあつこさんのさんの書かれた「すてきなこと」という文章についてです。
すてきなこと:教材分析
この教材は、東京書籍の5年生の教科書に掲載されている文章です。
<作者>
あさのあつこさん作
出典:この教科書のために書き下ろされました。
あさのあつこさんについて
1954年(昭和29年)、岡山県英田郡美作町(現・美作市)で生まれます。日本の小説家、児童文学者です。本名は、浅野敦子さんです。
中学生の頃から、将来小説家になりたいと思っていました。
岡山県立林野高等学校在学中には、詩を書いたり国語の授業で小説を書いたりしていました。
青山大学文学部に入学後、児童文学サークルに入り、小説を書いたこともあります。卒業後、岡山市の小学校の臨時教員をしていましたが、多忙で小説は書けず、3年間で教員を辞めました。
その後、歯科医師と結婚し、病院の仕事を手伝いながら、3人のお子さんの子育てをしていました。子育てに少し余裕ができた時に、大学時代に指導を受けた作家の後藤隆二さんに誘われ、日本同人協会「季節風」の同人になります。「季節風」に書いた「ホタル館物語」が認められて、37歳で作家デビューします。
1997年刊行の「バッテリー」(教育画劇の創作文学・角川文庫)で野間児童文芸賞を受賞します。この作品は、幅広い世代の支持を得て児童文学としては異例の1000万部を超えるベストセラーになります。
1999年刊行の「バッテリー2」(教育画劇の創作文学・角川文庫)で日本児童文学者協会賞を受賞します。「バッテリー」全6巻で、小学館児童出版文化賞を受賞します。
中学野球が舞台の「バッテリー」のほか、「NO.6」(講談社・2003~11年)、「ガールズ・ブルー(ポプラ社・2003~08年)などの人気シリーズがあります。
<題名>
題名は「すてきなこと」です。
<はじめとおわり>
○はじめ
この文章は、次のような文から始まります。
わたしは子どものころ、あまり本を読まない子でした。そう言うと、必ず「ええっ。」と驚かれるのですが、うそじゃありません。読書より楽しいと感じることがいっぱいあったんですもの。
○おわり
この文章では、次のような文で終わっています。
だから、できたら、あなたに本と仲良くなってもらいたいのです。
<形式段落>
① 読書より楽しいことがいっぱいあったから、子どものころはあまり本を読まなかった。
② 世の中には本を読むことより楽しいことがいっぱいあるので、本なんて読まなくてもいい。
③ ただ本と仲良くなるのは案外すてきなことで、読書に夢中になったのは中学のころだ。
④ 本を読んでいると、自分が豊かだと分かる。できればあなたに本と仲良くなってほしい。
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<意味段落>
今回のあさのあつこさんの書かれた文章は、4つの形式段落しかありません。
今回は、4つの形式段落を3つの意味段落として考えてみます。
①~②段落:はじめ(序論)
子どものころ、あまり本を読みませんでした。読書より楽しいと感じることがいっぱいありましたから。山や野原をかけ回ったり、川で泳いだり、校庭でおにごっこをしたり、山でぼうけんごっこをしたりしていました。
この世の中には、本を読むことより楽しいことがいっぱいありますので、わたしは「本を読まなきゃだめだ。」なんて言いません。
②段落:なか(本論)
ただ、ほんと仲良くなるのって案外、すてきなことです。わたしが読書に夢中になったのは中学生のときなんです。動物が大好きだったので、動物が出てくる「シートン動物記」などを読みました。読みながらぼろぼろ泣き、動物のほこり高さ、あわれさ、人間のやさしさと残こくさなどを知りました。ドリトル先生シリーズも夢中になりました。
③段落:おわり(結論)
本を読んでいると、自分が豊かな人間だと分かります。泣いたり、笑ったり、あこがれたり自分の中にさまざまな感情があることに気づきます。本を読むことで、今まで知らなかった自分に出会えるのです。それはすてきなことです。本を読み、本の世界を知ることで、読む前のあなたと少し変わるのです。それもすてきなことです。だから、できたら、あなたに本と仲良くなってほしいです。
<大事な言葉>
すてきなこと、夢中、シートン動物記、ほこり高さ、あわれさ、ドリトル先生シリーズ、あこがれる、興奮する
<表現の工夫>
「列挙」
この説明文では、小学校のときにあさのさんが楽しかったことがたくさん書かれています。
山や野原をかけ回ること、川で泳ぐこと、校庭でおにごっこすること、山でぼうけんごっこすることなどです。
