「平和のとりでを築く」の教材分析について知りたいです。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることが大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、「平和のとりでを築く」です。
平和のとりでを築く:教材分析
🟠平和のとりでを築く:教材分析
この教材は、光村図書の6年生の教科書に掲載されている説明文です。
<作者>
大牟田稔(おおむた・みのる)作
出典:教科書のために書き下ろしされたものです。
大牟田稔さんについて
1930年(昭和5年)宮崎県生まれです。
大牟田さんは、広島大学文学部を卒業してから、広島の地元新聞や中国新聞社などで働きました。大牟田さんは、「沖縄の被爆者たち」という連載記事を「中国新聞」に発表しました。
中国新聞を退社した後で、広島平和文化センター理事長に就任しました。
2001年に亡くなりました。
<題名>
題名は「平和のとりでを築く」です。
題名を見た時に、平和に関係する何かを作ることだろうと予想できる題名です。
とりでの意味を、「小規模な城」と知っている子どもにとっては、平和と戦争をする城というのが、少しそぐわないと感じるかもしれません。
<はじめとおわり>
○ はじめ
広島市には原爆ドームがあり、ユネスコの世界遺産への仲間入りしたとき、筆者は、この建物の月日を思わずれにはいられなかったそうです。ドームがたどった月日は、私たちの父母や祖父母の生きてきた時代、社会が変化した時代と重なると考えています。
○ おわり
ユネスコ憲章には、「戦争は心の中で生まれるから、人の心の中に平和のとりでを築かねばなかない」と記されています。原爆ドームは、それを見る人の心に平和のとりでを築くための世界の遺産といえます。
説明文の教材研究(2) はじめとおわりに進む(内部リンク)
<形式段落>
形式段落は、全部で13段落です。形式段落毎の簡単な内容は、次の通りです。
① 広島市には原爆ドームがあり、ドームがたどった月日は、社会が変化した時代と重なる。
② 原爆ドームは、物産陳列館として一九一五年に完成し、ひときわ目立つ建物だった。
③ この建物は、時代の流れを見守ってきた。この建物は多くの市民に親しまれてきた。
④ 一九四五年八月六日、広島市に原子爆弾が投下され、市民の多くは生命をうばわれた。
⑤ 爆心地に近かったこの建物は炎上し、中にいた人はなくなったが、建物の一部は残った。
⑥ 原爆ドームを保存するか、取りこわすか、戦後まもない広島では議論が続いた。
⑦ 原爆ドームが保存になったのは、白血病でなくなった少女の、日記がきっかけだった。
⑧ 保存は傷ついた建物だけに簡単ではなく、寄付で補強工事が何度かくり返された。
⑨ 原爆ドームを世界遺産にという動きが高まり、一九九六年世界遺産に指定された。
⑩ 世界遺産は文化遺産と自然遺産を未来に向け守るためにユネスコが指定する制度だ。
⑪ 原爆ドームが審査される時、規模が小さく歴史も浅いので不安をもったが、決定した。
⑫ 原爆ドームは、原子爆弾の惨害さと核兵器を二度と使ってはいけないことを警告している。
⑬ 原爆ドームは、それを見る人の心に平和のとりでを築くための世界の遺産である。
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説明文の教材研究(4) 段落関係と要点に進む(内部リンク)
<意味段落>
ここでは、6つの意味段落に分かれていると考えてみることにします。
①段落:序論(はじめ)
広島市には原爆ドームがあり、ユネスコの世界遺産への仲間入りしたとき、この建物の月日を思わずれにはいられなかった。ドームがたどった月日は、私たちの父母や祖父母の生きてきた時代、社会が変化した時代と重なる。
②~③段落:本論1(なか1)
原爆ドームは、物産陳列館として一九一五年に完成した後、近くの川では小舟が行きかい、水遊びや水泳を楽しみ、絵や書の作品展示の会場として、多くの市民に親しまれてきた。
④~⑤段落:本論2(なか2)
一九四五年八月六日、広島市に原子爆弾が投下され、市民の多くは生命をうばわれた。爆心地に近かったこの建物は炎上し、中にいた人はなくなったが、れんがと鉄骨、丸屋根の部分などの一部が残った。
⑥~⑧段落:本論3(なか3)
原爆ドームを保存するか、取りこわすか、戦後まもない広島では議論が続いたが、保存することになったのは、白血病でなくなった少女の日記に「あの産業奨励館だけが、原爆のことを後世にうったえかけてくれる」という日記がきっかけだった。保存は傷ついた建物だけに簡単ではなく、全国からの寄付で補強工事が何度かくり返され、今の形を保っている。
⑨~⑪段落:本論4(なか4)
