「イースター島にはなぜ森林がないのか」の教材分析について知りたいです。
よい授業をするためには、ていねいな教材研究をすることが大切です。
しかし、国語の教材の分析をするのは時間がかかります。
そこで、大まかな教材分析例を提示することにします。
今回は、「イースター島にはなぜ森林がないのか」です。
イースター島にはなぜ森林がないのか:教材分析
🟠イースター島にはなぜ森林がないのか:教材分析
この教材は、東京書籍の6年生の教科書に掲載されている説明文です。
<作者>
鷲谷いづみ(わしたに・いづみ)作
出典:この教科書のために書き下ろされたものです。
鷲谷いづみさんについて
1950年(昭和25年)に東京で生まれました。日本の生物学者です。
東京大学理学部を卒業後、東京大学大学院理学系研究科を修了されました。
筑波大学の講師、助教授を経て、東京大学大学院農学生命科学研究科の教授をされていました。その後、中央大学理工学部の教授もされていました。
みどりの学術賞、日本生態学会功労賞などを受賞されています。
絶滅危惧植物の生態や、保全方法について研究をされています。環境保全の大切さを訴える著作がたくさんあります。
<題名>
題名は「イースター島にはなぜ森林がないのか」です。
題名そのものが疑問文になっていますので、イースター島に森林がない理由について書かれていることがよくわかります。
イースター島を知らない子どももいるかもしれませんが、大きなモアイ像について知っている子どももいると思います。
<はじめとおわり>
○ はじめ
最初に、「チリのイースター島は、首都サンティアゴから西に約三千八百キロメートルはなれた、太平洋にうかぶ絶海の孤島である。」と書かれています。そして、イースター島に関する説明が続きます。
○ おわり
最後に、「祖先を敬う文化はさまざまな民族に共通であるが、数世紀後の子孫の幸せを願う文化は、それほど一般的ではないのかもしれない。しかし、今後の人類の存続は、むしろ、子孫に深く思いをめぐらす文化を早急に築けるかどうかにかかっているのではないだろうか。」と書かれています。
最後の段落には、筆者の強い主張が書かれています。
説明文の教材研究(2) はじめとおわりに進む(内部リンク)
<形式段落>
形式段落は、全部で27段落です。少し長くなりますが、形式段落毎の簡単な内容は、次の通りです。
① チリのイースター島は、太平洋にうかぶ絶海の孤島で、モアイ像で有名な火山島である。
② この島には森林が見られないが、遺跡調査では、西暦四〇〇年ごろは森林におおわれていた。
③ イースター島の森林が失われたのは、二つの調査から次のような流れだったと考えられる。
④ 約千六百年前、ポリネシア人が上陸したとき、島はヤシ類の森林で覆われていた。
⑤ ほ乳類がいなかったのは、火山の噴火でできた島に泳きつける動物がいなかったからだ。
⑥ ポリネシア人は島にたどり着いた初めてのほ乳類で、同時に食りょう用のラットも上陸した。
⑦ 逃げ出したラットは島で野生化し、島中に広がり、わざわいをおよぼすことになる。
⑧ 森林が失われた原因は、上陸した人々がさまざまな目的で森林を切り開いたからである。
⑨ まず、農地にするために森林が切り開かれた。
⑩ 安定した食りょう生産のために農地の開こんが必要で、そのために樹木が減少した。
⑪ 次に、丸木船を作るために、森林から太い木が切り出された。
⑫ ヤシの木を使い丸木船を作り、サメなどの魚や近くの無人島の野鳥を食りょうにした。
⑬ さらに、火山岩の巨石に彫刻をほどこす宗教行事であるモアイ像の製作がさかんになった。
⑭ モアイ像は高さが三から十メートルあり、重さは三から十トンにもおよぶ。
⑮ モアイ像は、火山岩をけずって作られるが、モアイ像を運ぶために森林がぎせいになった。
⑯ イースター島は、豊かな森林の恩恵で、人口が七千人にも達したと推測されている。
⑰ しかし、その繁栄は長く続かなかった。木が切りつくされたからである。
⑱ 森林から木を伐採しても新芽が出て生育すれば森は再生するが、森林が再生しなかった。
⑲ 人間とともに上陸し、野生化したラットが、ヤシの木の再生をさまたげたらしいのだ。
⑳ ラットには天敵もいなかったので、爆発的にはんしょくし、ヤシの実を食べつくした。