また、この説明文では、あさのさんが好きだった本をいくつかあげています。シートン動物記とドリトル先生シリーズです。
シートン動物記は、アメリカの博物学者アーネスト・トンプソン・シートン(1860-1946年)によって書かれた動物物語55編の総称です。これらの動物物語は、シートン自身の体験や見聞をもとに創作されました。最初の作品は1898年に出版され、日本では1937年に出版されました。
ドリトル先生シリーズは、イギリス人の小説家ヒュー・ロフティング(1886-1947年)によって創作された児童書です。世界でただ1人の動物と話せる医学博士という設定で書かれた児童書で、全12巻と番外編1巻があります。アメリカとイギリスでは、1922年に出版され、日本では1941年に出版されました。
なお、シートン動物記の「狼の王ロボ」は青空文庫で読むことができます。
青空文庫に進む(外部リンク)
動物物語 狼の王ロボに進む(外部リンク・青空文庫)
「文末」
この文章では、ほとんどが敬体で書かれていますが、一部の文末が常体になっています。
次の3箇所です。
・だって、読書より楽しいと感じることがいっぱいあったんですもの。
・うん、楽しかった。本当に楽しかった。
・あっ、わたし、こんなことで泣くんだ。こんなことではらを立てるんだ。ああ、こんな生活がしてみたい。
敬体の中に一部、常体があることで、まるで直接話しかけられているようにも感じますし、文章にリズム感があるというよさはありますが、この文章の文末が揃っていないことに気づく子どもを育てたいと思います。
<要旨>
この説明文では、世の中には、読書よりも楽しいことはたくさんあるけれども、読書したり本と仲良くなることは、すてきなことがだということが書かれています。
<まとめにかえて>
この東京書籍の「本は友達」というエッセイのシリーズでは、2年生から6年生の教科書に、その学年の子どもにふさわしい本の紹介と本のよさを伝える有名人の文章が載っています。
2年生は、やなせたかしさんの「どうわの王さま」
3年生は、茂市久美子さんの「心の養分」
4年生は、今回取り上げた米村でんじろうさんの「本は楽しむもの」
5年生は、あさのあつこさんの「すてきなこと」
6年生は、上橋菜穂子さんの「ほんがいざなう、もう一つの世界へ」
という文が載っています。
この教材分析は、このブログに載せている「説明文の教材研究」で取りあげたいくつかの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
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あわせて読書に関係する文章もお読みください。
子どもを本好きにさせる方法 読書のすすめ(1)に進む(内部リンク)
どうわの王様 読書のすすめ(2)に進む(内部リンク)
心の養分 読書のすすめ(3)に進む(内部リンク)
本は楽しむもの 読書のすすめ(4)に進む(内部リンク)
読む力を育てる① 多文種の短い文章をたくさん読むに進む(内部リンク)
読む力を育てる② 教科書の作品の姉妹作品を読むに進む(内部リンク)
読む力を育てる③ 読み聞かせに進む(内部リンク)
なお、説明文の教材研究についてもお読みください。
説明文の教材研究(1) 教材研究の視点に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(2) はじめとおわりに進む(内部リンク)
説明文の教材研究(3) 文章の構成に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(4) 段落関係と要点に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(5) 大事な言葉と要約に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(6) 引用に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(7) 表現の工夫(対比)に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(8) 列挙 反復 問いかけに進む(内部リンク)
説明文の教材研究(9) 比喩 数量化 程度差に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(10)なぜ教材研究をするのかに進む(内部リンク)
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