原爆ドームを世界遺産にという動きが高まり、一九九六年世界遺産に指定された。世界遺産には、文化遺産と自然遺産があり、未来に向けて守るためにユネスコと世界の国々が指定する制度だ。原爆ドームが審査される時、規模が小さく歴史も浅いので不安をもったが、世界遺産に決定した。
⑫~ ⑬段落:結論(おわり)
原爆ドームは、原子爆弾の惨害さと核兵器を二度と使ってはいけないことを警告する記念碑である。ユネスコ憲章には、「戦争は心の中で生まれるから、人の心の中に平和のとりでを築かねばなかない」と記されている。原爆ドームは、それを見る人の心に平和のとりでを築くための世界の遺産である。
<大事な言葉>
原子爆弾、原爆ドーム、ユネスコ、世界遺産、物産陳列館、強烈、熱線、爆風、放射能、爆心地、保存、急性白血病、補強工事、寄付、文化遺産、自然遺産、姫路城、屋久島、制度、審査、遺跡、規模、核兵器、ユネスコ憲章
説明文の教材研究(5) 大事な言葉と要約に進む(内部リンク)
なお、次の言葉については、このブログと姉妹ブログの「よみもの」に子ども向けの簡単な文章を載せています。
世界遺産に進む(外部リンク・よみもの)
原爆ドーム Atomic Bomb Domeに進む(外部リンク・よみもの)
姫路城 Hineji Castleに進む(外部リンク・よみもの)
屋久島 Yakusimaに進む(外部リンク・よみもの)
<表現の工夫>
「数量化」
この説明文では、いつ起こった出来事であるか年月を書いたり、具体的な数字をたくさん使ったりしています。
「一九一五年(大正四年)」「一九四五年八月六日午前八時十五分」「六百メートルの上空」「一九六〇年(昭和三十五年)」「一九九二年(平成四年)」「一九九六年(平成八年)」「六百か所以上」
数量化されたデータを示すことによって、述べようとすることの確かさが強まっています。
説明文の教材研究(9) 比喩 数量化 程度差に進む(内部リンク)
「引用」
原爆ドーム保存反対論の意見や、白血病でなくなった少女の日記、ユネスコ憲章などを引用して表しています。
引用することによって、筆者が述べようとすることの信頼性が強められる書き方になっています。
説明文の教材研究(6) 引用に進む(内部リンク)
「写真」
2つの写真を使っています。言葉で説明するだけではわかりにくい「原子爆弾で破壊される前の建物」「被爆した広島市街の様子」の2つの写真があることで、とてもわかりやすくなっています。
「かぎかっこの利用」
「原爆ドーム」、「原爆ドームの永久保存」などの言葉にかぎかっこを用いることで、これらの言葉を強調したり、ていねいに定義づけたりしています。
<要旨>
この説明文では、「原爆ドーム」が平和を築く上で果たす大きな役割について書かれています。
原爆ドームは平和を築き、戦争をいましめる建造物としてユネスコの世界遺産の仲間入りをしました。原爆ドームは核兵器を二度と使ってはいけない、むしろ不必要だと世界の人々に警告する記念碑といえます。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「説明文の教材研究」で取りあげたいくつかの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
⭐️ ⭐️
なお、説明文に関係する次の項目についても、併せて読んでください。
説明文の教材研究(1) 教材研究の視点に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(3) 文章の構成に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(7) 表現の工夫(対比)に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(8) 列挙 反復 問いかけに進む(内部リンク)
説明文の教材研究(10)なぜ教材研究をするのかに進む(内部リンク)
説明文の指導の仕方(1)指導計画に進む(内部リンク)
説明文の指導の仕方(10)に進む(内部リンク)
なお、戦争について私の考えをまとめたページがあります。
学ぶ⑤ 戦争に進む(内部リンク)
他の教材の教材分析については、次のページをお読みください。
メディアと人間社会 教材分析⑬に進む(内部リンク)
大切な人と深くつながるために 教材分析014に進む(内部リンク)
プロフェッショナルたち 教材分析017に進む(内部リンク)
君たちに伝えたいこと 教材分析021に進む(内部リンク)
今、あなたに考えてほしいこと 教材分析022に進む(内部リンク)
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