「森へ」という文章の教材分析について知りたいです。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることが大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、「森へ」です。
森へ:教材分析
🟠森へ:教材分析
光村図書の6年生の教科書に掲載されています。
<作者>
星野道夫(ほしの・みちお)作・写真
出典:「森へ たくさんのふしぎ傑作集」(福音館書店・1996年)
星野道夫さんについて
1952年千葉県市川市で生まれました。日本の写真家、探検家、詩人です。
慶應義塾高等学校在学時に、北米大陸への旅行を計画し、さまざまなアルバイトをしました。1968年、16歳のとき、父の理解を得て、約2か月間の冒険の旅に出ました。
慶應大学経済学部へ進学します。大学時代は探検部で活動しました。
1978年、アラスカ大学フェアバンクス校の入試を受けました。入試では、英会話が合格点に届きませんでしたが、学長の直談判して野生動物管理学部への入学を認められました。その後、アラスカを中心に、野生の動植物や人々の写真を撮影しました。
1989年、アラスカを撮影した写真の写真展や雑誌などの連載で、木村伊兵衛写真賞を受賞します。写真をまとめた「Alaska 極北・生命の地図」(朝日新聞社・1990年)を発行します。
1996年7月下旬にTBSの人気動物番組「どうぶつ奇想天外」のために、ロシアのカムチャッカ地方を訪れます。星野さんはテントで寝ていました。そこに、ヒグマで出ました。小屋で寝るようにすすめるスタッフに対して、「この時期はサケが川を上って食べ物が豊富だから、ヒグマは襲ってこない」として取り合いませんでした。8月8日の深夜4時頃、星野さんの悲鳴とヒグマのうなり声がキャンプ場に響き渡りました。ガイドが懐中電灯で照らし、大声をあげシャベルをガンガン叩くと、そのまま森へ消えていきました。テントはひしゃげ、テントの支柱は折れ、星野さんの寝袋は切り裂かれていました。ガイドが無線で救助を要請し、ヘリコプターで到着した捜索隊は上空からヒグマを捜索し、発見すると射殺しました。星野さんの遺体は森の中でヒグマに喰い荒らされた姿で発見されました。
この事実を子どもに伝えるかどうかは、よく吟味してほしいと思います。
<題名>
題名は「森へ」です。
森に関係していることが書かれている文章だ、と子どもは思うでしょう。
この文章は、旅に関するエッセイ、あるいは、紀行文といえるでしょう。森に関する物語として読むこともできます。ここでは、説明文として教材分析することにします。
<はじめとおわり>
○はじめ
はじめに、次のような文章で始まっています。
朝の海は、深いきりに包まれ、静まりかえっていました。聞こえるのは、カヤックのオールを切る音だけです。
ここでは、カヤックで、南アラスカからカナダにかけて広がる原生林の世界へ入ることについて書いています。そして、少し先の文章で次のように書きます。
見上げるような巨木や、その間にびっしりとおいしげる樹林が、ぼくがこの森に入ることをこばんでいるようでした。
○ おわり
最後は、次のような文章で終わります。
森のこわさは、すっかり消えていました。じっと見つめ、耳をすませば、森をさまざまな物語を聞かせてくれるようでした。ぼくの目には見えないけれど、森はゆっくり動いているのです。
森をしばらくの間、探索し、森の様子が分かることで、森に受け入れられたようです。
<形式段落>
形式段落は、全部で25段落です。
形式段落毎の簡単な内容は、次の通りです。
① 朝の海をカヤックで進むと、きりの切れ間から原生林の森がぼんやり見えてくる。
② ハクトウワシのさえずり。サケが飛び上がった後、突然、ザトウクジラが現れる。
③ 不意に、ハクトウワシがまい上がり飛び去る。ぼくがこの森に近づくのを見ていたのだ。
④ やがて、カヤックが砂はまに乗り上げ、森はおおいかぶさるようにせまってくる。
⑤ はまべに沿って歩くと、だれかが通ったように草のしげみが割れ、森へ続いている。
⑥ 巨木の間をぬけ森に入ると夕暮れのように暗くなる。見わたすかぎりコケにおおわれている。
⑦ ぼくが立つ地面はかすかな道になっている。土の上の大きな足あとでクマの道だとわかる。
⑧ 周りを見回し、しばらく考える。ぼくはクマの道をたどり、森に入ってゆくことに決めた。
⑨ この森は北に広がる氷河まで続く。気の遠くなるような時間をかけて森ができあがったのだ。
⑩ 森の木がぼくを見つめていた。ときどき立つように根元に穴のあく気味の悪い大木があった。
⑪ 辺りを見わたし耳をそばだてていると、自分がクマになり、森を見ているような気になった。
⑫ 「もしクマが反対から来たら、そっと道をゆずればいい。」そんなことを考え始めていた。
⑬ ふと気がつくと、道に大きな黒いかたまりがある。近づき、クマの古いふんだとわかる。
⑭ おどろいたことにふんから白いキノコがのびている。厳しい自然では栄養分をむだにしない。
