上橋菜穂子さんの書かれた読書をすすめる文章についてです。
読書をすることはとても意味のあることです。
今回は、上橋菜穂子さんの書かれた「本がいざなう、もう一つの世界へ」という文章についてです。
本がいざなう、もう一つの世界へ:教材分析
この教材は、東京書籍の6年生の教科書に掲載されている文章です。
<作者>
上橋菜穂子(うえはし・なほこ)さん作
出典:この教科書のために書き下ろされました。
上橋菜穂子さんについて
1962年(昭和37年)、東京都で生まれます。日本の児童文学作家、ファンタジー作家、SF作家、文化人類学者です。
香蘭女学校中学校・高等学校を経て、立教大学文学を卒業します。その後、立教大学大学院博士課程を単位取得し退学されます。
大学は、史学科でしたが、大学院では、文化人類学を選びます。オーストラリアの先住民アボリジニについて研究しています。いくつかの大学の助手や講師をされた後、川村学園女子大学、講師、助教授を経て、同大学児童教育学科教授になられます。
1989年「精霊の木」(偕成社)で児童文学作家としてデビューします。「月の森に、カミよ眠れ」(偕成社・1991年)で、日本児童文学者協会新人賞を受賞します。
1996年刊行の「精霊の守り人」(偕成社)で 第34回野間児童文芸新人賞を受賞されます。この作品は、守り人シリーズとして、13冊刊行されました。
このシリーズは、漫画化、テレビアニメ化され、NHKでテレビドラマ化されています。綾瀬はるかさん主演のテレビドラマは、現在、Netflixで視聴することができます。
「鹿の王」は、KADOKAWAにより、2014年に上下巻、2019年3月に外伝が刊行されました。 この作品は「鹿の王ーユナと約束の旅」という題名で、2022年にアニメーション映画として上映されています。この作品は、prime videoで視聴することができます。
<題名>
題名は「本がいざなう、もう一つの世界へ」です。
<はじめとおわり>
○はじめ
この文章は、次のような文から始まります。
わたしは、子供のころ、本を読むのが大好きでした。イギリスの児童文学「ツバメ号とアマゾン号」を読みながら、心の中で、物語に登場する子供たちといっしょに帆船の旅を楽しみ、ミートパイを食べました。
○おわり
この文章では、次のような文で終わっています。
わたしが書いた物語を読み終えたとき、旅を終えて家に帰ってきた人のように、見慣れていたはずのわが家が、なんとなくちがって見えるような気持ちを感じてもらえたら、これほどうれしいことはありません。
<形式段落>
① 子供のころ本を読むのが好きで、心の中で物語の人物といっしょに旅を楽しんだ。
② 物語の中に入って、その世界を生き、心から楽しんだ気持ちは宝物といえる。
③ 本を読むことの楽しさは、それだけではない。
④ 本はわたしをさまざまな国に連れていくと同時に、「日本は他国とちがう」と気づかしてくれた。
⑤ それは、自分がくらしている世界の外に出て初めて気がつくことである。
⑥ 海の魚には海が見えていない。何かに追われ海の上に飛び上がり、海を見下ろし、海を知る。
⑦ みなさんに、海を知らない魚ではなく、海の外に飛び上がって、海を見下ろしてみてほしい。
⑧ そうすれば、自分のあたりまえが、他の世界の人にはあたりまえでないことに気づくだろう。
⑨ わたしの作品は、さまざまな言語に翻訳され、世界各地で出版されている。
⑩ わたしの物語は異世界が舞台なので、読者はみな慣れ親しんだ世界の外で旅することになる。
⑪ 物語を読み終え、見慣れたわが家が、ちがって見える気持ちになったら、とてもうれしい。
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<意味段落>
今回の上橋さんの書かれた文章を4つの意味段落として考えてみます。
①~③段落:はじめ(序論)
子供のころ本を読むのが好きで、心の中で物語の人物といっしょに旅を楽しみました。物語の中に入って、その世界を生き、心から楽しんだ気持ちは宝物といえます。わたしは、今、それをだいじにしながら物語を書いています。本を読むことの楽しさは、それだけではありません。
④~⑥段落:なか1(本論1)
本はわたしをさまざまな国に連れていくと同時に、本を読みながら「他の国の子供の気持ち」になって、かれらのくらしを経験し「日本は他国とはこんなにちがう」ということに気づきました。それは、自分がくらしている世界の外に出て初めて気がつくことです。海で泳ぐ魚には海が見えていません。何かに追われ海の上に飛び上がり、海を見下ろし、はじめて海の広大さを知ります。
⑦~⑩段落:なか2(本論2)