㉑ このようにして、ヤシの森林は、人間とラットによって完ぺきに破壊されてしまった。
㉒ 1972年に、ヨーロッパ人が訪れたとき、島の繁栄も、豊かな森林も過去のものだった。
㉓ 農業生産だけでなく、丸木船を作る材木もなく、魚や海鳥もとれなくなっていた。
㉔ 島は深刻な食りょう不足で、食りょうをうばい合い、争い、人口も三分の一まで減った。
㉕ 文明が豊かな自然のめぐみから発達するのであれば、自然利用の誤りは悲惨な運命になる。
㉖ モアイ像は祖先を敬うために作られたが、子孫のことは考えなかったのだろうか。
㉗ 祖先を敬うことも大切だが、人類の存続は、子孫の幸せを願う文化を早急に築くことにある。
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なお、この部分については、リライト教材として、漢字に読みがなをつけたものを、姉妹ブログの「よみもの」に用意しています。
イースター島にはなぜ森林がないのか・要点に進む(外部リンク)
説明文の教材研究(4) 段落関係と要点に進む(内部リンク)
<意味段落>
ここでは、5つの意味段落に分かれていると考えてみることにします。
①~③段落:序論(はじめ)
チリのイースター島は、太平洋にうかぶ絶海の孤島で、モアイ像で有名な火山島です。現在、この島には森林が見られませんが、遺跡調査では、西暦四〇〇年ごろは森林におおわれていたみたいです。イースター島の森林が失われたのはなぜでしょうか。二つの調査から次のような流れだったと考えられます。
④~⑦段落:本論1(なか1)
約千六百年前、ポリネシア人が初めてこの島に上陸したとき、島はヤシ類の森林で覆われていました。ほ乳類がいなかったのは、火山の噴火でできた島に泳きつける動物がいなかったからです。ポリネシア人は島にたどり着いた初めてのほ乳類でした。同時に食りょう用のラットも上陸して、逃げ出したラットは島で野生化し、島中に広がり、その後わざわいをおよぼすことになります。
⑧~⑰段落:本論2(なか2)
森林が失われた原因の1つめは人間です。
上陸した人々が3つの目的で森林を切り開いたからです。
1つめは、農地にするために森林が切り開かれたからです。安定した食りょう生産のために農地の開こんが必要で、そのために樹木が減少しました。
2つめは、丸木船を作るために森林から太い木が切り出したからです。ヤシの木を使い丸木船を作り、サメなどの魚や近くの無人島の野鳥を食りょうにしました。
3つめは、火山岩の巨石に彫刻をほどこす宗教行事であるモアイ像の製作がさかんになったからです。モアイ像は高さが三から十メートルあり、重さは三から十トンにもおよび、もっと大きいものがあります。モアイ像は、火山岩をけずって作られるが、モアイ像を運ぶために森林がぎせいになりました。
イースター島は、豊かな森林の恩恵で、人口が七千人にも達したと推測されていますが、その繁栄は長く続きませんでした。木が切りつくされたからです。
⑱~㉔段落:本論3(なか3)
森林が失われた原因の2つめはラットです。
普通、森林から木を伐採しても新芽が出て生育すれば森は再生しますが、森林は再生しませんでした。
人間とともに上陸し、野生化したラットが、ヤシの木の再生をさまたげたからです。ラットには天敵もいなかったので、爆発的にはんしょくし、ヤシの実を食べつくしました。
このようにして、ヤシの森林は、人間とラットによって完ぺきに破壊されてしまいました。
1972年に、ヨーロッパ人が訪れたとき、島の繁栄も、豊かな森林も過去のものでした。農業生産だけでなく、丸木船を作る材木もなく、魚や海鳥もとれなくなっていました。
島は深刻な食りょう不足になり、食りょうをうばい合い、人々は争い、人口も三分の一まで減りました。
㉕~㉗段落:結論(おわり)
高度な技術や文明が豊かな自然のめぐみから発達するのであれば、イースター島の歴史から学ぶことができます。
自然利用の誤り、健全な生態系を傷つけ、文化も人々の心もあれ果て、人々は悲惨な運命を辿ることになります。
モアイ像は祖先を敬うために作られましたが、人々は、子孫のことは考えなかったのでしょうか。祖先を敬うことはとても大切です。しかし、今後の人類の存続は、子孫の幸せを願う文化を早急に築くことができるかどうかにあるといえます。
<大事な言葉>