⑮ クマの道は、分かれ道が多くなる。倒木は、森にかかる橋のようで、リスの気分で歩く。
⑯ 水の音が聞こえてくる。視界が開け、森の中を流れる川に出る。水の流れは黒く見える。
⑰ 水を飲もうとして、川底の色がサケの大群だと分かる。川に入り、サケをつかもうとする。
⑱ ふっと前を見ると、対岸の岩の上からクロクマがぼくを見ている。あわてて岸にかけ上がる。
⑲ 一生を終えたサケがたくさん流れてくる。「サケが森を作る。」アラスカの古いことわざだ。
⑳ ぼくは、川をそっとはなれ、再び森の中へ入っていく。
㉑ 不思議な光景に出会う。地面に横たわる古い倒木から巨木が一列に並んでのびている。
㉒ 昔、一本のトウヒの木が死んだが栄養をもっていた。幹の上の種子が栄養をもらい成長した。
㉓ それでやっと分かった。森の中で見た根が足のように生えた不思議な穴は倒木のあとだった。
㉔ 目の前の倒木は、今なお栄養を与え続けているようだが、いつかは消えてゆくのだ。
㉕ 森のこわさは消えていた。じっと見つめ耳をすませば、森は物語を聞かせてくれるようだ。
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<意味段落>
ここでは、7つの意味段落に分かれていると考えてみることにします。
①段落:はじめ(序論):原生林の入り口
深いきりに包まれた朝の海をカヤックで進みます。オールを止めると、ミルク色の世界の中で動かなくなります。きりの切れ間から、辺りを取りまく山や森がぼんやり見えています。たくさんの島々の間を通り、深い入り江のおくにきました。ここは、南アラスカからカナダにかけて広がる、原生林の世界です。
②~④段落:なか1(本論1):さまざまな音
じっとしていると音が聞こえます。ハクトウワシの小鳥のようなさえずり。ボチャン、一ぴきのさけが飛び上がります。そこに、不思議な音。シューッ、シューッ。突然、きりの中から巨大な黒いかげ、それは、広い海原にいるはずのザトウクジラでした。再びカヤックをこぎます。バザッ、バザッ、ハクトウワシがまい上がります。カヤックが、砂はまに乗り上げると、森がせまってきました。巨木やおいしげる樹林が、ぼくが森に入ることをこばんでいるようです。
⑤~⑩段落:なか2(本論2):クマの道
はまべに沿って歩くと、だれかが通ったように草のしげみが割れ、森へ続いています。巨木の間をぬけ森に入ると夕暮れのように暗くなります。見わたすかぎりコケにおおわれている。ぼくが立つ地面はかすかな道になり、森のおくへ続きます。土の上の大きな足あとでクマの道だとわかりました。周りを見回し、しばらく考えます。気持ちが落ち着き、少し勇気が出てきます。ぼくはクマの道をたどり、森に入ってゆくことに決めます。この森は北に広がる氷河まで続きます。気の遠くなるような時間をかけて森ができあがってきました。森の木がぼくを見つめているような気がします。ときどき気味の悪い大木があります。足で立つように根が生え、その間に大きな穴があります。あれは、なんなのでしょう。
⑪~⑭段落:なか3(本論3):白いキノコ
辺りを見わたし、耳をそばだてていると、自分がクマになり、森を見ているような気になります。「もしクマが反対から来たら、そっと道をゆずればいい。」そんなことを考え始めます。ふと気がつくと、道に大きな黒いかたまりがあります。近づき、クマの古いふんだとわかります。おどろいたことに、ふんから白いキノコがたくさんのびています。いつか北極圏のツンドラで見た、古い動物の骨の周りにさく花々を思い出します。厳しい自然ではわずかな栄養分もむだにしないのです。
⑮~⑲段落:なか4(本論4):サケが森を作る
クマの道は、分かれ道が多くなります。倒木は、森にかかる橋のようで、ところどころ、アカリスがトウヒの実を食べたからが積まれています。リスになった気分で歩きます。水の音が聞こえてきました。視界が開け、森の中を流れる川に出ます。水の流れは、川底の岩の色なのか黒く見えます。水を飲もうとして、川底の色がサケの大群だと分かりびっくりします。川に入り、サケをつかみます。強い力で、ばねのように身を曲げ、はじけるようにぼくの手から飛びぬけていきます。何度も同じことを繰り返します。ふっと前を見ると、対岸の岩の上からクロクマの親子がぼくを見ています。あわてて岸にかけ上がります。上流にも下流にも、クマがあちこちにいます。一生を終えたサケがたくさん流れてきています。「サケが森を作る。」アラスカの古いことわざです。産卵を終えた無数のサケが、森の自然に栄養をあたえるからです。
⑳~㉔段落:なか5(本論5):不思議な木ができた理由
ぼくは、川をそっとはなれ、再び森の中へ入っていきます。不思議な光景に出会います。地面に横たわる古い倒木から巨木が一列に並んでのびています。次のような物語が思いつきます。昔、一本のトウヒの木が年老いてたおれます。木は死にましたが、たくさんの栄養をもっていました。幹の上に落ちた幸運なトウヒの種子が栄養をもらい、長い時間をかけて成長しました。それでやっと分かりました。森の中で見た根が足のように生えた不思議な穴は倒木のあとだったのです。目の前の倒木は、今なお栄養を与え続けていますが、いつかはすっかり消えてゆくのです。