わたしは、みなさんに、海を知らない魚ではなく、海の外に飛び上がって、海を見下ろしてみてほしいです。そうすれば、自分のあたりまえが、他の世界の人にはあたりまえでないことに気づくはずです。実際に世界に行くことは難しくても、本は、外から自分の世界を知るつばさをつけてくれます。
わたしの作品は、さまざまな言語に翻訳され、世界各地で出版されています。わたしの物語は異世界が舞台なので、読者はみな慣れ親しんだ世界の外で旅することになります。
⑪段落:おわり(結論)
わたしが書いた物語を読み終えたとき、旅を終えた人のように、見慣れていたわが家がちがって見えるような気持ちを感じてもらえたら、これほどうれしいことはありません。
<大事な言葉>
いざなう、ツバメ号とアマゾン号、帆船、ミートパイ、感動、海原、翻訳、異世界、
<表現の工夫>
「具体例」
この説明文では、上橋さんが好きだった本をあげています。「ツバメ号とアマゾン号」です。
ツバメ号とアマゾン号は、イギリスの児童文学作家のアーサー・ランサム(1884-1967年)によって書かれました。
ヨットの操作やその世界の用語、技術情報などが、児童文学の内容を越えるほどたくさん出てくる「ツバメ号とアマゾン号」という本は、シリーズ化され、12の作品が書かれています。
「比喩」
この文章では、読者を海の魚にたとえて説明しています。
海の中で泳いでいる魚は、海の広さを感じることができませんが、海の外に出て海を見ることで海の広さを知ることができます。これと同じように、この文章の読者も本を読み、他の世界から自分の世界を知ることで、自分の世界を外から見ることができるのです。
比喩的表現によって、説明している内容の理解が容易になります。
<要旨>
この説明文では、読書をすることにより、他の世界を知ることを通して、改めて自分の住む世界の違うところを知ることができるということが書かれています。
<まとめてにかえて>
この東京書籍の「本は友達」というエッセイのシリーズでは、2年生から6年生の教科書に、その学年の子どもにふさわしい本の紹介と本のよさを伝える有名人の文章が載っています。
2年生は、やなせたかしさんの「どうわの王さま」
3年生は、茂市久美子さんの「心の養分」
4年生は、今回取り上げた米村でんじろうさんの「本は楽しむもの」
5年生は、あさのあつこさんの「すてきなこと」
6年生は、上橋菜穂子さんの「ほんがいざなう、もう一つの世界へ」
という文が載っています。
この教材分析は、このブログに載せている「説明文の教材研究」で取りあげたいくつかの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
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あわせて読書に関係する文章もお読みください。
子どもを本好きにさせる方法 読書のすすめ(1)に進む(内部リンク)
どうわの王様 読書のすすめ(2)に進む(内部リンク)
心の養分 読書のすすめ(3)に進む(内部リンク)
本は楽しむもの 読書のすすめ(4)に進む(内部リンク)
読む力を育てる① 多文種の短い文章をたくさん読むに進む(内部リンク)
読む力を育てる② 教科書の作品の姉妹作品を読むに進む(内部リンク)
読む力を育てる③ 読み聞かせに進む(内部リンク)
なお、説明文の教材研究についてもお読みください。
説明文の教材研究(1) 教材研究の視点に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(2) はじめとおわりに進む(内部リンク)
説明文の教材研究(3) 文章の構成に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(4) 段落関係と要点に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(5) 大事な言葉と要約に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(6) 引用に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(7) 表現の工夫(対比)に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(8) 列挙 反復 問いかけに進む(内部リンク)
説明文の教材研究(9) 比喩 数量化 程度差に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(10)なぜ教材研究をするのかに進む(内部リンク)
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