イースター島、チリ、絶海、モアイ像、火山島、遺跡、花粉分析、ポリネシア人、ヤシ、ほ乳類、ラット、堆積物、丸木船、無尽蔵、伐採、宗教文化、てこ、恩恵、繁栄、森林破壊、外来動物、破壊、文明、歴史、生態系、悲惨、運命、祖先、子孫、民族、存続
なお、私が子ども用に作っている「よみもの」で、「モアイ像」について簡単な文を書いています。よければ、お読みください。
モアイ像 Moai Statueに進む(外部リンク・よみもの)
説明文の教材研究(5) 大事な言葉と要約に進む(内部リンク)
<表現の工夫>
「問いかけ」
この説明文では、題名からして、「イースター島にはなぜ森林がないのか」と書き、疑問そのものが題名になっています。
さらに形式段落の3段落でも、同じような問いかけが書かれています。
・イースター島の森林は、なぜ、どのようにして失われてしまったのだろうか。
このような問いかける言い方(疑説法)によって、読み手の知的好奇心が高まります。
説明文の教材研究(8) 列挙 反復 問いかけに進む(内部リンク)
「数量化」
この説明文では、いろいろなところに具体的な数量が出てきます。島の位置や大きさ、島の歴史や島の人口、モアイ像の大きさなどです。
このような具体的な数量化されたデータを根拠にすることによって、述べようとすることの確かさが強まります。その上、この説明文では、より正確な情報を得るために、花粉分析という科学的な方法をとっていることも説明しています。
説明文の教材研究(9) 比喩 数量化 程度差に進む(内部リンク)
「写真と地図」
この説明文には、扉のページを含めて3枚の写真と1つの地図があります。
モアイ像とモアイ像の後ろには森林がないことを写真で示すことで、森林が失われていることがよくわかるようになります。
また、世界地図を載せることで、日本とイースターとの位置関係がよくわかるようになっています。
言葉で説明することに加えて、具体的的な写真や地図があることで、イースターのことがよりよくわかるようになっています。
<要旨>
この説明文では、「イースターの繁栄と衰退という事実を通して、今後人類が同じような道をたどらないように、数世代後の子孫の幸せを願う文化を、今の人類が築くことの大切さ」について書かれていると思います。
<まとめにかえて>
この教材分析は、このブログに載せている「説明文の教材研究」で取りあげたいくつかの視点に基づいて行ったものです。
教員のみなさん1人1人が自分で行う教材研究の参考になれば幸いです。
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「学校のマナー」に進む(外部リンク)
なお、説明文に関係する次の項目についても、併せて読んでください。
説明文の教材研究(1) 教材研究の視点に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(3) 文章の構成に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(6) 引用に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(7) 表現の工夫(対比)に進む(内部リンク)
説明文の教材研究(10)なぜ教材研究をするのかに進む(内部リンク)
⭐️ ⭐️
説明文の指導の仕方(1)指導計画に進む(内部リンク)
説明文の指導の仕方(2)2次と3次の指導に進む(内部リンク)
説明文の指導の仕方(3)指導計画の実際に進む(内部リンク)
説明文の指導の仕方(4)1次の指導の実際に進む(内部リンク)
説明文の指導の仕方(5)2次の指導の実際①に進む(内部リンク)
説明文の指導の仕方(6)2次の指導の実際②に進む(内部リンク)
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説明文の指導の仕方(9)3次・書く時の指導に進む(内部リンク)
説明文の指導の仕方(10)に進む(内部リンク)
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他の説明文の教材分析も併せてお読みください。
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