㉕段落:おわり(結論):森の物語
森のこわさは消えていました。じっと見つめ耳をすませば、森は物語を聞かせてくれるようです。目には見えないけれど、森はゆっくり動いています。
<大事な言葉>
きり、カヤック、南アラスカ、原生林、ハクトウワシ、サケ、ザトウクジラ、巨木、樹林、倒木、コケ、地衣類、氷河期、北極圏、ツンドラ、アカリス、トウヒ、クロクマ
<表現の工夫>
「問いかけ」
この説明文には、いくつかの問いかけが出てきます。
・はまべに沿ってしばらく歩くと、だれかが通ったように草のしげみが割れ、そのまま森の中へ続いているのに気づきました。いったいだれがきたのだろう。
しばらくして、土の上の大きな足あとを見て、クマの道だとわかります。
・まるで、足で立っているように根が生え、その間に穴が空いているのです。あれは、いったいなんなのだろう。
その答えは、文章の最後の方に出てきます。
・森の中でときどき見かけた、根に足が生えた不思議な姿の木のことです。それは、栄養をあたえつくして消えた倒木のあとだったのです。
これらの疑問文があることで、まるで推理小説を読むような楽しみが生まれてきます。
説明文の教材研究(8) 列挙 反復 問いかけに進む(内部リンク)
「比喩」
この説明文では、いくつかの比喩を使った説明をしています。次のような表現です。
・やがて、カヤックが砂はまに乗り上げると、森は、おおいかぶさるようにせまってきます。
・森の木々が、じっとぼくを見つめているような気がしました。
・いつのまにか、まるで、自分がクマの目になって、この森をながめているみたいなのです。
このような比喩表現を使うことで、全く知らない原生林の森への理解が、少し容易になります。
説明文の教材研究(9) 比喩 数量化 程度差に進む(内部リンク)
「引用」
この文章では、次のような引用があります。
・「サケが森を作る。」
アラスカの森に生きる人たちの古いことわざです。産卵を終えて死んだ無数のサケが、上流から下流へと流されながら、森の自然に栄養をあたえてゆくからなのです。
引用(権威者の文言、格言など)することによって、述べようとすることの信頼性がより強められています。
説明文の教材研究(6) 引用に進む(内部リンク)
「写真」
この説明文には、8枚の写真が出てきます。
言葉で説明することに加えて、写真を使って視覚的に表現することで、筆者の伝えたいことがよりよくわかるようになっています。
<要旨>
この説明文では、「森は、長い長い年月をかけて、死んだ命が新しい命の栄養になることで物語を作っている」ということ、あるいは、「自然の力強さ」や「森やそこに住む生き物の生命力」ということが、写真と文章を使って書かれていると思います。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「説明文の教材研究」で取りあげたいくつかの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
⭐️ ⭐️
この教材は、「私と読書」という単元に載っている教材です。
私と本:ブックトーク 読書のすすめ(11)に進む(内部リンク)
なお、説明文に関係する次の項目についても、併せて読んでください。
説明文の教材研究(1) 教材研究の視点に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(2) はじめとおわりに進む(内部リンク)
説明文の教材研究(3) 文章の構成に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(4) 段落関係と要点に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(5) 大事な言葉と要約に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(7) 表現の工夫(対比)に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(10)なぜ教材研究をするのかに進む(内部リンク)
説明文の指導の仕方(1)指導計画に進む(内部リンク)
説明文の指導の仕方(10)に進む(内部リンク)
⭐️ ⭐️
他の説明文の教材分析も併せてお読みください。
時計の時間と心の時間 教材分析049に進む(内部リンク)
メディアと人間社会 教材分析013に進む(内部リンク)
大切な人と深くつながるために 教材分析014に進む(内部リンク)
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想像力のスイッチを入れよう 教材分析015に進む(内部リンク)
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